第61話 ドライフルーツ

「それじゃアタシはザクロをシロップにするわ。後カリンも任せて頂戴。コーニャ始めるわよ」

「畏まりました」


 待ちきれないカレンはコーニャさんを伴って調理を開始した。まあ、作業するのは殆どコーニャさんだけど、ある意味一番大変なザクロの解体をカレンが率先して取り掛かる。

 実は、カレンはザクロの種を剥がす作業が好きだったりする。結構意外だが、地味で継続力を必要とする作業を得意としているのだ。


「セフィーちゃん、ウチと一緒にやろー。沢山お野菜持って来たよー」

「いいですよ。お野菜だとピクルスですね。私の故郷の物も試してみましょう」

「面白そうだな。アタイも手伝ってやるよ」


 ミミはセフィーさんに相当なついているようで、自分が持って来た荷物の所に引張ていく。

 エリザはそれを見て楽しそうに自分もそこに混ざるように近づいて行った。


「あれ? 俺らは?」

「ぼくたちも何処かに混ぜてもらいましょうか?」


 そして残ったのは男子組だ。

 一歩出遅れてしまった為に、取り残された男子組に選択しは残されていない。


「はい、はい、僕たちはドライフルーツ作りだよ」


 今日作るのは大きく分けてシロップ、ピクルス、ドライフルーツだ。

 そして、シロップとピクルスは取られたので、男だけでドライフルーツ作りになる。所謂男料理だ。


「ああ、それもあったな」

「そうでしたね。そして、一番量が多いです」

「「……」」


 そう、いくらお裾分けしたと言っても採取した果物は多い。更に各自で持ち寄った果物も追加されるので今回作る物の中で最も数が多い。

 一度今回ドライフルーツにする果物を並べてみると、昨日取った棗に加えて、みかん、いちじく、ぶどう、パイナップル、キウイ、リンゴ、桃、そしてマンゴーだった。

 そのまま乾燥させればいい棗と違って、持ち寄った果物は皮を剥いたり、薄くカットしたりする必要がある。

 それに乾燥させる時間も必要となる。流石に今日一日ではどうにもならないが、今日中に水分の殆どを飛ばして、数日陰干しする事で保存性の高いドライフルーツとなる。

 最初はオーブンで水分を飛ばす事で、短期間で乾燥させ腐敗を防ぐことができる。


「ま、まあ、基本は皮を剥くだけだから、そんなに大変じゃないと思うよ。……多分」

「まあ、文句を言っても仕方ねーからな。さっさと始めようぜ」

「ですね。数はそれ程無いので何とかなるでしょう」


 数は最大でも子供が六人で持ち運べる程度、どうにもならない数ではない。

 物によっては手で簡単に皮を剥ける。数を熟すのに手を抜けるところは極力手を抜く。


「それじゃ始めようか」

「おう、どうせなら綺麗に作ろうぜ」

「ザントは口だけじゃなくて手を動かしてくださいね」


 僕たちは雑談をしながら作業を始める。

 早く乾燥させる為に果物を一口大に切り分けるのだが、その形は様々だ。ブドウなどは房から外せばそれで終わりだが、キウイやリンゴは薄くスライスする必要があるし、マンゴーや桃は皮を剥く前に切り分けた方が早い。特に果肉の柔らかいものは優しく取り扱わないといけないので、早さばかり求めてもいられない。


「しっかし、始めちまったら意外とどうにかなるな」

「切り分けが簡単な物が多いですからね」

「そうだね。ただ一つだけ謎な果物もあるけど……」


 皆が持ち寄った物の中に、一つだけ見慣れない物が有った。確かカレンが持って来た物の中に入っていた果物だが、これまで見たことが有る物とは大きく違っていて、非常に皮が硬く、表面には小さな棘のようなものも付いている。

 それに、飛び出ている葉も固く尖っていて、かなり攻撃的な見た目をしている。カレンが言うにはパイナップルと言う南国の果物で、熟すと甘く美味しいらしい。


「これ、どうやって切ればいいんだ?」

「わかりません。食べられるのでしょうか?」

「カレンが持って来たんだから大丈夫じゃないかな? こういうのは知っていそうな人に聞けばいいよ」


 ここには丁度、南方出身の人が居るので、聞くのならこの人が一番だ。


「セフィーさん、ちょっといいかな?」

「はい、何でしょうか?」


 ミミとエリザ、二人と楽しそうに話すセフィーさんを少しお借りする。彼女達は手よりも口の方が滑らかに動くようなので、少しくらい時間を貰っても構わないだろう。


「ああ、パイナップルですね。切り分けるだけなら簡単ですよ。まず——」


 流石地元で採れる果物だけあって、セフィーさんは簡単に切り分けられる方法を知っていた。それに、この果物は色々なカットの仕方があるらしく、筒状にカットして漬けダレと一緒に肉を入れておくと柔らかくて美味しい肉になるらしい。尤も、その切り方には専用の器具が必要になるらしいので、今日は縦に八等分して芯を取り、一口大にカットして皮から切り離す簡単な方法をとることにした。


「聞いて来たよ」

「ああ、見てたぜ。てかセフィーさんの故郷の果物なんだな。ちょっと楽しみだぜ」

「南国のフルーツは美味しいと言われますしね。そう言えば、この桃みたいなマンゴーと言われる果物も南国のものらしいですよ」


 トムは手に持つマンゴーの中心から縦にクルリと一周切れ込みを入れて、切れ込みを境に逆方向に捻ると種と果肉が綺麗に分かれた。


「でも、マンゴーの汁はかぶれるから、あんまり肌に当たらないようにした方が良いらしいよ」

「……アルム、そういう事はもっと早く言ってください!」


 漆の仲間であるマンゴーの汁を長時間肌に付着させるのはあまりよくない。

 マンゴーを捻った時に、盛大にその汁を手に付けたトムが、嫌そうな顔をしながらその汁を拭う。

 あえて作業が終わるまで黙っていたのは口にしない方がいいだろう。


「それにしても案外早く終わったな」

「そうだね。みんなでやればあっという間だったね」

「ぼくはなんだか手が痒い気がします……」


 トムが厄介な果物を率先してカットしてくれたから、当初考えていた時間よりも早く終わった。

 後は綺麗に並べてオーブンに入れるだけだ。


「僕は火の準備するから金網に並べてもらえる?」

「おう、任せとけ」

「かなりの量ですが、一度に入りますか?」

「いや、流石に全部は無理だね。取り敢えず、日持ちしないカットしたやつを優先しようか」


 我が家のオーブンは一般家庭に比べて大きくて立派な物を導入している。

 それでも、今回ドライフルーツにする全ては入らないので、ある程度厳選して優先順位を付けないといけない。残った分は外に干すか、後日オーブンで乾燥するしかない。

 そしてオーブンに入れる火は、長く安定した熱を出す炭を使う。薪よりも火が安定するので、長時間の調理にはうってつけだ。唯一の不満は火が付きにくい事くらいだろう。


「おーい、並べ終わったぜ。オーブンは温まったか?」

「うん、入れていこうか」


 炭になんとか火を移して、オーブン内の温度を程よく温める。熱すぎると果肉に火が入って台無しになってしまうので、慎重に調整しなければならない。適度に空気を入れつつ、直接炭に当たらないように絶妙なポジション取りが求められるのだ。


「水分が多い物を下にしてね。垂れた果汁で味が混じっちゃうから」


 この順番を間違えると、いつまでたっても乾燥が進まないので注意をしながらオーブンにセットしていく。

 熱気が噴き出すオーブンに全て並び終えたら、鉄の扉を閉めて後は待つだけ、偶に様子をみてやるだけでいい。


「あー、ひと段落だな。向こうはどうだ?」

「まだみたいですね。少し様子を見に行ってみましょう」


 ザントとトムはセフィーさん達が気になるのか、作業中もチラチラ見ていたからそちらに混ざりたいらしい。

 一応僕たちの作業は一通り終わったので、好きにしたらいいと思う。

 僕の方も、オーブンに張り付いている意味はないので他の作業がどうなってるか見に行こう。


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