第156話 ビックリな一日・その十六

 セクメトの一撃から復活した「海綿式魔導人形・スポンジア」を目の当たりにしたシーマ十四世殿下一同は……


「ほうほう、あのスポンジちゃんも、おまじないの言葉を消さないといけないみたいだぁね」


「そうだな、はつ江。でも、パッと見たかんじ、どこに書かれているか分からないんだよなぁ」


「それでも、セクメトの一撃を食らえば、並のゴーレムなら活動停止するのだ。『海綿式魔導人形・スポンジア』、伝説と言うだけあって、なかなか手強いのだ……」


 ……わりと律儀に、ゴーレムについてのおさらいの会話をしてくれていた。


「おーっほっほっほっほ! それでは、説明するざます!」


 一同が状況を解説してくれるなか、レディー・ダークスカーレットがさらに詳しい解説に乗りだした。


「あの『海綿式魔導人形・スポンジア』は、体内におまじないの言葉が書かれた核が五つ埋め込まれているざます! それを正しい順番で破壊していかないと、動きを止められないざます!」


 得意げな表情のレディー・ダークスカーレットの隣で、バッタ仮面が腕を組んでコクリとうなずいた。


「その通りなのだ! ちなみに、核には一分ごとにランダムで移動する魔術式も施してあって、なおかつ、並大抵の透視魔法では見つけられられないくらいの迷彩魔術式も施してあるのだ!」


 バッタ仮面も解説を付け加えると、シーマが耳と尻尾をダラリと垂らした。


「城の掃除用ゴーレムに、なんでそんな中ボスみたいな機能がついてるんだよ……」


「もちろん、制作者の趣味なのだ! ともかく、そう言うわけだから……、プルソン君!」


 不意にバッタ仮面に声をかけられ、プルソンはビクッと跳びはねた。


「君の得意とする、秘密を暴く魔術を使って、セクメトさんを助けるのだ!」


「……我が輩が、セクメトを助ける?」


「そうなのだ! 今、セクメトを救えるのは、君しかいないのだ!」


「我が輩しか……、よーし! 分かったのだ!」


 どっちがどっちか大変分かりづらい会話をした後、プルソンはベランダの手すりを掴んで身を乗り出した。そして、足を踏み鳴らして「魔導人形・スポンジア」を睨みつけた。


 そんな中、セクメトと「魔導人形・スポンジア」はというと……


「うごうごうごうごうごうごうごうごうごうごうごうご!」

「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!」


 ……再び、パンチのラッシュを続けていた。

 ラッシュが一区切りついて飛び退くと、セクメトは尻尾を大きくふりながら「海綿式魔導人形・スポンジア」を睨みつけた。


「一撃が軽いとは言え、あまり長引くと厄介ですね……、早くけりをつけないと……」


 セクメトは再び必殺の一撃を繰り出そうと構えた。


 まさに、そのとき!


「セクメト! 左の浅掌せんしょう動脈弓どうみゃくきゅうの中央辺りを狙うのだ!」


 プルソンが、かなり細かい名称で、セクメトにアドバイスを叫んだ。

 セクメトは戸惑った表情を浮かべたが、すぐに穏やかに微笑んだ。


「分かりました、プルソン様! お任せ下さい!」


 そう言い放つと、セクメトは一撃必殺の構えをして、「海綿式魔導人形・スポンジア」の左手の平に突っ込んでいった。


「たぁーっ!」


「うごー」


 かけ声とともに左手の平を引き裂かれ、「海綿式魔導人形・スポンジア」は鳴き声を上げながら飛び退いた。しかし、その速度はさっきまでよりも、いくらか遅くなっている。たしかな手応えを感じ、セクメトはニッと笑って頷いた。


「プルソン様! 効いています!」


「それはよかったのだ! 次は右の浅側頭せんそくとう動脈どうみゃくの辺りを狙うのだ!」


「分かりましたわ……はっ!」


「うごー」


 今度は右の側頭部に蹴りが入り、再び「海綿式魔導人形・スポンジア」の動きが遅くなる。


「次は、左鎖骨下動脈!」


「はいっ!」


「左の足背そくはい静脈弓じょうみゃくきゅうの中央!」


「やぁっ!」


「右鎖骨下動脈!」


「とうっ!」


「うごー」


 セクメトの一撃が入るたび、「海綿式魔導人形・スポンジア」はの動きは遅くなっていった。


 そして――


「最後、大動脈弓のあたりなのだ!」


「分かりました! これで……、とどめです!」


「うごー……」


 ――胸の中央を貫かれ、「海綿式魔導人形・スポンジア」は光の球となり、ティウンティウンと音を立てながら消えていった。


 その様子を見て……


「そういや、むかし孫がやってたピコピコで、こんなかんじの音を聞いたことがあるねぇ」


 はつ江は感心しながらコクコクと頷き……


「そうなのだ! 本当は、バラバラになりながら、相手の背面に向かって突っ込んでいく機能とかもつけたかったんだけど、そうするともうちょっと組み立てに時間がかかるから今回はパスしたんだ。でも、弐号機には是非つけたいんだよなぁ。あと、相手の動きをとめたり、竜巻を起こしたりとか……」


 魔王……、もといバッタ仮面はブツブツと「海綿式魔導人形・スポンジア」の改造案を口にし……


「だから、なんで城の掃除用ゴーレムにそんな機能をつけようとするんだよ……」


 シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力し……


「まあ、自分用につくるものこそ、やたら細かいところにこだわりたくなるから……、ざますよ」


 ……レディー・ダークスカーレットは、若干素にもどりつつ、話をまとめたかんじにした。

 

 一同がそんなゆるいやり取りをするなか、ライオンさん夫婦(仮)はというと……


「やっぱり、セクメトは向かうところ敵なしなのだ」


「なにを言うのですか、プルソン様! 今回は貴方のおかげで、強敵を無事乗り越えることができたんですよ!」


「そ、そうか……」


「はい! 私が強くなれるのは、いつだって貴方がいてくれるからなんです!」


「そうか……、そ、それなら、武の道を究めるまでは、我が輩の婚約者でいてはくれまいか?」


「何をおっしゃるんですか、かりに道を究めることができたとしても、貴方の隣は誰にも譲る気はありませんよ!」


「……そうか!」


 ……なんだかんだで、のろけていた。

 

 かくして、トランペットの音を出す魔導機の修理の件がわりとスッカリ忘れ去られながらも、仔猫殿下とはつ江ばあさんの鉱山の国での一日は、ゆるやかに幕を閉じていくのであった。

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