第7話「魔王城の戦い 魔法編」
「ほら、前からモンスターが来てるぞ。武器とか使わずに戦えよ」
前から二足歩行するイノシシみたいなモンスターが来ていた。
「仕方ないわね。じゃ、とっておきの魔法でも見せてあげるわ」
どこからか出した魔導書のようなものを読みながら魔法を呟き、イノシシのモンスターに向けて手をかざす。
すると、黄色く光る魔法陣のようなものがマリアを包み込む。
「石頭比べ!」
となんだか変な言葉を唱えると、イノシシのモンスターが宙に浮かんだ。そしてそれと同時に俺も宙に浮かんだ。
「は?は?おい、ちょっと待っ――」
宙に浮かんだ俺とイノシシのモンスターは、そこそこのスピードで動かされ、頭と頭がごっつんこした。
「……っ!!」
あまりの痛さに地面の上でのたうち回った。イノシシのモンスターは、鉄の兜をかぶっていた訳じゃないが、それでもかなりの固さだった。
「これは、二匹以上の生き物の頭の固さをぶつけて比べる魔法よ」
そんな中、マリアが冷静に魔法の説明をする。
イノシシのモンスターはいつの間にか消えていた。俺の頭の方が固かったということか。別に嬉しくはないが。
こいつはアイテムだけじゃなく、魔法もおかしなのしか使わないのか。
俺が戦えるなら、代わりに戦うところだが、レベル5の『名探偵』にはどうしようもない。(ちなみに、地道にスライムとか弱めのモンスターを倒して、レベル5まであげたのだ)
「てめー俺を殺す気か!」
回復魔法をかけてもらい、痛みが引いた俺はマリアに詰め寄る。
「大丈夫だって。生き返りの葉っぱもたくさん持ってるから。それに回復魔法も使えるし」
「いや俺ダメージ受ける前提じゃねーかよ。頼むから俺に迷惑が掛からないようにしろよ」
「しょうがないわね。じゃ、今度は……」
前から五匹くらいのコウモリっぽいモンスターが飛んできた。
「えいっ!」
短めの魔法を唱えると、青く光る魔法陣が出現した。
が、特に何か攻撃してるようには見えない。
「……?なあ、今の呪文は?」
「これは半径五メートルの空気中のマイナスイオンを増やす魔法よ」
「それなんか効果あんの⁉つーかこの世界にもマイナスイオンってある―ぐおっ」
マイナスイオンでモンスターがやられるはずもなく、何事もなかったようにぶつかって来た。
しかも五匹とも俺に体当たりをかましてきた。
「なんで俺だけに攻撃してくるんだよ……」
マリアは、ダメージをおった俺に回復魔法をかけつつ、五匹のコウモリモンスターを風の魔法で倒すというわりと高度なことをやってのけていた。
「倒せるんなら初めから倒せよ……」
「ほら、使ったことなかったから、試したかったのよ」
「使っても実際にマイナスイオンがあるかどうか分からねーだろ」
マリアのへんてこ武器に魔法に振り回されながら、魔王の間に到着したのは一時間後のことだった。
魔王城の五階。薄暗い一本道の廊下を歩いていくと、少しさびた鉄の扉があった。その前に立つと、俺の方を振り返り、
「さ、ついに魔王の間よ。気合入れていこう!」
と笑顔で俺の方を見るマリア。
俺はというと、ダメージ自体は回復魔法で無くなっていたが、疲労はとてもたまっていた。
そんな俺にかまうことなく、マリアは両手で扉を押し開ける。
魔王の間でまず目についたのは、赤色のじゅうたんだった。扉の先には、王様とかが座っていそうな、背もたれの高い椅子が置いてあった。その椅子には洗濯したてのような、きれいな赤いシーツがかぶせてあった。
そして――その椅子から少し離れたところに人が倒れていた。
その人物は、俺からは背中しか見えないが、なにやら高級そうなマントを羽織っていて、かなり魔王ぽかった。
問題は、その人物の背中に長くて大きな剣が突き刺さっていたことだった。
「……は?」
「……へ?」
俺とマリアは気の抜けた声を出した。
魔王の間にいるはずであろう魔王の姿はなく、そこには全く動かない、剣の刺さった人物がいるだけだった。
かなり長い間かたまっていた俺とマリアだったが、ただ事ではないことが起こっているとようやく認識した俺たちは、ゆっくりとじゅうたんの上に倒れている人物に近付く。
倒れた人物は魔王の間の扉の反対側を向いてうつ伏せに倒れていたため、回り込み顔を覗き込む。
見開かれた目には既に生気はなく、だらしなく開かれた口からは唾液がたれ、じゅうたんを汚していた。
剣の突き刺さった背中は、黒っぽいマントのせいで血の色は見えなかったが、近づくとなんとなく血の臭いがした。
そして俺は倒れた人物の腕に触れる。
そしてレベル5で習得した“名探偵スキル”を発動させた。
“名探偵スキル”といっても、なんのことはない、生物の生死を判断することができるスキルである。よく名探偵が倒れた人の脈をとり、死んでいるかどうかを判断するシーンがあるが、そこからできたスキルなんだろう。
そしてその“名探偵スキル”を発動させた俺は、後ろで不安そうにいていたマリアのを向き、こう告げた。
「……死んでる」
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