第166話 仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その九
シーマ十四世殿下のもとへ向かう方法を模索していたはつ江ばあさんたちのもとに、バッタ屋さんのチョロとヴィヴィアンが舞い降りたのだった。
「チョロちゃんや、風邪はもう大丈夫なのかい?」
「大丈夫なの?」
「みみー?」
はつ江と仔猫ちゃんズは、心配そうな表情で首をかしげた。すると、チョロはニカッと笑って、胸をトンとたたいた。
「へい! おかげさまで、このとおり、ピンピンでございやす!」
チョロの答えをうけて、三人はホッとした表情を浮かべた。
「それなら、よかったー!」
「みー! みー!」
「本当だぁね! それで、チョロちゃんとベベちゃんは、なんでここに来たんだい?」
はつ江が問いかけると、ヴィヴィアンがパサリと翅を動かした。
「お館様から、『今日はちょっとしたイザコザがあるから、アンタたちは殿下たちのお手伝いをしてきなさい』と、命を受けましたの」
「つーわけで、お手伝いに馳せ参じたわけでございやすが……、殿下はどちらに?」
「そうですね、お姿が見えませんわね?」
ヴィヴィアンとチョロが首をかしげると、ばあさんと仔猫ちゃんズはションボリとした表情を浮かべた。
「あのね、チョロさん、実は……」
モロコシが耳をふせて、カクカクシカジカと、バッタ屋さんたちに向かって、説明をはじめた。二人は、ふんふん、とうなずきながら話を聞いた。
「……それで、殿下のところにいけなくて、困ってるんだ」
「みみー……」
「チョロちゃんや、なにかいい方法はないかい?」
落胆した三人の様子を見て、チョロは再びニカッと笑った。
「それなら、アッシらにお任せくだせぇ! ヴィヴィアン、皆様がたを乗せて行けっか?」
話をふられたヴィヴィアンは、ピョインと飛び跳ねた。
「当たり前ですわ! アタクシのことを誰だと思っていまして?」
「よっしゃ! さすが天下のムラサキダンダラオオイナゴさまだぜ! そんじゃ皆様がた、アッシらが旧カワウソ村まで、超特急でご案内いたしやすぜ!」
ヴィヴィアンとチョロの言葉を受け、はつ江と仔猫ちゃんズは目を輝かせ、ついでに、ミズタマも複眼をキラキラさせた。
「チョロちゃん、べべちゃん、本当にありがとうね!」
「二人ともありがとー!!」
「みー! みみみみー!」
「ありがとうな! ヴィヴィアンに、チョロのアネキ!」
喜ぶ一同の姿を見て、チョロは笑顔で鼻の下をこすり、ヴィヴィアンは翅をパサリと動かした。
「なぁに、困ったときはお互い様でございやすよ!」
「さあ、皆さま! 共にシーマ殿下の奪還に参りましょう!」
「そうだぁね!」
「うん! 行こう!」
「みみー!」
「俺も手伝うぜ!」
ヴィヴィアンの掛け声をうけ、ばあさんと仔猫ちゃんズwithミズタマも元気いっぱいの声をあげた。
しかし……
「あの……、ちょっと、いい?」
……緑ローブだけは、戸惑った表情を浮かべて挙手をした。
「へい、どうしやした? なんか緑色の姐さん」
チョロか問い返すと、緑ローブはヴィヴィアンにちらりと視線を向けた。
「この話の流れだと、この大きなバッタに乗っていくんだよね?」
「あら、アタクシはバッタではなく、イナゴでしてよ」
「あ、そうなんだ……、ゴメン。それで……、手伝ってくれるのはいいんだけど……、私ちょっとバッタとかイナゴとか苦手で……」
緑ローブの言葉に、チョロはつぶらな目を見開いた。
「そうでございやしたか!? そいつぁ、失礼しやした!」
「あ、うん……」
「たしかに、慣れないかたにゃ、イナゴの背に乗るのは難しいでございやすもんね!」
「うん……、うん?」
「でも、安心してくだせえ! ヴィヴィアンなら、全員抱えても平気でございやすから!」
「あ、えーとね? そうじゃなくて……」
「な! ヴィヴィアン!」
「もちろんですわ! アタクシなら、皆様を安心安全な空の旅に、ご案内することも朝飯前ですわ!」
「え、えーと……、でもほら、私ひとりだったら転移魔術で帰れるし……」
「まあまあ、遠慮しねぇでくだせぇ! そんじゃ、行くぞ! ヴィヴィアン!」
そんなこんなで、チョロはヴィヴィアンに飛び乗り……
「任せてくださいまし! とう!」
ヴィヴィアンはバサリとした羽音とともに、他の一同を抱えて飛び上がり……
「べべちゃんや! 今日もよろしく頼むだぁよ!」
はつ江は人生二回目のイナゴによるフライトにも、まったく動じず……
「ヴィヴィアンさんが連れてってくれるなら、ひとっ飛びだね!」
「みー! みみみー!」
モロコシとミミは耳をピンと立てて、ヴィヴィアンの飛行能力をほめ……
「そんな……、モロコシ様とミミさんに、そう言っていただけるなんて、恐悦至極ですわ……」
ヴィヴィアンがほんのりピンク色に染まりながら照れ……
「もぅ、マヂ、無理……」
緑ローブは苦手なイナゴに抱きしめられ、グッタリし……
「大丈夫だって、緑色のアネキ! ムラサキダンダラオオイナゴの抱擁力は魔界随一だから、途中で落とされたりはしないぜ!」
ミミの胸ポケットに戻った水玉が、フォローを入れ……
「ほうようりょくって……、そういう意味じゃ……なくない……?」
……グッタリした緑ローブが、力なく呟いた。
かくして、「ほうようりょく」の使い方に疑問がていされながらも、はつ江ばあさん一同は、仔猫殿下の救出へと向かったのだった。
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