第27話 戦闘ルート:異端者
ドン、ドン、という私には懐かしい音が洞窟の中に反響する。
あれだけ音や衝撃の注意はしたけれど、ここまでのものだとは思ってなかったみたいで、イルダールとアルビンは構えた腕をすこし上に跳ね上げた格好のままで止まっていた。
「大丈夫?」
心配になった私が思わずイルダールに問いかける。
「まさに……雷鳴」
でも、イルダールの口からこぼれた言葉は私の質問に答えたわけじゃなく、思ったことがそのまま出てきた感じだった。
「腕は?痛まない?」
まだどことなくぼんやりしている2人の腕をざっとチェックして、とりあえずパッと見でわかるような捻挫なんかはなさそうなのを確認して、私は2人に聞いた。
そんなに大事でなくても、絶対衝撃で指も手もジンジンしてるはずだし、下手したら筋をやっちゃってるかもしれないから。
「あ……はい」
「ほんとに?無理しないでね。あ。もう腕は降ろしていいから」
私は銃を構えたままの2人の腕をそっと下に降ろす。
元の姿勢に戻ることも忘れてたみたいだ。
アルビンなんか、そうされてもまばたきもしない。
まあそうだよね。
剣と弓の世界に銃。
私だって同じ目にあったら、同じようなリアクションをすると思う。
意味わかんないもん。こんなちっちゃなものがあんな大きな音を立てて、あんな衝撃を生み出すなんて。
でもここで私が慌てたら2人まで慌てちゃうから。
私は先生。先生。
自分にそう言い聞かせて、なるべく平然とした顔を作りながら2人に次の指示をする。
「じゃ、間違って撃たないようにさっき教えた通りに安全装置を動かすこと。やり方、覚えてる?」
2人がうなずいた。
なんだか、言葉を忘れちゃったみたいだ。
まあいいや、ちょっと放っておいて落ち着いてもらおう。
混乱した頭の中は自分で整理するのがいちばん!
「さて、当たってるかなー」
とりあえず私は2人から離れて、洞窟の奥に設置された木の板を見に行く。
いま使ったクレー射撃に使う銃は基本散弾銃で、一回撃つと小さな弾が何発も標的に向かう。
イルダールは左上を20発くらい貫通。
アルビンは端っこを砕いただけだけど、それでも、はじめて実弾を撃った人間だとしたら充分及第点。
「2人ともいい感じ!合格!」
私がそう声をかけると、まだだいぶぎくしゃくした動きだけど、それでも2人は板へと近寄ってくる。
「この穴を私が……?」
イルダールが、木に丸く開いた穴を不思議そうに撫でた。
まわりがささくれて、すこし焦げ目のあるそれは、弓で付けた傷とも全然違って見えるんだろう。
「そう」
「この木は私でも一刀で切り捨てるのは難しい固いものです。それをこれほど易々と……」
「言ったでしょ、弓より強いって」
「確かに弓よりよほど強い……これが戦場に入れば戦局などどれほど簡単に変わるか……」
イルダールが穴を何度も撫でる。
アルビンも、自分が砕いたあたりをおずおずと触っていた。
「ただ、どんなに強くても当たらなくちゃ意味がない。これ、扱いづらかったでしょ?うるさいし、手は痛いし」
答えはないけれど、無言は肯定だ。
2人の騎士は押し黙ったまま、自分たちが標的にしたものを見つめていた。
「だからこれは練習が必要なの。ちなみに今の私はこれくらい。私も実弾を撃ったことはあまりないから失敗しても笑わないでね。
じゃ、サキ、さっき頼んだの、投げてくれる?」
「いーよー」
洞窟の奥の端に移動していたサキが、ひらひらと手を振った。
それから、あらかじめ、合図をしたら思いっきり上の方に投げてね、と頼んでおいた木の塊を投げ始める。
正規の標的も射出機なんかないこの世界での苦肉の策だ。
これならすこしは、私が習ってきたクレー射撃に条件を近づけることができる。
次々に宙を舞う標的。
私はそれにタン、タン、タンと弾を当てていく。なるべく、なにも考えないように。
これはお兄ちゃんから教わったこと。
当てようとは意識するな。
ただ、自分と標的しかこの世界にいないんだと考えろと。
普段ならこれだけでほとんど皆中に持ってけるんだけど、今回は何発か外しちゃった……。
サキが手動で投げてくれてるから、普段相手にしてたクレー射撃の標的よりはずっとゆっくりのはずなのに……。
やっぱり実弾はきついなー。衝撃がすごいし、感覚がつかめない。早く慣れないと。もっと練習しなきゃ。
そのとき、私の中にあったのは練習していて調子が悪かった時のような、当たり前の気持ちだった。
でも、そんな私の姿を、イルダールとアルビンは今まで見たことがない目で見ていた。
それは___恐れだ。
彼らは私を怖がってる。
改めて、私はこの世界では異質なんだと気づかされた。
どれだけエーレンになりきろうとしても、この国のために何かをしようとしても、私の中には『由真』が残ってる。
それはいいことなんだろうか……悪いことなんだろうか……。
答えのない問いを抱えて、私はただ、弾丸を打ち尽くした銃を持って立ち尽くしていた。
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