第186話 仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その二十八

 そんなこんなで、シーマ十四世殿下は、プルソンとゴルトを引き連れて、「超・魔導機☆」退治に向かうことになった。


「じゃあ、向かうとしますか」


 脱力気味ながらもシーマが声をかけると、プルソンは目をキラキラさせてうなずいた。


「了解なのだ! 弱点の探知は任せるのだ!」


 そんなプルソンとは対照的に、ゴルトは浮かない表情でうつむいた。


「別に僕なんか連れていかないで、キミらだけで片付ければいいじゃないか……」


 弱気な言葉に、プルソンが耳を後ろに反らし、尻尾をパシパシと揺らした。


「こら金色! バッタ仮面から名指しで頼られたのに、何を気弱なこと言っているのだ!」


「だって……、『超・魔導機☆』もあんなことになったし、鍵も手に入らなかったし……、僕の魔術なんてキミらに比べれば、大したことないんだろ? 足引っ張るだけになるって……」


 いじけた言葉を受け、シーマが片耳をパタパタと動かしながら、小さくため息を吐いた。


「えーとな、兄……、バッタ仮面がああ言うってことは、君の力より足りなくても多くても、上手く暴走が止められないように設定されてるはずなんだ。だから、協力してくれないか?」


 シーマが諭すように声をかけると、ムツキはさらに肩を落とした。


「でも……」


 やっぱり自信がない。そんな弱音をムツキが吐こうとした。


 まさにそのとき!



「それでは、ここで魔界各地からよせられた応援メッセージを紹介しますぞ!」


 

 モニターに、意気揚々と司会進行するリッチーの姿が映し出された。


「一応、緊急事態のはず、なんだよな……?」


 シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らしたが、画面の中のリッチーは気にせずに視界を進めた。


「まずは魔界商店街組合の方々!」


 張り切った声とともに、画面には博物館の街で商売をする面々が映し出された。


「あ、お母さんと、お父さんと、おじいちゃんも映ってるー!」


「みみー!」


「ほうほう、これを機にすかうとされたりするかもしれないねぇ」


 ばあちゃんと仔猫ズは、身内がテレビにでたときのような反応をした。そんな中、画面ではユキが、せーの、と小さく号令をかけた。



「シーマ殿下、頑張ってくださーい!」

「シーマ殿下、頑張ってくださーい!」

「シーマ殿下、頑張ってくださーい!」



 一同からの声援を受け、シーマは片耳をパタパタうごかした。


「……まあ、やるからには全力を尽くすかな」


 満更でもなさそうにシーマが呟くと、画面には再びリッチーが映し出された。


「次は! 鉱山の国と、熱砂の国から、この方々です!」


 高らかな声とともに画面が切り替わり、シトリー、オリバーたち宝石博物館の面々、そして笑顔のセクメトが映し出された。



「プルソン様、応援しております!」

「プルソン様、頑張ってー!」

「プルソン様なら、絶対に成し遂げられますよ」



 若干バラバラな声援を受け、プルソン様は目頭を軽く抑えて、耳と尻尾をピンと立てた。


「セクメト……、皆……、我が輩、頑張るのだ……!」


 プルソンが決意を新たにする中、画面にはまたしてもリッチーが映し出される。


「さあ、最後はこの方々……、カワウソ村のみなさんです!」


 画面には、村長のマテオを中心に、カワウソ村の全村人たちが映し出された。その途端、ゴルトは目を見開いて画面に近づいた。


「!? み、みんな!?」

 


「ムツキ! 頑張って!」

「ムツキなら、絶対大丈夫だよ!」

「負けるなー! ムツキー!!」

「フレーフレー! ムーツーキー!」


 

 ワチャワチャしたカワウソたちの応援を受け、ゴルト……、もといムツキはふたたびうつむいた。


「みんな……、僕、あんな迷惑かけちゃったのに……」


 小さな呟きに、はつ江がにっこりと微笑んだ。


「生きてりゃ失敗したり迷惑かけたりなんてこと、沢山あるあるだぁよ。悪いことしたと思ったんなら、まずはちゃんと謝ればいいだぁね」


「……でも、謝っても許してもらえなかったら?」


「わはははは! そしたら、そんときにまたどうするか考えればいいだぁね! あれなら、私も一緒にあやまりにいくだぁよ!」


「……ははは。相変わらずなこと言うんだから」


 ムツキも表情を緩めると、シーマが尻尾の先をピコピコと動かした。


「まあ、あの応援のしようじゃ、絶対に許さない、なんて思ってないだろ。ともかく、謝りにいくにしても、まずは一緒にあの福引のアレを止めにいかないとな」


 シーマの言葉に、プルソンもコクコクとうなずいた。


「そのとおり! 今は応援してくれた皆のためにも、魔界の危機を取り除くことが最優先なのだ! 一緒にいくぞ、金色!」


 シーマのプルソンの言葉に、ムツキは意を決した表情でコクリとうなずいた。


「……分かった。僕も一緒にいくよ」


 ムツキの言葉に、シーマとプルソンは穏やかに微笑んだ。


「ああ、よろしくな」


「一緒に頑張るのだ!」


「うん」


 突撃隊組三名の話がまとまると、お留守番組三名もニコリと微笑んだ。


「みんな、頑張るだぁよ!」


「殿下もプルソンさまも、ムッちゃんさんも頑張れー!」


「みんみみー!」


 応援の声に、突撃隊組三人はコクリとうなずいた。


 かくして、仔猫殿下たちは、はつ江ばあさんたちの声援を受け、「超・魔導機☆」のもとに向かったのだった。

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