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「―聞いていた通りよ、世納クン。今日の放課後は空けといてね」


シャッとカーテンが開き、問題の彼が顔を出した。


楽しそうに笑いながら。


「分かった。一度ゆっくりと話がしたかったから、ちょうど良いや。ありがとね、榊原先生」


「…あんまりあのコをイジメないであげてね。今時の教師としては珍しく、教育に情熱を燃やすタイプなんだから」


「でも最近じゃ、燃え尽きてきているよね。つまんないの」


「誰がそうしたのよ」


涼子は立ち上がり、アタシから受け取ったコーヒーカップの底で、彼の額を小突いた。


「アイタッ! …でも意外と持ったよね。オレ、1ヶ月も持たないと思っていたんだけど」


「だから頑張り屋なのよ。あたしとしては、何とか来年には担任にさせてあげたいの。あなただって、留年なんてしたくないでしょう?」


「まっ、それはそうだね。親がうるさそうだし」


彼はベッドから下りて、身支度を済ませた。


「そろそろ正面から、あの人と向き合ってみるよ」


「そうしてちょうだい」


涼子が流し場にコップを持っていく為に背を向けた時、彼はキレイな顔にゾッとするような微笑を浮かべた。


「…ちゃんとオレのこと、知ってほしいしね」


「ん? 何か言った?」


「ううん。それじゃオレ行くね。次の授業に遅れたくないから」


「はいはい」


片手をブラブラと振る涼子の姿を見て、彼は保健室を出て行った。


「さて…何から話そうかな? 楽しみだなぁ」




―そして放課後。


あらかじめ担任の先生には話を通した。


帰りのHRが終わるのを、扉の向こうで待つアタシ。


緊張するなぁ。ほとんど口きいたことないし。


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