青春の終わり


おれはカンフーを習うことにした

どことなく前時代的な印象がおれの心を捉えたのだ

授業料は三回で一万円だった

3が1ならかなり安いのではないか

先生は主に安い玉子焼きやかっぱ巻きを猫に投げつけていた

「せんせー………そんなことしてて強くなれるんですか?」

「ならない」

せんせーは言った

えならないんですか?

「おれたちは本当に強くなれるんですか?」

「ならない」

その声には何の迷いも感じられなかった

「おれはただ頭の悪いガキ共を騙して金を貰いたい、それだけなんだよ」

先生は正直者だった

だからおれは先生を許すことにした

自宅に戻った

家族の一員であるネタキリがいた

ネタキリの食パンにジャムを塗ってあげるそれがおれの日課だった

「ぼそぼそ………」

何?

「ジャムが多い」

人の好意をなんだと思ってやがるんだよっ

早速、覚えたてのカンフー奥義を披露することになった

ネタキリの頭部がへっこんだ

おれは彼女の家へと出かけた

ピンポンを押して彼女の部屋へ入るといい匂いがした

すとんとベッドに腰かけた

彼女は何も質問されてないのにこくんと頷いていた

飲み物を取りに消えそして戻ってきた

おれの眼球はただじっと目の前の酸素を見つめていた

青春にゆっくりと幕が降ろされるのを感じながら


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る