初勤務


ブルドックを撫でる青年がいた

青年は主にブルドックを撫でる青年のようだった

部分の大部分がブルドッグを撫でることに費やされていて

それ以外の部分ももうすぐブルドッグを撫でることに追われる様子

青年のブルドッグは例外なく犬だった

犬の種類がブルドッグでそれが青年の撫でる行為によって撫でられているようだった

ブルドッグを撫でることによって得られる効果はブルドッグを撫でていない者にはわからなかった

だから想像で第三者がブルドッグを撫でたらどうなるだろうかと推測するのみだった

ブルドッグは青年に撫でられていたが

もしかしたら青年の体内に侵入した触手によってブルドッグが操作をしているのかもしれなかった

その証拠に青年の口元に不自然な涎の跡が見えた

もはや半身不随に近い青年

ブルドッグを撫でさせられることを余儀なくされた青年

おれはただの詩人だったから

脈絡を無視してぶった切ることにした

「ブルドックにソースをかけて今すぐ食え」

突き刺すように命令した

「たとえ上官の命令でもそれは出来ません」

青年は言った

なんだよおれって上官だったのかよ

青年はおれの返答を待つことも無くケチャップを掛けた

「自分はこっち派ですから」

ブルドックは抵抗を試みた

誰だって頭からケチャップを掛けられて食べられたくはない

だが青年の異常なまでの食欲を前にしてやがてはぐったりと成すがままになってしまった

もはやブルドッグは噛みつかれたい放題

青年は狂っていた

そして上官のおれも同様、狂っていた

狂っていないのは二酸化炭素ぐらいのものだった

「これが精神病棟なのかよ………」

初勤務でタナカアキオは現代社会の隠された闇をまざまざと見せつけられた気分だった

「でもおっかあ、おれ頑張るよ!」

叫んだ

社会の窓からは陰部が顔を出してこんにちはをしている


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