第5話「そうだ、魔王城に行こう」

 初ダンジョンから一週間後。 

 昼近くまで寝て、起きたら街中をぶらぶらしてなにかうまいものを食う、という気ままなで自堕落な生活に慣れてきた頃。

「魔王城に行こっか」

 屋敷に帰り、やわらかいソファーの上でゴロゴロしている俺に、マリアがそう言った。

「魔王城?魔王っていないんじゃないのか」

 たしか異世界に来た初日にそう言われたはずだ。

「人を襲うような魔王はね。でも、魔王と呼ばれる存在自体はいるわよ」

「ふーん。人を襲わない魔王がいて、その魔王が住んでいるところが魔王城ってことか」

「そう。そもそも、この世界は大きく分けて五つの大陸からなるの。そしてその大陸ごとに魔王城が存在するの」

「へー……で、その魔王城って簡単に行けるものなのか?」

「まあ、魔王城に行くまでに、超えなくちゃいけないダンジョンがあったりするけど、ここの大陸の魔王城は、低レベルの冒険者でも行きやすいの」

 いくつかある魔王城だが、それぞれに魔王がいるらしい。

「で、魔王城に行ってなにするんだ?魔王と戦うのか?」

「そうよ。そしたら魔王を倒した証明書がもらえて、職業の選択肢とかが広がるの」

 魔王を倒すということは、簡単に言ってしまえば、俺の元いた世界で言う資格を得るみたいなことらしい。

 それだけでもずいぶん思っていた異世界とは違うが……

「……職業の選択肢が広がるのか……」

 それはものすごく惹かれる。だってせっかく異世界にきたのに、『名探偵』という訳の分からない職業になってしまった。

 もっと異世界らしい職業……『賢者』とか『騎士』とかになって冒険してみたい気はする。

 でもバトルとかめんどくさいな、と思っている俺もいる。チートと呼ばれる力でもあれば別だろうが、スライムですら手こずる俺が魔王城に行っても、瞬殺される未来しか見えない。

 そんな俺の考えを読んだのか、

「あ、大丈夫よ?魔王との戦いで死んだりとかしないから」

「でも戦うわけだろ?」

「まあね。でも魔王城には特殊な結界が張ってあって、モンスターや魔王にやられても、自動的に入口に飛ばされるの」

 ゲームとかでよくある、全滅したら教会に自動的に送られるみたいなことらしい。

「まあ、痛みとかダメージはあるわけだから、バトル自体は真面目にやった方がいいけど、割と気楽にいけるはずよ」

 気楽に行ける魔王城ってなんだろう。そう思ったが、深く考えたら負けな気がしてきた。

 ま、とりあえず行ってみるか。

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