エデンの園から来た使者が見た、世にも不知戯な言い伝え

いく たいが

悪神よりいずる、喜神

黄金伝説に夢を馳せる者は、新たなフロンティアを見る者ぞ。


 「『きよい。つよい。博愛。』これら三つのたまが一つになるとき」

「争いの無い平和な世界が人々に訪れる」

と「黄金の洞窟にその二つの文言刻まれし候」と云い継がれている。


その文言は既に、当時天地を紅に染めた火炎で、焼失はしているがその黄金耀く洞窟にたしかに存在していたという古文書(新旧・旧約聖書に拠る)を頼りに「正義と平和の世を!」を取り戻すべく闘いに臨もうとするレイ


 それは、地球創世記の完成頃。

およそ38億年前に生物が現れてから数億年が経ち、神は次の仕事を成された。

現れた人類初の אָדָםアダムחַוָּהエバ 、この後の人間社会を形作ってゆく。

このアダムの直系の血を引く者、レイという少年、神の御心みこころを以ていま動く。


――きよいをお肌がきよいと、つよいを権力を以てつよいと、博愛を多くの人にモテると、其其それぞれ解する者在る。――


 嘘だろ。じゃあ、どうやって人間は誕生したんだ? そりゃ決まってら。キスをしたからだ。莫迦ばかか、まだ人間が居ないのに誰が誰に――何所が何所にキスしたんだ。幽霊が幽霊にしたのか? 「んぅ。…………。って変な事訊くな!」 「変はオメエだろ」


 実は、創世記1章1-8節によると。

はじめにヤハウェという唯一神が天と地とを創造された。

地は形がなかった。

神は「光あれ」と言われる。すると光が注ぐ。神は光と闇とに分けられた。

光を昼と名づけ、闇を夜と名づけられる。

神はまた青空のの水と、青空のの水、とに分けられた。夕となり、また朝となった。


つぎに、土から男をご創造される。

もし創造主が女神なら最初に女を創った。

男のアダムが創造された頃は、神の園であるエデンの園の外には木も草も生えていなかった。

アダムはエデンの園に置かれる。そこにはあらゆる種類の木があって、その中央には「命の木(神と同じく永遠の命を得る木)と「知恵の木(善悪の知識の木)」と呼ばれる2本の木があった。

それらの木は全て口にする事ができる果実を付けた。が、神はアダムに対し善悪の知識の実だけは食べてはならないと命令した。


 その後、神は女性のエバを創造される。

蛇が女に近付き、善悪の知識の木の実を食べるともっと美しくなるとそそのかす。

信じた女はその実を食べた後、以前よりもズット綺麗になったような気になって。アダムにも「健康にイイよ」とそれを勧めた。

実を食べた2人は、自分達が裸であることに気付きおったまえげ。それを恥じた二人はイチジクの葉で腰を覆うようになった。

これが人類最初の夫婦アダムとエバの居住地となるエデンの園である。

 

 善悪の知識の実を食べたお陰で私たちはその後、嘘を、はかりごとを、中傷を、虚誕キョタンな生き方を、挙句は有りもしない想像の世界まで猛信することを、それぞれ余儀なくされたのです。

動物らには無い、詐欺も騙しの所為しょいも平気で行うようになった人間は、いくら悔い改めても繰り返してゆくしかない人間のカルマとなってしまう。


――「な! こういうやつはパシリ(使い走りの頭の弱いやつ)だ」

「な筈ね! カルマには善行もあるの知ってたか?」 「あらまぁ。マジかよ」

善心によって起こる善業と、悪心によって起こる不善業と、善悪のいずれでもない無記心によって起こる無記業の3つがあるんだ。

最後のごうは直ぐに因果応報とはならない、が必ず、善か悪かの報いを受けるカルマのこった。

だから善い行いが幸福をもたらしてくれた人の顔には魅かれるのだ。真逆の鬼ツラに魅かれるヤツがいるかってんだい……鬼同士なら別だけど。そんな属伴やつどもは粗大ゴミだ! 捨てちまえ!

この時から人は、良識派1/4、サイコパス派(頭の一部が病気の者)2/4、前者後者を行ったり来たりする浮動派が1/4、とに別れたのです。――


 するとまた蛇が現れ地をクネクネと這う生物となって、同時に女は妊娠と出産の苦痛が増すようになり、また、地であったアダムも呪われて、額に汗して働かなければ食料を手にすることが出来ないようにした。なんと狭量ケチなことをしたのだろう。


 神は二人が再び知恵の木の実を食べることを恐れ彼らに衣を与えると園から追放してしまう。

念の為にと、神はエデンの東にケルビム――人面・雄牛の身体、ライオンの尾、翼をもったケルブの超人的存在であるが――の回転する剣の炎、触れれば即死、を置く。

その後、アダムは930歳で亡くなるが、エバの死については記すことをはばった。人類初の人間が善悪の知識の実を最初に食べたエバを呪ったからである。また、女は男のアダムから作られたとした。――この時からすでに男尊女卑が始まり唯一の神のミスとなった。神が男であったからである。


 後に現れた Yĕhôshúʿaイエス・キリスト という神は前神の所為を猛省し、この新しい神は女性に対し男性よりも「忍耐に強く耐える意志と、強い生命力と、感情豊かな感性」を授け、男を敬い協力して暮して行くような精神こころとしたのです……この神も男尊女卑を踏襲することになる。男だからです。ではない。神とはいえど性格があって偏ったキャラのゆえであった。

このようにたとえ神だとしても見透しの甘かった故に今日でも矛盾が生じた世界となっているのです――「何故伴に敬い」としなかったのだろうか?

が、「後はオマエらが神となり理想とする天地を創造されよ!」とした宿題にしたのだ。「『Heaven helps those who help themselves.』(天は自らを助くる者を助く)」と。

 

 なぬ!? どっちの神にしても本当に神はるのか? 誰が信じるかって。

これじゃ行かんと、後後の使徒らは16章31節にこう追記した「信じる者は救われる」

「信じてるからねぇ!」と云われと「よっしゃ! 信じられる人になったるわ」となったように――「信じる」が「続く恋愛」を妄信し「結婚は永遠の愛」と妄想するようなったのです。

若しその場だけの云い繕いなら信を失い愛という倖も壊れていくことになるのだから佳き妄想としましょう。



 

 さっそく少年が其等それら三つの珠を探す旅に出る。

途次みちすがらと魅かれ、細流せせらぎの音も優しい水辺に浮く鼓草タンポポに足を留める。

流れてどこへゆくのですか、どこかの岸辺に命の輝きを伝えにゆくの、それとも先に行った兄弟を追ってゆくの。

両手を浸した手の水気みずっけさっと振ると「きもちイー!」と大空に向かって大声を発す。すると「きもちーィィイ」と山彦さんが返ってくる。「サンキューゥウ!」とまた大声で山峰さんたちに挨拶をした。


 「ハハハハハハハッァ」と笑う声。

背後うしろ脇路わきみちでブルーベリーを摘んでいた少女。

「いやーあー、どもども」とポリポリ頭をくしかなかった。

可愛カワ。ごめんね、邪魔して」

「いやいやこちらこそ、変なとこ見せて」

「変じゃないよ。面白オモロかったよ」と云ってまた笑った。

「好きだなぁ、ブルーベリー、って、夏頃に採れるかと思ってったけど……やっぱここは暖かいせいなんだね」

「そ! 海の黒潮がその丘を超えて暖かい風を運んで来てくれるからなの」

「道理で水も暖かいわけだ」

「ちがうよ。上流に大きな温泉湯の湧いてるとこがあるからだよ」

「あっちゃ」

「ハッハハハハハハ受ける―ぅ」

「いやーあっあ」

面白ファンキーいな人」

「面白くなきゃ1日は終わらないって」

「だね!」


「近くの人でしょ?」

「うん、そこを下った先の家」

「いいよね、この辺。暖かいし、綺麗な山並みだし、こんなとこに住んだらメシも旨いだろうなぁ」

「食べる? これ」

「いや、わりから」

「ん! 食べない方がいいよ、まだ酸っぱいから」

「ありゃー」

「楽しい人。すきよー」

「俺もタイプ、あなたみたいにキレイな人」

「綺麗じゃない」

「とんでもない、天使のように綺麗なプロポーションに可愛い顔してるよ。親に感謝しないとだね」


「……親居ないの」

「居るから生まれたんでしょ!?」

「じゃなくて捕まってるの」

「えーぇ! どうゆこと?」

「クショ王が反逆者っといって」

「そっかぁ……」 「で、その先の家って?」

「売られたの」

「ゲッ! 奴隷禁止! 馬鹿死ね! 川に捨てちゃえ!」


「えーっと、あなたは何処の人?」

「あ、申し遅れました。レイっていいます」

סאיהサヤ です」

「俺な。三つの玉石を探す旅に出たとこなんだ。突然で分からないだろうが、夢に出た来た神様が『探す勇気があるならこの剣を授けよう』とおっしゃって。嗚呼ああ、夢だったのかと枕元を見たらその剣が置いてあった。ウワッと吃驚びっくりして、それをお祖母ちゃんに云ったら『直ぐ行きなさい!』って後押しに、有りっ丈の金貨を呉れたんだよね」

「レイさんの親も捕まってるの?」

「さん、は止めてくれ。呼び捨て上等。くん でもいいから」

「わかった。で?」

「いや、生まれたときは母1人。でも俺が3歳のとき突然母も行方不明に」

「そーだったの……」


「なぁ! おれら互いに独りぼっち。なら俺と行かないか!?」

「うんうん、行きたい」 「って迷惑じゃない!?」

「な、もんか! よっしゃあキメ」


 ひとりよりふたり

キブンも軽やかになって峠を超えると、もうそこは混雑返ごったがえす市場。

「なぁ、その格好より男の恰好にしないか!?」

「…………?」

「あーぁ、今の服装は似合ってるし女の子らしいけど。動き易い服に替えないか、これだけの美女だと変な虫が追い掛けて刺しに来るし」

「なるほど、逃げたと知ったらあのオヤジが追ってくるしね。そうします」

「もし来たらちょん切ってやる、人を奴隷にするやつなんか」

「酷いんだよ。背中を流せ、俺の傍で寝ろ、って。云う事聞かないでいるといつも『牛小屋で寝ろ!』って」

「そもそも若い女の子を奴隷にするヤツなんかはなからエロだけが目的さ。ホントに好きなら相手が嬉しくなるように優しくしてやるもんさ」

「ありがとう」

「礼をいうなよ。アタリメエなことなんだから」

「あ、これ可愛い」

「おー! キュートな服、いいんじゃね」

「これください」

「あいよ! ついでに剣はいかがですか!?」

「あ、それ何?」

「お客さん目が高いね、昨日貴族の館から売りに出たばかりの掘り出し物、なかなかの短剣です」(どっち道どっか他国の貴族を襲って奪ったもんに決まってる)。

「どれ!? ん―いいねぇ。じゃこれも」


 「あららあらまっちょ!」

「どぉ!?」

「うんうん!! いーねーえー!」髪をショートカットに切ったのです。

「そのブーツにその髪型にその服装にその上背うわぜいじゃもう男カンペキ」

「俺に従え! なんてね」と云って両足を大きく広げ口も大きく広げ威張った格好を大袈裟にするサヤ。

「オー! 互いに従ってゆこーぜ」

「じゃないでしょ。協力し合ってでしょ」

「そうもいうけど」

「このお肉うまかったぁ」

「あ、それ、蛇肉だよ」

「え――っ! 何で云ってくれなかったの!?」

「俺も知らなかったんだよ。『どうぞ』と試食で食べたら白身魚のようなさっぱり味が美味しくて、そしたら『蛇です』と後になってゆわれて。サヤさんにも食べさせてあげたくなった、でも最初から云ったら食べくれないし。ま、栄養がイチバンってことで!」


 そこへ空気一変。兵士団の一行が土埃つちぼこりを上げてやって来る。馬上から跳び降りる。

トントンッッガンガン!! と立て札を立てる「申し渡した税に至らない者は労役を以てその身を王に差し出すべし。違反した者は家族郎党かぞくろうとう共々連帯責任として極刑に処す」と、カチャカチャ・ガチャガチャと甲冑の音を残し兵一行は土埃のかすみの中に消えて往く。

 レイの手は下ろしたまま指を反らとコブシになる。「ホ―ォ、やる気ですな」振り返ると二メートルはあろうかという巨木のような男の目が笑っている。

「猫や犬が背筋を伸ばすようなものですよ」

「そうだろ、気合を入れるためにだろ」

「換気扇ですよ。空気入れ替えの。それだけです」

「警戒しなくていい。俺はこの国を憂いている。変えなけらばと思ってる」と凛とした表情で言い切る。唯者ただものではない気配を察知する。

「国あっての人ではなく人在っての国ですからね」

「そうだ、その通りだ。我には行動を共にする同士が居る。俺は טובロク という。同士に加わりたければ俺の名を出せば案内してくれる筈。ではまた!」


 「でっかいねぇ、レイくんみたい。横幅は向うが専売特許だけど」

「『大きさで判断はいけない。やった行動で判別た方がいいよ』とお祖母ちゃんがよく言ってたよ」

たしかに! 『大木は下の根の部分に水を遣り手入れを加えると、今度は栄養が栄養を呼んで、枝葉は健全に育って。幹に当るところをおざなりにすると根諸共もろとも枯れる』とお父さんが云ってたよ」

「んぅだ! んぅだ! 根は民。枝葉は豊かさ・文化・生活・政治とか。と捉えたいね」

「キレイ―ぃ」

「あ、馬かぁ、目綺麗だね――そっか!――馬買おうか」

「い―ね―ぇ。でも一頭でいい」

「どうして? 二人居るのに。金なら心配ない」

「一頭に二人で十分でしょ。二頭になったらケアも二倍になるんだよ。私たちが苦労をすればお馬さんまで苦労を背負うことになるんだよ。それでもどうしても必要になったときはもう一頭買えばいいじゃない」

「だねだね。歩くのって楽しいしな。歩くのが面倒ちいはお年寄り」

「これで仲間は三人だーぁ」


 馬上少年往く。お馬さん脚四つパカパカ、少年たち脚四つプラプラ、草木ユラユラ。二人でいることがこれほど心強いものとは。人は一人じゃやってけない。人は二倍三倍全世界にだってなる。

星空は満天、腹も空く、馬にも休養、と一件の宿に入って行く。そこはお寺さんであった。

本殿の横の大きな社務所を宿として使えるようにした一角。 「百花の王」或いは「花神」とも呼ばれる牡丹ボタンの花が咲いている。さっそく部屋に案内され、薬草茶の「デトックス効果で美肌効果バツグンなドクダミ茶」を(茶の御盆おぼんにそう書いてあった)、すすっていると「お風呂場の用意が終わりましたので」と告げられ行ってみると混浴になっていた。

「やだー!……どうしよ」

「じゃ俺が桶に湯を入れて来るから」

風呂に浸かった後持って来ると「あっちに行ってて」 「はい」 「終わったよ」となって二人ともすっきりピカピカ(三回も桶を運ぶことになった)。

境内を散歩してると若いお坊さんらのお経が聞こえ、まるで合唱のよう、と、一人のお坊さんに「もう直ぐ和尚おしょう様の説法が始まりますのでよかったどうぞ」と促される。


 「宇宙が『法』、法は『目覚めた人』、目覚めた人は『ブッダ』、ブッダは『仏』、仏は『神の化身』」と。

分かったような分からないような説教、更に聞いてゆくと「仏陀を信じなければ苦しみは無くならない」 「悪い事をすれば悪い報いを受け、良いことをすれば良い報いを受け、地獄のような苦しみを受けることもあるでしょう」 「これは自らのむさぼり――際限ない欲望、怒り、愚かさ――が招く心である」 「反対に、自らの貪り、怒り、愚かさを抑制する心の者は善行となり、幸せな報いを受けることでしょう」

と長―いお言葉でした。

 という事は「地獄はあり」かぁ。厳し。しょうがない。いや、しょうがなく無いぞ。地獄に落とす代わりに「善人として生まれ変わる」というふうには成らないものだろうか(キリスト教では謂っているのだから――神様にも性格があるんだよね)。


 すっかりサヤの髪も乾き岩に腰を掛け「く解らなかったけど、皆んなが善行をするようになればいいのに」 「しょうがないよ。1/4しか善い人はいないんだって」 「そんなに少ないの!?」 「残りの3/4の人のうちの1/4にはその善い人の1/4になったり又元の3/4に戻ったりで。確実にワルのままの人は2/4、立ち直りを期待したいが無理層に一生留まったままなんだって」 「やっやこしねぇ。その最初の1/4の変わらない人がいい」 「無理だろ。相手次第で染まるという『性悪説』ってのがあるから」 「何? その『性悪説』って」 「さあー……訊くなよ、知らないんだから」 「あらら」 「あれだよ! 瞬くお星さん。心にそのお星さんを持つ者はその星は太陽となり希望の光となって幸せという果実を育むのを手伝ってくれる。心が闇夜の人は行けども行けども闇。みたいな」(宇宙には太陽は約2千億個もの恒星(太陽)となって太陽系外から見ると星に見えるそうです) 「これもやっやこしなぁ。でもわかるよ。そゆ人になりたい。レイくんって大きいねぇ……えっ?……2千億個も太陽があんの!」 「そうだよ、男は大きくなきゃ夢は果たせないさ」(イチイチ気にする奴に限って出世はしないもの vs. どこか抜けてそうな奴に限って出世するもの)。


 、「お若いの!」と呼ぶ声。そこに和尚さんが。正式地位は大本山寺の高師様と後に知るが。

「お腰に付けておられ剣を拝見させて貰ってもよろしいでしょうか!?」 「私のか?」 「いや、そちらの長剣の方の」

手に取り繁繁しげしげと見終わると「斜めからご覧ください、ルビーのような紅く澄んだ色の玉が浮かんで見えませんか」 「これはつよい光といってこの世に平和をもたらす一つです」

「ワオ―! 何でそんなこと知ってるんだ? これは夢に出てきた神さまからのプレゼント」と云い掛けたが、この僧は何者だ?

「いやいや、そんな剣とは知りませんでした。お世辞でも嬉しいです」

 

「これからどちらへ行かれるのですか?」

「乱す元を退治に」

「どちらの方へ向けて?」

「雲に隠れてるあの山の方へ」

「それは何方どなたなのですか?」

「悪の元締めってやつ」

「クショのこと?」

「まぁ、そんなとこ」

「幼い頃はああではなかったのだが」

「知ってるんですか」

「両親を目の前で殺されたことを切っ掛けに……そこいら中で喧嘩喧嘩!! をする者に堕ち、人をあやめるのが平気な生活に、ついに何の落ち度もない良民までをあやめて以来人柄が豹変」 「一時はこの寺に預けられたこともあったのだが不要仲間にヒ―ロ―と呼ばれるようになると、止める先代の住職までも殺してしまい、もうその後は他の国を侵略して我が国のモノよと豪語するようになったのです」 「毀誉褒貶きよほうへんの激しい方で……あなた方もお気をつけなされ」

「不要じゃなく不良でしょ。で、その毀誉褒貶って?」

「普段は紳士、穏やかで優しく理性的で人を気遣って誉めたり、が、一旦感情的になるとそしり感が激しく何所までも中傷しまくり。が、また暫くすると紳士に逆戻り風な人」

「ああ知ってる。それサイコパス(『反社会性パーソナリティー障害』という歴とした『精神病名』です。感情の一部が壊れて他者に対し愛情や思いやりが希薄になる自己中心的病。通常なら感じるはずの道徳観念・倫理観・恐怖心が働かない人達)ってゆうのが飛んで無いんだよ。実はその3/4の者たちに占めてるのがその不治の病」

「そうかもしれません」と応える和尚。知らないんだなぁ。『かも』を付けて云ってるから。

「俺らはゥンーと気を付けていくからドンマイ」

「では良い物を差し上げましょう。秘薬を!」と僧の一人を呼び寄せると持って来てもらった薬袋やくたいを指しこれを背中に塗ると大怪我をすることはありません。

「自分から背中は塗れないのでこちらへ来なされ。塗って進ぜよう」

「そちらの若い者も」

「いや、俺はいい」アタリメエだ、女だ。

「ありがとうございます。後で自分達で塗りますから」


 コケコッコ―! の声に目を覚ますとヨダレを出して寝ていたかはどうでもよく。早速、神のお告げのあった北北西へ進路をとり寺を後にする。

二人はテクテク、お馬さんは荷物を背負い、荷物とはいえない軽い袋だが(鞍は付けないことにしていた。あんなもの四六時中けたもんにゃきっと重たいし休まらない筈)。

朝からどうも重いのが腹の具合。慣れない法話を聴いた所為せいか。

傍らの茶屋で3杯ものブルーベリー茶(目、糖尿病、と抗酸化作用――体内の錆び除去――これが腸に効いたのか)を飲んでやっと治まる。


 治まらのが目の前の光景。

ガラッガラッ・ゴトンゴトンと荷車上の柵に閉じ込められた人間を積んだ馬車が何台も連なってやって来る。

泪と泥で汚れまみれれた顔一往の者たち。

赤ちゃん抱く母、腰の曲がった老人、額から血が滴る少年や髪ボサボサな少女まで。

あの立て札のせいか、逆らったせいか、それとも単なるサイコパスのなせるわざか。

この昼間の藍空あおぞらの下、まさに天と地獄が入れ替わった地獄絵図。


――アダムとエバが禁断の実を、それは善悪の知識の実であるが、を口にした時から人は自分のうちに虚誕キョタン(もしかして嘘の生き方かもしれないと感じつつ敢えて自らに大袈裟な理屈を以て正当化させる風な)な生き方を根付かせてしまったのだ。

これを捏造という、嘘の生き方という、剥がれるメッキと云います。

「知とは諸刃の刃」といって常に、良い知識と悪しき知識が同居しているのです。

悪の知情意ちじょうい(人間の精神活動の根本の「知性と感情と意志」)となったときに当然その刃で自らを切り刺し死ぬことになるのだが。

これを防ぐ手はたったのひとつ。性悪説を有言実行するこっちゃ。因みに。

性悪説は中国の孟子の性善説は無矛盾だらけといって唱えた荀子の説。

西洋では彼の有名な哲学者カントが一見理論的な説明をする。いや、机上の理論としては世界一。

カントは、人間の精神のはたらきを「知・情・意」の3つと考えた。「『私は何を知りうるか』 『私は何を望んでよいか』 『私は何をなすべきか』これらを知と定めた」

が、これほど立派な人でも矛盾点大有りなのである。

ユダヤ人はこれら全てに背反してると痛烈に批判――若し「背反」というなら皆がしてることではないか。人種差別ではないか。世界中で流行ってるぞ。

アメリカ人は血生臭い血を見るのが好きだから直ぐに戦争をっぱめる民族だ、中国人はマナ―が悪いし品が無い、日本人は了見が狭いから右翼民族(国粋主義者)のままだ、韓国人は喧嘩ぱやい短気な性格だ、黒人は臭くて頭が悪い、これらを人種差別と云う。

また、カントは「私の哲学は『ルソー(自己愛、自尊心、人間本性、児童中心主義教育、市民宗教などを標榜した思想家』からの影響は大きいと認め(実際にカントの哲学論はフランス革命等の市民革命に大きな影響を与え、アメリカ独立宣言にも多大な影響を及ぶす)が私を正してくれた」と誉めているが、そのルソーは子5人をことごとく孤児院に預けた、やがて一人湖上で寂しく命を落とす。はたしてこれで両名とも哲学者と、偉大な思想家と、いえますか?

この二人をそのように持って行ったのは「人の本性は悪であり、生きていく中で善を学ぶとした性悪説」としか言いようがない。

今少し正しくいうなら、これは善と悪の木の果実を食べたゆえんである。と神なら云うであろう。――


よく分からない!? 全くその通り!

では、更に突っ込んで考えてみると。


――「『性説』とは、人は皆、悪い事をするというのではなく、悪しき事に染まり易い」ということです。 vs. 「『性説』とは、人は生まれながらに善であるから過ちはあっても悪い事はしない」ということです。

さて、以下の事例に説明の付く人がいるでしょうか?

a国による勝手な決め付け(虚誕)でベトコン(南ベトナムで1960年12月に結成された反サイゴン政権で反米・反帝国主義を標榜する統一戦線組織名)とした人達が日々必死に生計を立てていた村民全員・老若男女赤ちゃんまでを並ばせて一斉に機関銃で皆殺し(「ソンミ村事件」――1968年3月16日無抵抗の村民504人内訳男149人妊婦を含む女183人乳幼児を含め子供173人)――を無差別に一斉射撃で虐殺。が、ベトコンの疑いがある以上は正当な行為と何ら悪びれる様子もなく云い放ったa国政府やマスコミ並びに国民の多く。この国民らはナチスを非難できません。それどこではない、疑いだけで殺してしまえば世界中の人が疑わしくなって皆んな死んじゃう。


また既に死に体となっていた日本に対し原爆を二つも落としたa国(戦後の冷戦下を見据えて軍事優位を世界に見せつけるたったこれだけの理由で)。

ナチスと同じようにj国の中国に対する中国人生体実験……生きたまま氷点下でどのくらい耐えられるか? 雪の降る夜に裸にして木に縛り付け氷点下で死に至るまでじっと観察する。また毒殺剤や麻酔を使わない生体手術実験もした大日本帝国、これは大東亜共栄圏の為と堂々と実行指導した731部隊。息絶え絶えの者が居たとしても日本刀で切り殺す「サムライ魂の情けぞ!」と云って。


三本の矢の経済政策、この三本の矢の話は出身地旧毛利藩の言い伝えと主張してる方がおられるが嘘です。

既に中国の有名な文献に出ていた物をあたかも自分の出身地のオリジナルのごとく威張って打ち上げた策略。

更に土地の評価額9億5600万円とされた国有地即ち国民の財産である筈の土地を8億円もの破格の値引き、且つまた、係る文章の改竄かいざんを命じたa財務大臣は自分がヤバいと思うと部下が勝手にやった事と云う。ついに関わった一人の官僚は自殺までに追い込まれてしまう。


何億円もの国民の税金を長年の友だちのk学園の設立に認可出資した日本国のもう一人のa。よくもaもaも小学生漢字、云々うんぬんをデンデン、所信表明しょしんひょうめいをショトクヒョウメイのごどくなのに妙なとこだけは頭が回る仲良しコンビ。


自国の情報を逆リークしたと難癖を付けられ身の危険を避けるために海外へ身を隠していた先々まで追い掛けて関係の無い親子一家ともども毒殺したr国。普通に暮らしていた国を自国の思い通りにならないからってその国内をかく乱して滅ぼしてしまったa国の諜報機関、そしてこれは世界平和のための立派な外交と豪語するa国とその国民。武力と不条理でできあがったローマはどうなったか? 二つの世界大戦で伸し上がったローマもどきな今様な国はどうなっていくか?


 だからね、さっきの2/4プラス1/4の人種、合計3/4の者たちはどうしようもなく過去も未来永劫に変わらないのだよ。

ユートピア(イギリスの思想家トマス・モアが1516年の著作『ユートピア』に登場する「理想郷」とした架空の国家の名前。並びに、武者小路実篤が「新しき村」として作った農村共同体等を指す)を信じてはなりません。それは机上だけの、小説だけの、エデンの園だけの、世界です。

リアはリア。言葉は言葉。真実は真実。

心理学者はこのやからを『サイコパス』と呼ぶ。原因の殆んどは親からの遺伝子とも云われている。

その者は二人に一人の割合(確実ライン2/4、大間かライン3/4説)で世の中を、世界を、人々を、そして自らをも、悪く染めているのです(最初の人類が、エデンの「知識の木」即ち「悪い知識と善の実を付ける木の果実」を食べ、悪い知識の方に当って中毒を起こした故)。――


 サヤの目に涙ポロポロ……かつて自分が被った事を思い出してるのだろう。手を短剣に!

「待て! ここでしたら四方八方から囲まれ俺達まで捕まってしまえば三つの珠探しどころではなくなるではないか!」

少し先に見える丘を通る筈! きっと道幅は狭くなってる。そこで襲って彼らを逃がそうではないか!

そうだ! と異口同音。

この本道とは別の裏道を馬にまたが疾走しっそうして行くのでした。

馬の吐く息が心を奮い立たせ、抱く息より高い意気となって飛び跳ねてくではないか。

そこは案の定、小高い山と山の間の狭い急坂。さっそく二派に分かれ第一目標は続け様に射る矢で確実に隊長を仕留めること(仕留め損なうことだけは絶対回避するために)。同時にサヤが兵が大勢居るかのように小枝を揺らしてく、その気になった敵兵たちの混乱に乗じ柵内に囚われた人達を逃がし小石を与えて奴らの武器を奪って、と。


もう着く頃と、、来る筈の先の方で怒涛の声が勃発すると同時に大歓声が湧き上がる。

と身をひるがえしそこへ着いてみると逃げる逃げる兵士ども、矢を放ちまくる遊撃隊(ゲリラ隊)、開放され狂喜する囚われ人たち、その中心にひと際目立つ男、ロクではないか。従う総勢40名程のつわものたち。

「遅いぞ! レイ」 「早過ぎたんですよ。俺たちはその先で臨戦態勢をとってたんだ」

「我ら、この解放した者どもを安全な地まで行って身を隠してあげその辺りで生活をさせてやらねばならぬ。来るかい?」

「その元凶もととなっている悪を退治する為の目的があるので今回は」

「分かった! いつでも来いや」

意外、そこだけ急斜面となった先に転がり落ちて死んでいたはずの兵が動くや否や馬にまたがって必死の逃亡。家来の者が矢を放つが届かず。

「放っておけ。却って我らの存在を聴き王はビビることになるだろう」 「お主らも気を付けて!」とゲリラ一隊と開放された領民らはクショ王国とは真反対の方へとロクを先頭に去ってゆく。



 渓流の水音に魅かれ。

足を浸し、顔を涼め、馬にミネラルを、各人各様に身が惹かれるままに。隅の方の方では山鳥が水浴び、心もれたサヤは冷たい水をレイの背の上からそっと流しキャッキャッといってハシャぎ逃げ回る空気感が流れて往く。

 山肌は上は紅く下は緑暗い夕刻となっていた。

渓流より少し上の岩場に囲まれた一筆の辺りに寝床をこしらえヤマメとイワナどっちがどっちだか分らぬが葉で包んで、炎の灯かりのなか、このレシピと先程のミネラルに果実を落とし入れた水を口にしながらガツガツと頬張る姿、全身まるでわらべのよう!」と云い合う二人。二人二枚の毛布を一枚のように合わせその下に静寂しずかな眠りにつく。


 馬は、警戒心が強いから立ち姿のまま耳をピクピクしながら、寝る。

と異口同辞に言うが嘘である(話ほどいい加減なものはない。行動ほど真実を語るものはない)。

草食動物は草だけ。

これも真っ赤な嘘です。

あのレシピ魚を旨そうに食っていたぞ。

馬も腹を満たせば安心する。すると、しゃがんで、または横にコロッと身体を倒したりして寝るのです。

もし立ったままならそれは何かを警戒してる証拠なので取り除いたあげよう、あなた自身に警戒してる時は「すまん」とひと言告げた方がよかろう。けっしてイライラしないことである、馬にも移るからです。

我が馬はとっくにうずくまって夢でも見てるのだろう、時折口がわらっている。


 「危ないッッ!」の声。

何の事かただ狼狽うろたえ、うろ覚え途惑とまどいのなかに目に入ったのが闇夜の黒陰。すっくと身を起すと反転身を伏せ剣に手を飛ばすと剣に灯りが点り月明かりが幕を開けたかのように晃晃こうこう現れはじめ辺りを明るくしてくれる。突進して来る者数名。

「ロク! 死ねえ―えッ!」

「…………」あら? ロクって叫んだ、傍にいるのか? それとも俺と勘違いしてるのか?

すると大剣をビュービューと音を立て大振りする者、奴らの首が二つ転がる。

そこへ屈強な隊長らしき者現れ「命か? 家来か? そちが選べ! 我が王はそなたの腕を見込んで臣下を以て迎えると仰ってる、さもなくば死を待つのみぞ」

「筋を通して来いや! なんじゃこの扱いは? 殺せないと分かると今度は猫撫で声かぁ!」と云うが速くその隊長の首も地面にコロっと落ちる。もーぉ! 真っ青! 逃げる逃げる!! 必死に! 負け犬の遠吠えのごとくキャンキャン!! と云い姿をくらます家来の兵ども。


 「ロクさん!? …………」

「ォオ! 間一髪だったな」

「どうして? ここへ?」

「その『毅い剣』を譲って貰おうと。少年二人じゃ無理だ。おれがオメエらの代わりに世の悪を退治したるわ。金なら幾らでも出すから譲ってくれ」

「いやー、カネの問題じゃないっす。神さまとの約束だったので!」

「青いな、神が居るって? 笑っちまうぜ」

「ところでどうして俺がここに居るのを知って……?」

「寺の坊主に訊いたんや」と云うと後ろからあの時の若僧が三人。

「どうしても二人で目的を果たしたいというなら我らと協力した方が早いのでは」

日頃から基本、レイは迷うときは止めるを標語モットーとしていた。

この展開も何かすきりしない顛末。

「その時はお願いす。どこまで、できるか今一度チャンスを下さい」

「しょうがねえな。この坊主をボディーガードに置いとくは」

「そんなやわじゃないねぇ。馬鹿にすんな」

「云うのぉ。勝手にやってろ。ま、いずれ俺を頼るしかねって。行くぞ!」と明け方の薄明かりのなかに消えて往く。


 う? どうして俺をロクと勘違いしたのだろうか? 待てよ、ロクは俺らをずっと付けてきていたのか?……いやぁ、もしかしたロクが俺らを襲ったってたということも? あらら? それにしても誰だ……「危ない!」と発した第一声の主は?

『私よ』なんと馬が口をいた。

「やっぱ最初っから綺麗な目をしてると思った、人間のような」

「ありがとう。うちが守ってあげるわ」

「おっ、君は女だったのか」

「ナメンナ! 女だからって」とフルルンと馬の高笑い声。

「あ、あのときサヤは『綺麗な目』と云ってたな。この馬は正義のひとみ、道義のヒトだ」

「そうよ、正義一筋なヒトだよ。お二人さんを守ってみせるからね」

「オ―、期待してるぞ」

「ねぇレイくん! わたし賛成だよ。ロクの云うことに従わなくて……なんとなくだったけど……どうしてもになってからでもロクに加わっても遅くないしね」

「あー、『二人一緒だけの世界に浸かって』っと云いたいんだろ」

「もお!」と云って蹴っ飛ばしてくるサヤ。すっかり空は朝やけ雲が棚引いていた。


 「カサッ」

やぶから音が!? 身構える!

「美談す。羨ましっす。俺も仲間にしてくれませんか」体長二メートルを超える狼(立ち姿になったらどうなるんだ。三メートルか)。

gratiasグラーティアース(ラテン語の「ありがとう」。日本語の「アザ」)。ところで一匹オオカミってやつか? だって普通は集団で暮らしてるんだろ」

「チゲェよ。狼やって五年、来る日も来る日もモウ慣れ慣れ慣れ過ぎ。狼生活飽きた、つぅかこころざしが憎いぜ。面白オモロいじゃねえか、悪者退治とかいう冒険ってやつが。狼心が騒ぐぜ」

「うん! 仲間になって皆んなで戦おう」と馬が云うと「お馬さん、ありがと」 「いーえぇ、こちらこそ」と二人(文法的には二匹が正しいが主旨上は「人」としないと間違いなのである――遺風派は騒ぐだろうな)のアイコンタクトがウインウインする。

「よっし! 分かった、今日から皆んな仲間だ。なぁ! サヤさん」 「モチ! 大勢の方が楽しいもーん」

狼は馬の背に乗っかたり、先に行って戻って来たり、馬も追いかけて行ったり。レイは口笛を吹いてサヤは併せてハミングして軽やかにあゆむ二人オンオンとなって、見上げた大空の雲の形がblessいわうの文字格好となって――夢で見た神はホントに居たのだろう、ホントに見守ってくれていたのだろう、四人は様様さまざま様様ようようにハッチャケた笑い声を跡に。


――ヒトは動物も植物ものイキモノも日々死んで又生まれ変わりながら生きている。

死んで?

死んだら生きてないだろ? 頭だいじょーぶ? 

君より大丈夫!

って、部品交換ってやつね。古いのばかり使ってると頭も古くなってそのうち心臓まで錆付いて動かなくなってご臨終ですと言われる。

わかったぁ? 

わかんねぇ!

やっぱ君は脳ミソ古い。怒らないで! 新しくする方法があるからまぁ聞いて。

 ヒトの細胞は60兆億個からできていて1日毎に1%の3千億個から6千億個は死んで又同数が生れ変わっているのです。これが生きてる証なのです。

いくら呼吸をしていてもこの生きと死の繰り返しが無ければ今度こそは本物の死になるのです。

どう死んだか、どう生まれ変わったか。これが問題だ。

人としての価値を決めるのは何だ?

脳ミソである。

これが悪いと他がどれだけ優れていても人として価値はオワル。

脳は、早い細胞は1ヶ月で約40%の割合で生と死で全てが入れ替わる。遅い細胞は約1年掛かる。

ワルいやつが生まれて来るってこともある。

善く鍛えた脳筋肉は善き筋肉となって、悪しく鍛えるしかなった筋肉は何所まで行っても悪しき筋肉に為る定めってやつだ。

だからね、善となる脳活動は幸せ遺伝子を生むのです。

逆に、邪遺伝子に囲まれてやることダサ、止めようとしてもいつまでも結局はダサになって、そうするとダサ神経シナプスしか生えてこなくて一生モテなくなったらやでしょ。

シナプスはねぇ。

神経情報を出力する側と入力される側の間に発達した情報伝達のための接触部分。一方の悪の神経に良い神経が付き合う気になると思う?。――


 豪快なキャラして大剣をブルンブルンと音を立て振り回すイチ庶民が居る。領民を奴隷のように扱い容赦なく命まで奪うその王が送りだした兵の首を切り転がした。となると注目度アップとなる。拍手喝采する者も居て二人が三人ついには大勢がその者の許に集うようになる。するとおごった気持ちになる。

この頃各地で、惣百姓一揆そうびゃくしょういっき(広範な農民層が結集して起こす――いわゆる民主主義一揆)百姓ひゃくしょう一揆)、世直し一揆、権力一揆等が頻発するようになっていた――(日本でもこの話の数千年後に同じようなことをした本多正信という人が居たんだよ)。

 首謀者はロクであった。カネと知恵を授ける実力が影に居たのである。

「これはヤバイ!」と気付いた王は捕えることも殺すこともできないのなら一層の事、身の振り構わず要請だか誘惑だか関係なくプライドをかなぐり捨て、その者を臣下に引き入れ後は利用若しくは活用しそのうち牢屋に閉じ込めるなりして殺ちまえばいい、と。

再三の呼び掛け。これには弱くなるもの。応じたロク。自尊心をくすぐられたか、威張りたかったのか、家来となってやがて地方の重要なポストを任され、次第に頭角を現す。重要な局面の幾つもの戦を勝利に導いたり。するといつの間にか王の腹心にまで登り詰めることになった。


 何が死んだのか? 何が生まれ変わったか? まるで細胞の営みのような変遷へんせんぶり。自分ではどうしようもない。

違うぞ!

細胞は環境に併せて変化(淘汰とうた――不用不適のものを排除)するはず。

尻尾しっぽが要らなくなったヒト、当初は有った筈のが今でも尻にありますか?

これを自然淘汰といって、一旦悪に染まるともう駄目、悪系な遺伝子は増える一方。

佳し系の者と交わることが多い人には好遺伝子が増える。

これは意識無意識関係なく染まって行くものなのです(性悪説)。

芸人と議員のごとく、ファンだよ、好きだよ、先生、先生、と三日云われるともう一生抜け出せなくなる。

逆に、善に交わる、これは直ぐには中々感じ難い事。が、交われば交わる程、いつの間にかその人が居ないと落ち着かなくなる。寂しくなる、潤わなくなる。これは善き環境を得たという染まり効果なのである。

淘汰とはそんなもんってこっちゃ。

しょうがない。

脳ミソも60兆億個の細胞の一部の集まりなのだから。

(なお、この60兆億個とする数は仮説だそうです。この研究分野はまだ初じまったばかりでこれからだそうです。

ちな、この研究もだが、お隣の中国に比べ日本の研究者に対する国のサポート金高はおよそ1/10、アメリカの1/50、このままでは日本は遅れをとるばかり……「政治は国民のレベル以上にはならい」サミュエル・スマイルズ「自助論」より……明治維新の発想は何所へ行った?)。


 日本にも居た本多正信(1538年生まれ……天文7年と元号表記の方がよかったかしら?)。

権力者に憧れる。ここはロクと同じ。その後は共通点あり異なり。何がそうさせ何がそう別けたか?

正信は当時目立っていた家康に仕官する。

桶狭間の戦いのとき今川義元の命で家康に従い織田信長によって築かれた丸根砦を攻める際に武勲をあげる。

敗れた織田方はこの戦いを契機に家康に一目置くほど正信の家康に対する活躍は大きなインパクトを与える。

しかし同時に正信は家康(1543年生まれ。本多と5歳違い)との競争心が芽生え、反対勢力の権力者や庶民の義憤に駆られ、一揆衆らの大将となって家康に敵対する、が、鎮圧されてしまう。

その後、石山本願寺と連携して織田信長と戦い信長側の力を削いでいくのでした。

チャンスが味方した。本能寺の変の少し前頃に大久保忠世(1532年生まれ。6歳違い)を通じて家康への帰参を勧められ又本人も望んだ。

当時最強の信長は本能寺で光秀によって炎と共に焦土と化した。

突然の天下人の居ない今、この先はどうなるか? 留まって利はあるか? 光秀の軍勢は圧倒的に多い状況、では逃げよう! となって正信は逃げる事を進言しいち早くルートを確保。

勧めた筈の正信の逃げる際の一行34名に名が載っていない。ということは安全に逃げるため、先々の対応を講じるため奔走していたことが十分に窺がえる。

もし彼が居なかったなら、留まって一旦は光秀の家来になったとしても秀吉が待っていたことから滅ぼされた可能性は高くなる。

この後直ぐに家康は正信を奉行に任じ、本領安堵と引き換えに徳川家臣団への参集を呼びかけ武田家臣団を取り込むことに成功。甲斐・信濃の実際の統治を正信が担当した。

この効果は絶大。

当時ナンバーワンの実力を誇った武田武士団を味方にし徳川家臣団に取り込んだのであるから。ってことは徳川軍がより強力な軍隊になったということです。

正信は関ヶ原の戦いは無駄な戦と知りながら敢えて軍議を家康に進言する。豊臣方を滅ぼしたかったのです。

その際、正信は家康に或る提案をする。数で劣っていた徳川軍は兎にも角にも味方が増えることを切望。

そこで、大名は無論のこと、大将を崩せばいいと進言。

ではどの大将にするか? 優柔不断な者がいいと。

豊臣秀吉の正室・高台院の甥。秀吉の親族として豊臣家では重きをなし関ヶ原当時は大将の一人であった小早川秀秋は若い、しかも大義名分より自らの命の方が大切な性格と踏んだ正信は寝返りを画策した。結果は見事大当たり、調略に成功したのであるから。

その後は家康の天下取りへの懐刀にまでになって天下取りの影の実力者となり徳川300年の礎の元となったのが正信である。

この礎の元となった大筋はこうである。

1603年に将軍に就任した家康は2年後にすぐ秀忠に将軍職を譲り07年には駿府に移った。しかし引退では無く家康個人が天下をコントロールする必要があった。秀忠がちゃんとやってけるか? そこで指南役として秀忠の許に送りこんだのが正信である。

正信は江戸にある秀忠のもとで幕政に参画し、1607年からは秀忠付の年寄になった。実質はライバルの他の年寄りたちを追い落とし最高職の大老として牛耳るようになる。いわば「嫉妬やっかみ」から起きた権力闘争ってやつだ。

大老とは、秀忠が会長なら、社長のような謂わば幕府の常任最高職であるか何でも政策決定ができるわけである。

これほど家康は正信に全幅の信頼を置くようになったです。

もし正信がその後の政権安泰の在り方を見通し、秀忠とその家臣一行に指南していなければ数年後に倒幕されていたかもしれない。

 後年、正信は「天下人になるより、天下人を動かすナンバーツウ―こそ生きる『我が世の春』」とした安全弁的持論を持つようになる。

つまり、こうである。

正信は子の正純に「我の死後に、汝は必ず増地を賜るだろう。3万石までは本多家に賜る分としてお受けせよ。だがそれ以上は決して。もし辞退しなければ、であろう」と常々説いたという古文書が残る。かつて自分から起してライバルたちを追い落とした、敵方を調略した、経験から周りの者たちからの「やっかみ」を防ぐためだったのです。やっかみは万事戦いの元である。

なお、どんな縁なのか、家康が1616年に没すると正信も49日後に死去した。

 ロクならどうしたでしょう? 獲れるものなら何でも盗っちゃえときっと思ったはず。

ロクと正信は好対照。

ロクは途中までは正信と同じ経緯。が、細胞のどれが死んでどれを再生したかで正信とは真逆な結果となったのです。

 年齢と人付き合いと何の関係があるか?

同世代に生きる者同士として、価値観の共有これは大きい。

後はどれだけ互いの誠意を感じ得る間柄になるか? 

そんなの関係ない、自分さえよければ何したっておけなのか。

ここが運命の分岐点だ。


 そりゃそうだ! 鍛えた筋肉細胞は増える、モリモリになったことがあるでしょ。怠けたところの筋肉は落ちていったでしょ――細胞が落ちてゆくからです。筋肉細胞とは脳ミソも筋肉であるから妙な鍛え方をすると佳き筋肉は死滅して行くことになるのです。再生するにしても悪しき筋肉となってるために同化され易くなってゆくのです。筋肉は繋がっているからです。

これが「ヒトの細胞60兆億個は、良きにつけ悪しきにつけ、日替わり1%の3千億個から6千億個は死に又同数が生れ変わっている」所以ゆえんなのである。


 クシュ国の王は43才、ロクは37才である。本多正信と家康に似てる。当然ライバル心が無い方がおかしい。そうなると野望に火がつく。後は価値観の共有である……はて!? 三角関係に共有した価値観はあるでしょうか? 無いが答である。

王の妃は19歳、聡明な顔付に濃艶な立ち振る舞い。性格面からいうと王は慎重派、悪くいうと陰湿、ロクは豪快派、悪くいうと粗野、何故か妃はデブだが野性的な方のロクに色目を使うようになる。気付いた王はロクを遠くの城の砦に追い払い、必要な時だけその卓越した軍事センスを利用して各地の鎮圧や侵略を繰り返すようになる。

ロクは特別に妃に対する感情を持っていたわけではない。というのは1人じゃ満足できずあっちこっちの女を抱くことに快感を覚える、謂わば「英雄色を好む」のタイプだったのです。

英雄は何事にも精力旺盛。なので女色を好む傾向も強いという説――男の種の一日の生産量のせいだ。


 或る日、隣国の一部の占拠を終え帰途の道すがら久しぶりにあの宿泊施設のある寺院を訪れたのです。

実はかつてロクが様様な一揆を起こした折りのスポンサーはそこの和尚さんだったのです。知恵を付け軍資金を出したりの。何故そうなったか?

 

 クシュ王がかつて不良少年だったとき、親無し寝床無しだったことから、この寺の和尚が面倒を見て育てのです。この恩に報い王となった後は何かと金銭を与えたり、時にはここから美女を回して貰う関係にもなっていたのです。

ところが年年歳歳来る筈の金も段々と途絶えついには恩人であった和尚の女までも奪う。これに切れた和尚。

そこで仕返しにとロクを利用して困らせやろうと思い立ったのです。


 この和尚は元は盗賊主の大親分であったが役人を遣り過ごす際に運悪くも乳呑み児と幼児の二人と妻の合計三人を死なせてしまっていたのです。

夜討ちを駆けられた際に「逃げろ! 俺は心配ない。役人を巻くから! 我が手下どもが案内するから」と自宅に火を放ち大勢の役人から逃げたまではよかったのであるが内通者の一人がロクの奥さんに横恋慕していて思い通りにならない憎しみから、既に役人と共に裏から数人の盗賊部下らに守られて逃げる奥さんと子らを、手下どもがは捕まった、が「俺と一緒になってくれ!」 「ざけんな! あんたみたいな雑魚ざこと誰が」と言い返され逆上の末に全員刺し殺してしまったのです。

その時の和尚が気の毒にと牢屋から、本来なら磔獄門はりつけごくもんが相場だったが当時その寺は時の政権者の代々を埋葬する永代供養の寺であったことから、見受けとなって寺に預かり面倒を見て今の代の和尚となったのです。


 このように苦労というか業というか不運というか。口では立派な法話を以て門徒らを率いてるが裏切りには異常なほどの情念を燃やすのでした。

逆境に遭っても挫けず立ち直り立派に羽ばたく者もいるのだから五十歩譲ってもやはり異常としか言いようがない。


 和尚がロクにシフトしたのには理由があった、次の王はロクではないか、その方が収入も増えるでのではないか、と算段したのである。だから全国から集まる豊富な資金をバックにロクの一揆に肩入れをしたのです。つまり本性はどこまでも盗族である。

そうです! 本性とは、生まれ持っている性質だからです。

 だから、人の2/4は確実に悪しき人たちなのです。治そう! といくら頑張っても無理なのです。

佳き人は1/4。そんくらいに捉えていないと不運を被るのは自分になるのだから呉呉も肝に銘じた置いた方がよかろう。

差別・排除ではない。事実であるものを事実でないとは云えません。

しかし一つだけ手がある。

例の六十兆億個の細胞がどのように淘汰されていくかの話である(掲記ご参照下さい)。



 砂塵吹く村外れに閑静な茶屋が一軒。

いつ頃からたたずんでいるのだろう? 

百年か、それ以上かもしれない。柱の一部が傾き屋根の草葺くさぶきにも所々長い草が元気に生えている。

が、内側は内装して小綺麗にしてあった。

茶屋に共通しているは、近くに小川が、湧水が、あること、とったレイ、サヤもかもしれない。アタリメエだ。どうやって湯を沸かすんだ。「井戸は!?」とサヤは云う、あちゃ―あ―。

 桶を借り目の前の道から小川の水を汲み入れ足を浸すとそれはそれは天国。馬さんと狼君も小川に足を浸したり口を潤わせたりしてきっと天国感にちがいない。水の語源は朝鮮語で水と物を「ムル」といってこのムルの意味は「充足みちたる」つまり「精神の充足じゅうそく」と聞く。確かに、水が、物が得られと気持ちが、体が、満たされます。

 

 上半身を拭こうと背負っていた袋を下ろそうとしたとき中の薬の包装が破けて桶の水にこぼれ落ちる。すると強烈な悪臭を放ち赤紫の色となって泡立つ。咄嗟とっさに道端に捨てると草が燃えるようになった瞬間見る間に枯れてしまった。

え!? え―っ? これはあのお寺に一泊したとき和尚から頂いた薬袋との話だったが……。

「怖っ怖っ!! あんなに優しそうな顔してたのに、も、やだーぁ!」

あの時和尚は「『これを塗れば大怪我しなくても済む』と聞き、実際にこれから襲われるリスクもあったことから体を拭いた後に塗ろう」と思っていた矢先にこれだもんなぁ。

真逆まさか心外まさか!! あの和尚が俺らを殺そうとした、ヤバ過ぎだわ」

既に桶の底は黒ずんだ跡が残るだけであった。

「すいません。これはお詫びに」と店主に多めに銭を渡すと「どうなされましたか?」 「斯斯然然かくしかじか」 「あーあ、あのお坊様、無類の女好きで。悪霊を払ってあげると女性信徒を裸にしたり、妙薬らしきものを飲ませて犯したり、もうそれはそれは……」 「ただ大本山寺院の分家でしかも王の庇護ひごを受けてることから私らは『触らぬ神にたたりりなし』ですわ」 「ってことは何か恨まれるこことでも?」 

「『これからどちらに?』と尋ねられたので『悪者退治に』と応えただけですが」 

「ふむふむ。もしかしてあの峠を超えて行かれるつもりでは?」 

「そうですが……」 

「昼間はお気を付けて。途中に幾つもほこらがあって、実はそこは兵たちの基地であるから目立って止められるか、下手をすると捕まりかねませんよ」

「それは御親切にどうもありがとうございます」 


 そっかぁ! ……。 それほど重要な建物か? 何か見られてれては不美まづいものがあるから? 厳重な見張りってことだ。

ヤベエなぁ……でも剣の柄のルビ色は確かに近付けば近付くほど光を強く発する。ってことは間違いない! 三つのうちの他の二つの珠がその辺にゼッタイ在る筈。

「なぁ! ここからは危険だから、サヤは馬と狼を連れ戻ってくれないか」

「約束したでしょ! 一緒にって!」

「いや、それとこれは別だ」

「別じゃないよ。約束って誠実ってことでしょ(「民法1条2項:権利即ち約束事の行使及び義務の履行は信義に従い誠実・・に行わなければならない」これは明文化されていようがなかろうが古代よりの互いの暗黙の了解事なのです)。うちらの約束ってうわべだけだったの?」

「…………」(どうして俺の思い遣りが分からねんだよ)。 

「レイさん、俺らサヤさんの云うことに賛成だよ」と馬面を更に長くして、狼歯を大きく剥き出して、馬と狼がレイに云うと傍らのサヤも口元を噛み締めたままうなずきながら一往に皆がそこに佇んでいる。

「分かったっ! 皆んなありがと!」


 城のある山へのふもとで早めの睡眠をとることにした。起きると夜陰を掻き分けるように一歩二歩と分け入っていく。

意外、一斉に提燈が一行に射す(誰がこんな闇夜に行くことを知ったのか?)。闇を切り裂くビューとした矢の憤り音、グッサとレイに深く刺さる。胸を抑えうずくまる。顔は蒼白、呼吸が止まった。

ヤァァァァァァァア!! 山肌を震わす阿鼻叫喚あびきょうかん

絶叫するサヤに向って来るもう一本の矢、悲痛な身をかすめる。

や否や、ウゥォォォォオオと叫ぶ唸り声、森中の狼が聚合しゅうごう、炎の塊となった狼達、一斉に矢より早く突進、射った者の首を食い千切る、周りの兵たちの首を片っ端から食い千切りまくる。食い千切られた兵たちのなかに見たことのある顔、ロクではないか。馬は兵士どもの目を次から次へと蹴り潰す。九死に一生を得た兵どもはこの恐怖に身を山頂の方へと姿をくらます。今一度ロクのツラをと振り返るが在った筈の場所に亡きがらが消えている……。

レイの亡きがらの前にひざまずく――その少年の姿はもうこの世に非ずな姿――なんでぇなんでぇ―?? こうなるのォォオ!? とれた声のサヤ。


 これより三週間前。

「クシュ様、お呼びで」

「今日はロクよ、そなたの誕生日ではなかったのか」

「あー、忘れてました」

「百年もののワインを飲ませてあげようぞ」

「そんな高価なもの、口が恐れ多くて」

「まぁ、日頃の功績もあることだし無礼講ということで」

口にするロク、途端に青ざめ、身体中が痙攣、倒れる。「フフ、ざまぁ、死ね!」と云い捨てるクシュ。

勝利の酒はウマイ! とクシュが愛妻に目を遣りゴクンゴクンンと喉を鳴らし一息に飲み干す。すると、即効! 泡を吹き目を剥き出し、悶え息を引き取る。

傍らの妃は笑みを浮かべ「これで我が天下! おめでとうございます」 「妃さまのお陰です」と二人して安堵の征服感に酔う勇姿すがた

クショ王の妃であったがロクに横恋慕し、またこれを利用した詭謀キボウの勝利であった――このように希望達成には二つの手段ありと豪語憚らず者もあり――エデンの園の中央部に生えていた2本の木のうちの一つは一つは生命の樹。これは口にしたとしてもその後中々の努力を要する。

が、知恵の樹の実はいかにも美味しそうな姿に香りで人を惹きつける故、ついつい手を出してしまうという人間の習性の由。

巫山戯ふざけんな! そう人間を創った神よ。そなたこそ知恵の樹の実を食ったのではないか。

ロクの方に入れた筈のグラスをすり替えていた妃であったため難を逃れた暗殺計画だったのです。

この手の犯罪はこれを契機に半永久的にこの世につづいてくのでした。

恐ろし! 企み! 

特に三角関係の為せるわざ。三角関係とは人対人ばかりではない、人対物も立派な三角関係なのである。


 この後さっそく次の手を打ったロク。

三つの珠がある限り我が敵ぞ、安心してん寝れん、いつなんどき珠を持った者に滅ぼされないとは限らん、と。

常々間者を使っていたロク、茶屋の主人も間者か? 配下の者に万遍まんべんなく手を回すと、レイ一行の跡をつけさせていた情報を下に待ち伏せ、ついにこの時来たり! とレイ暗殺に成功したのです。

一体誰を信じて何を信じたら? この世のもう一つの非情な横顔。


 そして今、死んだような森と山々と渓流。

引き返そう。レイの亡きがらを馬の背に乗せて帰る準備が整うと。

サヤは膝を地面に着け「レイさん、私が出逢ったあなたは唯一の勇者。私は決してあなたを忘れません」と最期の別れキスを頬に。勇者を称えようとレイの腰の剣を抜き冷たくなったレイの口元へ、先の刃は心臓に突き刺さったままの矢に触れる。

、レイの指が動く、目が開く、胸の矢は無くなる、傷も跡形も無い、皆の体が固まる、我に返る、小躍りする皆皆。


 すると明け方の声。

「汝らは、『つよい、と、博愛のこれらふたつたま』は既に得ている。『きよいとした珠』はもうエバが悪しき知恵の実を口にした時から無いのである。お主らが『在る』と思えばその胸の内に在る物となるであろう」


そう云い終わると、明け方の空は消え、暗黒の雲に覆われ、雨、落雷、突風、山を覆う大洪水、樹木を薙倒なぎたおす濁流、宛然まるでノアの方舟のよう。

神がノアの方舟を完成したときは、ノアは600歳であった。

アダムから数えて10代目の子孫。

人間が次第に堕落し地上には悪がはびこったため、神は人類を滅ぼすことに決めた。

正しい人ノアに命じて方舟を造らせていたという別説も。

洪水の中、ノアの家族と多くの動物たちは難を逃れた。

これにひそみならうかの如く出てくる出て来る!! 

投降を誓い平伏す兵たち。

つづいて続々と強制労働を余儀なくされていた人々。

歓びの声は山より高く峰々から降り出す。その数、数千か数万か、真っ直ぐに向かって来る者あり。レイの父と母、サヤの両親も居た、抱き付き直直ただただ涙泪。

馬も狼も目にアツいもの。

するとこの動物達は人面を現わす、全身が人間に戻ったのである。

古代より例えば、メソポタミアの神は初めから人間の姿で表されたが、しかし通常の人間と区別するために、神の頭部にはマシュの牛男(人面牡牛)等々として以来、神としただけではなく悪人に仕立て上げようとするときはこの後の世においてもこれを真似した文化が多々発生する。


 神々しく耀くレイとサヤの内にぽっかりと咲く真っ赤なバラ、もうすでにそのトゲはなくなっており、紅く燃える光のような薔薇の姿――生ける神となった。宛然まるでこの世の新たなキングとクイーンの誕生である。



 エデンの園の『善悪の知識の木の実』を最初に口にしたエバ、次いでアダム。サヤはそのエバの子孫。この時から、人は人に為る、神の子ではなくなる。

神に近づこうとする者あり――そらを見、肩を組むレイとサヤであった――天は自ら助くる者を助く――天は自ら助くる者を助くるとは限らない。

人に頼らず自分自身で努力する者こそ、自ずからの身の内に天が開け、助け、幸福をもたらすということである。

 


 地球創世記に「命の木と善悪の知識の木」から始まったとはいえ。

ヒト細胞60兆億のうち死んでは生まれる細胞は地球創世記の所為せいにしては行かん、己自身の成せるわざ如何なのであるから。



 あたらしいフロンテアを見た者は仕合わせをったという不思議な云い伝えであった。

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エデンの園から来た使者が見た、世にも不知戯な言い伝え いく たいが @YeahYu

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