第188話 仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その三十

 そんなこんなで、シーマ十四世殿下たちは福引のアレこと、「超・魔導機☆」を撃破し……


「三人とも、よく頑張ったねぇ」


「殿下も、プルソンさまも、ムッちゃんさんも、すっごくカッコよかったよ!」


「みっみみー!」


 ……駆けつけたはつ江ばあさん、モロコシ、ミミから賞賛の声を浴びていた。


「ふ、ふん! 一応は魔界の危機だったし、魔王の弟として必要なことをしただけだ!」


「うむ! 魔界のみんなの安全を守れて、一安心なのだ!」


「あ……、えーと……、あんまり大事にならなかったならよかった、かな」


 シーマ、プルソン、ムツキも、ツンデれたり、清々しい表情を浮かべたり、憔悴しながらも笑ったり、三者三様な反応をした。


 まさに、そのとき!


「いやはや、御三方のご活躍は、実に素晴らしかったですぞ! さて、では、代表して、ムッちゃん氏にインタビューをしてみましょう!」


 リッチーが意気揚々と、マイクをムツキに向けた。


「え……、ぼ、僕に?」


「はい、そうですとも! いかがですか? 魔界を救ったお気持ちは」


「えーと……、大きな被害が出なかったなら……、よかったと思います……」


「そうですか、そうですか! お話によると、魔王さまから『不意に魔界へ転移しちゃったけど、元の世界に戻らずこっちで暮らしたい、でも、魔界に上手く馴染めてない人たちむけの学校的なやつ』の学生代表に指名されたとか?」


「あ……、はい……、そうですね」


「もちろん、お受けになるんですよね?」


「あー……、えーと……」


 矢継ぎ早の質問に、ムツキはリッチーから目を逸らし、はつ江の方を見つめた。すると、はつ江はニッコリと微笑んだ。


「ムッちゃんなら、絶対大丈夫だぁよ!」


 はつ江がそう言うと、シーマが腕を組んでコクリとうなずいた。


「まあ、目的はともかく、出身地も年齢も性別もバラバラなヤツらを統率できてたんだし、適任者だと思うぞ? それに、魔術の腕もわりといい方だし」


 二人の言葉を受け、ムツキは意を決した表情を浮かべ、リッチーに向き直った。


「えーと……、まだ自信はないですが、それが僕に着いてきてくれたヤツらの幸せにもつながるなら、受けてみようかと。それに、僕自身もしっかり勉強して、今度こそマテオさんたちの役にたちたいですし」


 ムツキの言葉に、リッチーは眼窩をキラキラと輝かせた。


「素晴らしい! 素晴らしい決意ですぞ! では、皆さま! 新たな一歩を踏み出すことを決めたムッちゃん氏に、あらんばかりの拍手と祝福を!」


 高らかなリッチーの言葉に、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。


「あのさぁ……、これって兄貴が前に観てた……」



  パチパチパチパチ


「ムッちゃん、おめでとうだぁよ!」


「おめでとうなのだ!」


「ムッちゃんさんおめでとー!」


「みみみみー!」


  パチパチパチパチ



「やっぱり……、このくだりか……」


 赤い空の下には、拍手の音とシーマの力無い呟きがひびいた。



 そんなこんなで、旧カワウソ村でのイザコザに、魔界の片隅で愛を叫んだ金色、的な決着がついたころ、魔王城の図書室では……



「なるほどー。これで一件落着、世はこともなしですねー」



 ……白いドレスを着た、緑髪の眼鏡っ娘、段田りあんことダンタリアンが、机に置いた分厚い本のページをパラパラとめくっていた。


「たしかにー、反乱分子だったとしてもー、最終的に陛下と対立するものの退治に参加してー、怪我人も出さずにしょうりしましたからー、魔王側の圧勝という記載に相違はないですねー」


 ダンタリアンはそう言うと、パタリと本を閉じ、そばに置かれた金色の小さな箱と、ガラスの小瓶をひとなでした。


「もしもー、反乱分子の方々が陛下からのご提案を拒否するようならー、私がこちらの『粘るんデス』で拘束してー、ギンチロトゲアザミから作った昏倒薬で無力化しー、魔界から強制転移させるプランBを実行するところでしたがー」


 ダンタリアンは顔を上げ、すべての頭巾たちにおめでとう、な状況が映るモニターを見つめた。


「ことを荒立てずに、事態が終息するならー、それが一番ですねー。そうすればー、お優しい陛下や殿下が心を痛める必要もありませんしー」


 ダンタリアンは穏やかに微笑むと、ゆっくりと立ちあがった。


「さてー、久々にこの姿になりましたしー、異界にまつわる文献でも読み漁りますかねー。ちゃんと勉強してー、今度はー、私もバッタ仮面シリーズに加えて欲しいですしー」


 のんびりとした声とともに、ダンタリアンの姿は図書室の暗がりへと消えていった。


 またまた一方そのころ、旧カワウソ村からちょっと離れた平原では……


「当代魔王! お前、あんな面白そうな魔法あんなら、俺たちにもかけろよ! そうすりゃ、もっと白熱した闘いができたじゃねぇか!」


「いえ、迷宮お……、じゃなくて灰門さん、今回は子供たちを主役にしないといけませんでしたから……」


「陛下のおっしゃるとおりよ灰門! アンタは本っ当に昔っから、自分が楽しむことしか考えてないんだから!」 


「あらあら、皆さま。今はケンカなどせずに、子供たちの素晴らしい活躍を讃えてあげましょう?」


「ハーゲンティ局長のおっしゃるとおりかと……、ところで、私が吹っ飛ぶとき、ハリボテの中身が見えてませんでしたよね?」


「陛下、陛下ー! オレお腹すいたー!」

「こら、シャロップシュ! 話の腰を折るんじゃない!」

「そうですよ。それに、ここに来る前、おやつにアップルパイを食べたでしょうに……」



 ……バッタ仮面シリーズこと、魔界の重鎮たちがほんのりとイザコザしていた。


 しかしながら、カワウソ村の死闘(仮)は、こうして無事に幕を閉じたのだった。

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