ランボル・ギーニに乗ったイケメン

嬌乃湾子

第1話

三加世利也(みかぜとしや)の愛車はランボルギーニである。大体、高級車に乗っていると人は高飛車になってきて公共の道路をぶっ飛ばす等、金もってんだから自分は偉いんだ!みたいな感じの輩が多くなってくるのが世の常なんだけど、彼はこの車に乗っても常に紳士であった。彼の燦然と輝くイエローカラーのランボルギーニは、道を渡ろうとするおばあちゃんがいると車を止め、曲がる直前にウィンカーは寸前で出すとかしない。他の車に抜かれても切れることも無く、渋滞でも運転席にいる彼の顔を見た女子は、その爽やかで素敵さに一気にときめいた。


その中の一人、朝の通勤途中に毎日同じ道路を走っている会社員の奈津子も同じだった。



「そんなにイケメンだったの?」


呆れた顔で奈津子に目を向けたのは彼女と同じ職場の同僚の春美だった。奈津子の目はまるでフィギュア・スケートの羽生選手を見ているかのようにとろんとしていた。


「うん、今日も素敵だった…」


「あんたさぁ、その人がランボルギーニに乗ってるってだけなんじゃない?だったら高級車乗ってれば問題ないんだよね。ほら、そういやこの近くにもたまに乗ってるのたまに見るよ……あそこの会社の社長の息子が」


「うぅーん…何というか」


あぁあの人、という顔で奈津子は言葉を続ける。


「同じ車に乗ってるんだけどね。違うんだよ。例えるとZガンダムでいう、百式に乗るシャアじゃ無くてヤザン位…」


「そうなんだ」


きらんと目が輝いた春美はその男に興味を示した。それから彼女は数日間、帰宅時に三加世利也の乗るランボルギーニが現れる周辺をうろつくように車を走らせた。


そしてある日、とうとうその車が現れた。


「いたわ」


春美はイエローカラーのランボルギーニに目をやった。中にいる青年は、確かにイケメンだ!興味津々で彼の車を追い後をついくと、次第に小さな駅の近くに車を止めた。


春美も尾行するかのように付かず離れずの場所で停車した。三加世は駅前の花屋に車を止めると、その花屋に入り花束を買っていた。


「花?一体誰に?」


ランボルギーニが発進すると春美はさらに三加世の車を追った。彼は自宅の方では無い方向に向かっている。花を渡すのは家族じゃ無い。誰?誰なのよ!!


興味津々の春美だけでなく、彼女の周辺にはいつしか何人もの女性ドライバーがその車を追っていった。その周辺に集まってきた女性ドライバーたちで混雑し出し、気が付いたら三加世のランボルギーニは遠くに見えなくなった。


「邪魔なんだよ!!」という怒号が飛び交い、女性同士でトラブルが始まる。それを尻目に、三加世の車は細い道に入り、路地裏に入るとある駐車場に入っていった……





「先生、お疲れさまでした」


病院の診察室にいた三加世はそう言うと、目の前の老医師に花束を渡した。


この先生はこの病院の院長で、今日でこの病院の代を息子に受け継ぐということになっていた。三加世は長年この病院にお世話になっていた院長先生に感謝の気持ちを込めて花を渡したのだった。


「あぁ、ありがとう」


老医師はにこっと笑って花束を受け取った。三加世はその後病院を後にすると、夕日が輝く中、自分の愛車に乗って去っていった。





                                 終わり



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ランボル・ギーニに乗ったイケメン 嬌乃湾子 @mira_3300

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