足の向くまま…風の吹くまま…
権田 Q三郎
第1話 無言美容室
その美容室は、閑静な住宅街にある小ぢんまりとした美容室だった…
完全予約制の店…
予約した時間に店に行くと入口でベレー帽を被った女性が立っていた…
その女性は、何も言わず何も聞かず店の中へ案内してくれた…
そして、一つしかないカット用の席に座らされ、何も言わず何も聞かず、その女性はカットを始めた。
店には、ただハサミの音だけ…チョキチョキ…チョキチョキ…心地いいリズムを刻んでいく…
やがて、その女性は、ハサミの手を止めて…
今度は、シャンプー用の座席に無言で案内する…
何も言わず何も聞かず、女性はシャンプーを始めた…
店には、ただシャンプーとシャワーの音だけが流れる…シャカシャカ…シャーシャー…
シャンプーが終わると、また無言でカット用の座席に案内され、ドライヤーで髪を乾かし、セットが始まる…ブォーンブォーン…ドライヤーの音だけが店内に響く…
最後にその女性は、鏡を持って私の頭の後側を写しながら、無言でニッコリ微笑んだ…
その後、レジに誘導され、女性は電卓を叩いて、金額を示した…3024円…
私は、財布から5000円札を出して渡すと、その女性は満面の笑顔になった…
なんか不気味な感じだが、凄く癒された気がした…
きっとこの忙しない世の中で、この言葉の無い世界は異次元空間であり、頭と心がリフレッシュしたのであろうか…
お釣りをもらい、私は店を出た。
店のドアを開けると、春のそよ風が私の頬をそっと撫ぜた…
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