第155話 ビックリな一日・その十五

 突如として再登場した『海綿式魔導人形・スポンジア』により、シーマ十四世殿下一行は困惑したり、のほほんとしたり、脱力したりしていた。

 そんな中、レディー・ダークスカーレットはバッタ仮面に向かって、勝ち誇ったような笑みを向けた。


「さあ、『海綿式魔導人形・スポンジア』よ! バッタ仮面に攻撃をするざます!」


 レディー・ダークスカーレットが命令とともに手を振りかざすと、『海綿式魔導人形・スポンジア』はゆるゆるとした動きでバッタ仮面に殴りかかった。

 

 そして――


「うごー」


「うわー、なんてパンチ力だー」


 ――脱力感満載の鳴き声とともに繰り出されたパンチによって、バッタ仮面は棒読みなセリフとともにベランダへ吹き飛ばされた。


「な!? あのバッタ仮面が、吹き飛ばされただと!?」


「よく分かりませんが、あのゴーレムは、かなりの手練れ……、なのです、ね?」


 ライオンさん夫婦(予定)が、若干ベクトルが違うかんじで困惑していると、レディー・ダークスカーレットが空中で、ご令嬢がよくやる高笑いのポーズを取った。


「おーっほっほっほ! 今回は私の勝ちざますね!」


 そんなかんじで勝ち誇っていたレディー・ダークスカーレットだったが――


「うごー」


「きゃぁー、なにをするざますー」


 ――バッタ仮面と同じく、脱力感満載の鳴き声とともに、ベランダまで殴り飛ばされた。


 そんな一連の騒動を見て、はつ江は感心したように、コクコクとうなずいた。


「ほうほう、スポンジちゃんはいやいや期なんだねぇ……」


 はつ江の発言を受け、シーマもヒゲと尻尾をダラリと垂らしながらうなずいた。


「ああ、多分、『ゴーレムが暴走しちゃって、操ってた本人にも制御ができなくなっちゃった』っていうくだりなんだろうな……」


 シーマが脱力しながらそう言うと、わざとらしくうずくまっていたバッタ仮面とレディー・ダークスカーレットが、同時にひょこりと起き上がった。


「シーマ君の言うとおりなのだ! 伝説によるとあの『海綿式魔導人形・スポンジア』は、勇敢な番の獅子が力を合わせないと、停止できないことになっているのだ! ね、プルソン君!」


「……え?」


 急にバッタ仮面から名指しで話をふられたプルソンは、キョトンとした表情で尻尾の先をクニャリと曲げた。


「そうざます! 館内の人たちの避難は、謝りに行ったときに警備員の小っちゃい猫ちゃんたちに頼んだから、あとは勇敢な獅子たちが力を合わせて『海綿式魔導人形・スポンジア』を止めるだけざます! ね、セクメトさん!」


「は、はい……?」


 同じく急にレディー・ダークスカーレットから話をふられて、セクメトもキョトンとした表情で尻尾の先をクニャリと曲げた。


「うごー」


 混乱と脱力を極めるベランダの様子をよそに、『海綿式魔導人形・スポンジア』は、鳴き声をあげて腕を振り回し続けている。そんな様子を見て、セクメトは凜々しい表情を浮かべた。


「……ともかく、あのゴーレムを止めればいいのですね。それでは……、フンッ!」


 かけ声と同時に、セクメトはベランダの手すりを飛び越えて、中庭に飛び出した。


「あれまぁよ!? せくめとさんや、危ねぇだぁよ!?」


 はつ江が声をあげると、プルソンがションボリとした表情で首を横に振った。


「大丈夫なのだ。セクメトは、飛行術もマスターしているから、空中戦もお手のものなのだ。だから、今回もきっと、我が輩が手伝わなくても一人でなんとかできてしまうのだ……」


「ほうほう、そうなのかい。でも、本当に一人で大丈夫なのかい?」


「本当に大丈夫なのだ。ほら、見てみてみるといいのだ」


 プルソンはションボリとした表情のまま、『海綿式魔導人形・スポンジア』に向かっていくセクメトを指さした。

 

 その先では――


「うごうごうごうごうごうごうごうごうごうごうごうごっ!」

「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんっ!」


 ――『海綿式魔導人形・スポンジア』のパンチを、セクメトが同じくパンチで正確に受け止める、という既視感満載のラッシュが繰り広げられていた。


 ラッシュが一区切りすると、セクメトはそれまでしまっていた鋭い爪を出して手を構えた。


「……これで、とどめです!」


 その言葉とともに、『魔導人形・スポンジア』は鋭い爪に引き裂かれた。


「うごー……」


 力ない叫びとともに真っ二つになる『魔導人形・スポンジア』を見て、プルソンは力なくため息を吐いた。


「ほら、我が輩が手を貸さなくても、ちゃんと決着がついたのだ……」


 プルソンは、ションボリとした表情でうなだれた。


「いくら、セクメトが慕ってくれていても、やっぱり彼女に我が輩は必要ないのだ……」


「そんなことはないだぁよ、ぷるそんさん」


 はつ江は背伸びをして、プルソンの頭をポフポフとなでながらフォローの言葉を口にした。


 まさに、そのとき!


「うごごごごー」


 真っ二つになった『魔導人形・スポンジア』が、脱力感満載の鳴き声をあげながら、みるみるうちに元に戻っていった。


「うごー」


 脱力感満載の鳴き声をあげて『魔導人形・スポンジア』が背伸びをすると、セクメトは眉間に軽くシワをよせた。


「……どうやら、一筋縄ではいかないようですね」


 セクメトは吐き捨てるようにそう言うと、再び鋭い爪を構えた。


 かくして、なんか珍しくバトルものみたいな展開になりながら、『魔導人形・スポンジア』との死闘は、次回に続くのだった。

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