第154話 ビックリな一日・その十四

 突如として襲来したレディー・ダークスカーレットと、それを追って登場したバッタ仮面に遭遇したシーマ十四世殿下一行だったが……


「あー……、レディー・ダークスカーレットも、バッタ仮面もちょっとこっちに来てもらえるか?」


「分かったざます!」


「了解なのだ!」


 ……恒例の作戦会議が繰り広げられることになった。


 シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らしてうなずくと、今度ははつ江に向かって手招きをした。


「えーと、はつ江も念のためこっちにきてくれ」


「分かっただぁよ!」


 はつ江もニッコリと笑って返事をし、四人はバルコニーの隅に集合した。


 そして……


「毎度毎度のことながら、一体なにしてるんだよ?」


 ……脱力したまま、いつもの質問を投げかけた。


 シーマにジトっとした目を向けられて、赤ローブ……もとい、レディー・ダークスカーレットは仮面の下でタジタジとした表情を浮かべた。


「その……、今回の騒ぎのお詫びに、ちょっと手伝ってほしいって魔王に言われたから……、あ! い、言われたからざます!」


「あ、うん。この打ち合わせでは、口調は無理しなくていいから……」


「そ、そうなんだ……」


 レディー・ダークスカーレットが赤面すると、シーマは魔王にジトっとした目を向けた。


「それで、ちょっと手伝ってもらうって、なにをするつもりなんだよ?」


「ふっふっふ、それは見てのお楽しみなのだ!」


「だから、今はいつも通りでいいから。それに、なのだ口調だと、プルソン王と被ってややこしいだろ」


「そうか……」


 魔王……、もとい、バッタ仮面が仮面の下でシュンとした表情を浮かべると、シーマは腕を組んで片耳をパタパタと動かした。


「まあ、なにか考えがあるなら話を合わせるけど……、そもそもプルソン王はバッタ仮面の正体を知ってるんだよな?」


「いや……、本当は引き入れるつもりだったんだけど……、ハーゲンティさんに協力を頼んだあたりで、『正体不明の正義の使者が現れたらしいのだ!』って、目を輝かせながら喜ばれてしまってな……」


「ああ、そうなのか……」


「ああ。だから、言うに言えなくなって……、もう魔王の座を譲るときに、正体を明かして、バッタ仮面オリジンの座も譲るかんじにしようかなって」


「なんか、無駄に壮大な話になりそうだな……」


 シーマは再びヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力すると、今度ははつ江に顔を向けた。


「じゃあ、そんなかんじみたいだから、今回もバッタ仮面が兄貴だとは知らないていで、話を合わせてもらえるか?」


 シーマの言葉を受け、はつ江は目を見開いた。


「あれまぁよー。バッタ仮面さんは、ヤギさんだったのかいー」


「はつ江……、そのくだりは昨日もうやったから……」


「わはははは、悪かっただぁよ!」


 カラカラと笑うはつ江に向かって、シーマは力なく、もう、と呟いた。それから、気をとりなおすようにコホンと咳払いをして、レディー・ダークスカーレットとバッタ仮面に顔を向けた。


「あー、それじゃあ、こっちは話を合わせるから、二人もなんかうまくやってくれ」


「分かったのだ!」


「了解ざます!」


 二人は元気よく返事をすると、シーマにジトっとした目を向けられながら、空中へと戻っていった。


「レディー・ダークスカーレット! お前の悪行もこれまでなのだ!」


「おーっほほほほ! バッタ仮面、貴方の方こそ、今日でおしまいざますよ!」


 二人が再びヒーローもののようなやり取りを始めると、プルソンが緊迫した顔で手を握り締めた。


「レディー・ダークスカーレットとやら、一体なにをたくらんでいるのだ……!?」


 プルソンに続いて、セクメトも緊迫した表情を浮かべて、中庭を見渡した。


「周りの方々に被害が出なければいいのですが……」


 ライオンさん夫婦(予定)心配する中、シーマが黒目を大きくさせて、できる限り無邪気っぽい表紙を浮かべた。


「だ、大丈夫ですよー。バッタ仮面さんなら、どんな相手にも負けませんよー」


 続いて、はつ江が笑顔でコクコクとうなずいた。


「うんうん、バッタ仮面さんはとっても強いからねぇ」


 二人の言葉を受けて、プルソンが尻尾の先をピコピコと動かした。


「それは、この間魔王からもらった『バッタ仮面大全』で読んだから知っているのだが……、相手は大全にも載っていない敵だから心配なのだ……」


「なに作ってるんだよ、あのバカ兄貴……」


 プルソンの言葉に、シーマがまたしてもヒゲと尻尾をダラリと垂らした。


 まさにそのとき!


「おーっほほほほ! 今日は決着をつけるために、とっておきのヤツを用意したざます! いでよ!」


 レディー・ダークスカーレットの言葉と同時に、虚空に魔法陣が現れた。


 そして……


「うごー」


 ……魔王城の地下迷宮あたりで出現した気がする、黄色いスポンジのゴーレムが現れた。しかも、今回は博物館の屋根くらいまである大きさで、脱力感満載の鳴き声つきだ。


 そんなわけで、再登場したスポンジゴーレムに……


「な、こ、これは、伝説の……『海綿式魔導人形・スポンジア』ではないか!?」


 魔王……、もといバッタ仮面はビックリ仰天し……


「で、伝説の魔導人形!? やはり、あいつは一筋縄ではいかない敵なのだ……」


 プルソンはちょっとオロオロし……


「素材はスポンジのようですが、あの大きさでは周囲に危険が……、早く避難指示をださなくては……」


 セクメトはけっこう現実的な心配をし……


「ほうほう、あんなに大っきいと、お城の壁もお掃除できそうだねぇ」


 はつ江は、のほほんとした感想を述べ……


「たしか、地下迷宮に行った日の夕飯のときに、新しい掃除用魔導機を思いついたって言ってたから……、多分、本当に城の外壁掃除用に作ったんだと思うぞ……」


 ……シーマは、脱力しながら『海綿式魔導人形・スポンジア』の本来の用途を教えてくれた。


 かくして、バッタ仮面最大のピンチが訪れたかんじになりながら、事態は収束に向かっているっぽくなったのだった。

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