フリーアルバイターオンザロード


「早くフルーツがふんだんに盛られたネオクリームパフェを持って来いよっ」

などと

わたしに向かって怒鳴る客

偽物の笑顔を貼り付けわたしはその応対をする

休憩室で殺すを連呼

へこむロッカー

だが生き物ではないので問題無し

何がネオクリームパフェ持って来いだよ

ぼけが

自分の面を鏡で確認してから言えっつーの

こんな時給ではやってられない

よっぽど店長にそう言ってやりたかったが我慢した

我慢

そいつは身体に良くない

わたしは我慢しすぎなんだと思う

適度に発散しないとこんな世の中では生きていけない

バイトが終わって帰る途中、珍しい草を発見した

「何だろう………初めて見るな」

家に帰って調べてみるとただの雑草だということが判明した

日本中の何処にでも分布している無価値な草

毎日は何も起こらないの繰り返し

生きていても全然、面白くない

こんなのってわたしだけなのかな?

「素敵な、ステーキですね」

今日の客はひどく不快だった

わたしがへらへらと笑うと

「面白くないなら笑わなきゃいいんだ!」

などと突如キレ始めた

面白いわけないだろうダボが!

頭の中でそいつを半身不随になるまで思いっきり殴りつけた

くたくたで帰宅

明日もきっとくたくたで帰宅

毎日くたくた

凭れ掛かるようにして玄関の扉を開けた

のそのそやって来た愛犬にささみフレーバーが混入されたディナーを与えた

なんだかわたしの夕食よりずっと豪華みたい

愛犬の頭をなでなでした

それをうざったそうに振り落とした

わたしは愕然とした

しかもそのあと愛犬がいきなり喋り始めたのだ

「やめてくださいよ………メシがまずくなりますから」

ぽかんとするわたし

わたしは今の言葉を頭の中で反芻した

(やめてくださいよ、メシがまずくなりますから)

だんだん怒りが込み上げてきた

敬語なんか使いやがって!

長年の付き合いで初めて喋る言葉がそれか!

愛犬はのそのそと来た時と同じようにわたしの視界から消えた

わたしは残された玄関で一人、泣いた

こんな時、電話、出来る友達が一人もいなかった

ねえ………

今日、愛犬が喋ったんだよ

でも愛犬はわたしのことなんか全然、好きじゃなかったんだ


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