第152話 ビックリな一日・その十二
襲撃事件について、動機の取り調べをしていた魔王だったが――
「まあ、自分の作りたいものだけを作って暮らしていきたいよな……」
「本当に、そうですよね。大体、具体的な指示も出さず、『そちらに全てお任せします』って言っておいて、いざできあがったら、『これはちょっと……』とか言い出す客先が多すぎて……」
「ああ、それはへこむな。なら、はじめから具体的に指示してくれって思うよ。こっちは、『やっほぅ! 久々に全力で好きなもの作れるぜ!』って、ウッキウキで製作したのに」
「そうそう! それなんですよ!」
――わりと赤ローブと意気投合していた。
どうやら、魔導機やその他諸々の制作が好きな身としては、色々と思うところがあったらしい。
「まあ、それでも、だ。相手が必要としてるものを作る、っていうのも仕事の一つだからなぁ……」
魔王がションボリとした表情でこぼした言葉に、赤ローブは力なくうなだれた。
「魔界でも、そんな感じなんですか……」
「ああ、そんな感じだ。でも、プルソンなんかは、わりと分かりやすくかつ作業がしやすいように、自分の要望を伝えてくる方だったろ? それなのに、なんでケンカ別れしちゃったんだ?」
魔王が問いかけると、赤ローブはバツが悪そうな表情で首筋を掻いた。
「たしかに、そうでしたが……、その、異世界に来たなら……、自分の力がなんというか、こう、革新をもたらすものだ、と思って……」
「まあ……、君たちの世界と比べて、だいぶメルヘンチックな世界だという自覚はあるが……、決して技術的に後れをとっているわけではないからな」
「そうですか……」
赤ローブが力なく相槌をうつと、魔王は淋しげな表情でため息を吐いた。
「結局どんな世界にいっても、相手の意見を尊重しなきゃいけないときもあるし、自分の信念を貫かないといけないときもあるし、どっちかを選ぶんじゃなくて上手い折衷案を考えなきゃいけないときもある……、そんなもんなんじゃないかな」
「……それは、私たちのリーダーがトップになった世界でも、ですかね?」
「さあ……、でも、その辺は俺よりも、君の方が詳しいんじゃないか? たしか、君は反乱分子の、NO.2なんだろ?」
魔王に問い返され、赤ローブは目を見開いた。
「な、なんで、それを知ってるんですか!?」
「まあ、俺一応魔王だし、情報は色々と仕入れてるんだよ。無彩色フードコンビとか、友愛お……、じゃなくて、フカフカしたマダムからとか」
「そう、でしたか……」
「ああ。ちなみに、今の状況だと、反乱を起こしたとしても、君たちの勝率はゼロだよ。残念ながらね」
「……」
「だから、君たちには元の世界に戻ってもらうか、魔界のルールに従っていちからやり直してもらうかの、どちらかを選んでほしいんだよね、俺としては。でないと……」
魔王はそこで言葉を止めて、どこか悲しげな表情で赤ローブを見つめた。
「……君たちを徹底的に殲滅しないといけなくなってしまうからね」
容赦のない言葉に、赤ローブは口を噤んだ。
少し前に自分が陥った状況を考えれば、それを実行することは魔王にとって容易いことだと分かる。
「実は、君たちのリーダーのところには、明日その話をするアポを取っているのだけれど……、さしあたって君はどうする?」
「……少なくとも、これ以上反抗するつもりはありません」
赤ローブの答えを聞いて、魔王は安心したように微笑んだ。
「それならよかった。ただ、みんな無事だったとはいえ、危ないことをしたのは事実だから……、ちょっとした落とし前は、つけてもらおうか」
「落とし前、ですか?」
赤ローブが息を飲んで身構えると、魔王は苦笑を浮かべた。
「ああ、大した仕事じゃないから、そんなに身構えなくても大丈夫だよ。反乱分子のNo.2なら、魔術はそれなりにつかえるんだろ?」
「はい、まあ、リーダーには、及びませんが……」
「それなら、ちょっと協力してほしいことがあって……」
魔王はそう言うと、指をパチリと鳴らした。すると、赤ローブの目の前に、設計図のようなものが浮かび上がる。赤ローブは、目をこらしながら、それを凝視した。
そんなこんなで、魔王と赤ローブの間でいろんな話がまとまりつつあるころ、シーマ十四世殿下とはつ江ばあさんはというと――
「えーと、『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』の『探してる人みつけるよサービス』によると……、プルソン王は西館のバルコニーにいて、セクメトさんは東館のバルコニーにいるみたいだな」
「ほうほう、そうなのかい」
「ああ。ここからだと、西館のバルコニーの方が近いから、プルソン王のフォローをお願いできるか?」
「分かっただぁよ!」
――魔王にたのまれた、ライオンさん夫婦(予定)のフォローへ向かおうとしていた。
はつ江の返事を受け、シーマは尻尾をピンと立ててうなずいた。
「ありがとう。じゃあ、ボクはセクメトさんのところへ行ってくるよ」
「お願いするだぁよ! じゃあ、お互い頑張ろうね!」
「ああ、そうだな!」
二人は、「えい、えい、おー!」、とかけ声をかけて、それぞれの持ち場に向かっていった。
かくして、仔猫殿下とはつ江ばあさんの、仲直り大作戦が始まるのだった。
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