第1章:eスポーツは、僕のこころを
1話 eスポーツ部への勧誘は突然に
「なぁぼっしー、お前またVitax没収されたのかよww」
「あぁ、英語の時間中にな。ったく松尾の野郎、どんだけ俺のこと好きなんだよ・・・」
「ぼっしーこれで14個目だっけ?そんだけ没収されてよく学校に持ってくるよな、なんかここまで来ると尊敬しちゃうわ。」
「なら存分に尊敬してくれ諸君!俺はめげずに持ってくるだけだッ・・・」キラッ・・
「キラ顔でここまでしょうもないこと言う奴初めて見たよ・・・」
俺の名は飯田知人、2年B組2番。
クラスのみんなにはぼっしーって呼ばれてる。由来は『めちゃめちゃゲームをぼっしゅうされている』というフレーズから愛称っぽくして、ぼっしー。いやどこかの非公認キャラクターの名前じゃなくて。
そして今俺の前でスマホを横にしてピコピコやってるのは、クラスメイトの片岡と松本。中学からの付き合いで2人ともゲーム好き。しかし松本はイケメン顔だから、ひそかに女子の間で人気がある・・・クソッ!!!!!
「なぁぼっしー、お前OREのキャラレベいくつ~?」
「俺いまレベル127。週末結構育成したから。」
「お前ホントゲーム内だけは優等生なんだよな~。さすが課金ガチ勢だわ。」
「『だけは』って何だよ、授業の成績だって評定5取ってるんだぞ。」
「それ情報の授業だろ?しかもあれ出席すればだれでも5取れるやつじゃん。」
「でも5は5だろ?・・・あ、レアアイテムドロップ~♪」
「「・・・はぁ」」
OREとは『オンライン・ルーン・イーター(Online=Rune=Eater)』の略称で、最近のゲームではナンバーワンの出来だとかで評価が高い。
自分自身でアバターを細かいところまで作成出来てキャラのレベル上限をはるか上に設定したこのゲームは、長時間の育成が可能とかでゲーマーに大人気。
最近ではVitax版や院天堂Sowitch版のソフトも出て、スモールカメラやニホンバシカメラ・オオジマなどの大物電機メーカー店の店頭に大量に並ぶほどだ。
「このグラフィックがいいんだよな~~」
「ホントゲーム好きだn・・・って、おいぼっしー早くしまえッ!!!」コソコソ
「ちょとまてうぉにさん。今良いとこだから。」
「いやヤバいって!!後ろ後ろ!!」コソコソ
「は~なんだよ・・・」
知人はセーブボタンを押して、めんどくさそうに後ろを振り返る。
「どちらさまですかー・・・ぁぁぁぁあああああ!!」クルッ
目に入ったのは、少々あきれ顔で知人を見る担任の松尾先生の顔。
「飯田・・・お前またゲームやってたのか・・・?」ハア
「いいいいいやッ!!やってませんよッ!?」
(や、やべぇ!スマホ没収されたら生きていけないッ・・・!!)
状況を説明しよう!
知人が後ろを振り返るとなんと鬼担任の女教師がいましたッ、以上!
しかし今時の学生でスマホを没収されることがそんなに痛い出来事なのか、と思っているそこのあなた!に、この出来事の真の意味をお伝えしましょう!
まず没収されると反省文は必須、そしてそこには親の一言謝罪文も書かなくてはいけなくなり、そしてそれを親に説明すると・・・!!!
――― 『親によるスマホ没収』が発動します
やばいやばいやばいやばい!!!!!
「これウィキやってたんすよ!ほら調べものしてたっていうか!」
「・・・スマホ横向きでか?」
「は、はいそうです!最近のウィキは字が小っちゃくてへへ~」
「・・・さっきの『グラフィックがいい』とはどういうことだ?」
「えッ?そ、それは・・・・あ、そう!ウィキに付いてる画像の画質がいいな~ってことですよ!あんま綺麗な画像ないから珍しくてッ!!へへ~!!」
少し苦しい言い訳も、段々と浮かばなくなってくるものだ。もうちょっと意味わかんなくなってきてるし。
松尾先生は少し頭を抱えて、そして小さなため息をして
「・・・ゲーム、だろ?」
「・・・はい。」
「まったく・・・飯田は何回没収されれば気が済むんだ・・・」
「み、見逃してくださいよ・・・今月はVitax献上したじゃないですか~」
「バカ者ッ!!」
「「「ッ!?」」」ビクッ
「いいからついてこい!」
「えッ?ちょ、待ってせんせッ・・・!!」グイッ
「い・い・か・ら!!」
そう言って松尾先生は知人の腕を掴むと、放課後の教室から知人を職員室まで連行。
「・・・またぼっしー連行されたか~。」
「可哀そうに・・・でもキレた松尾はやっぱこえーな。女とは思えない怒声だし。」
「マジそれな。」
「あぁぼっしー・・・
「「お疲れ。」」
そしてそのぼっしー、職員室にて。
「ほら、さっさとスマホを出して。」
「え、マジで持ってくんすか・・・?」
「当たり前だ。ほら、早く右ポケットから出しなさい。」
「ッ・・・はぁ」
ついに諦めたか、知人は右ポケットから長方形のスマホを取り出して松尾先生に手渡した。
・・・が、
「・・・これモックだろ?あまり先生を怒らせるなよ?」
いやあなたさっきめちゃめちゃキレてたじゃん・・・
ちなみにモックとは、外見を実物そっくりに似せて作られた実物大の模型をいう。まぁ分かりやすい例だと、ケータイショップで展示されているあれらみたいなモンだ。アキバの電気街に行けば千円くらいで売ってるって聞いたから実際に行って買ってきたのがコレだ。
結構クオリティーが高く、一見しただけでは分からないと思うのだが・・・
「ば、バレるの早すぎだろ・・・」ヒョイ
知人は、今度こそ本物のスマホを手渡した。
(あぁ、愛しのスマホッ・・・)グスッ
「・・・本物だろうな?これもモックだったら飯田・・・」ゴゴゴ!
「ほ、本物っすよ!?電源つければわかるでしょ!?」
松尾先生はチェックがてらにスマホの電源を入れて、スマホの動作を確認する。
ポチッ
「・・・ん?」
ふと松尾先生、『えッ?』みたいな反応、なんで?
あ、そういればOREの画面のままだったわ・・・
「・・・」
「せ、せんせい・・・?」
松尾先生はそれからじっと知人のスマホを見たままだ。
え、何かヤバいやつでもあったの?
あ、まさか誤作動であのお宝秘蔵コレクションが開いちまったのか?
それヤバくね?結構ヤバくね?
俺の性癖が白日の元にィィィ!!!
「しぇ、しぇんしぇいッ!!!それはちょッ・・!!」
「飯田・・・おまえ・・・」
え?ホントにそれだったの?
ヤバいよマジでヤバいよ~!!
俺の静かな高校生活ッ・・・まぁあまり静かじゃなかったけど平均的には静かな方だった俺の高校生活がぁ~!!
「レベル127なのか・・・!?」
・・・
え?
先生今なんて・・・?
「飯田凄いなぁ!私でもレベル109だぞ!経験値入りやすいトコあるのか!?ラグナロク何体倒したんだ!?」
(※ラグナロク・・・ORE内で比較的獲得経験値が高いモンスター。ドラゴン族。)
「え?えぇ、まぁ・・・ラグナロクは週末で218体倒しましたけど・・・」
「218体ッ!?私でも頑張って120体くらいだぞ!何の武器で倒した!?あ、飯田のキャラの職業って何だ!?」
めちゃめちゃ聞いてくるんですけどッ!!!!
え、なんなの
先生もまさかOREユーザなの?ってか先生も意外にキャラレベ高けぇ・・・
いや先生すでにバッグから自分のスマホ取り出しちゃったよ、ORE起動する気だよ、やる気満々だよ
「飯田!ID教えてくれ!フレンド登録しよう!」
ID?それって『い・い・だ』のIDじゃなくてゲームの方のID?
『俺について教えてくれ』じゃなくて『フレ登録してくれ』のID教えてくれ?
思考があまりついていけない・・・
「あ、あ、あぁIDならいいですよ。じゃあちょっとスマホ返してくだs・・ ―――
やべッ、つい口が!!
今せっかく先生没収の件忘れかけてるのにまた呼び起こしちまうかもしれねぇ!!
まずった~!!
「あぁ、ほらスマホ!というか飯田まだ戦闘中じゃないか。終わってからでいいぞ。」
えぇ~!!??
まさかのTE・NO・HI・RA・GA・E・SHI!!
ORE一つであの鬼教師の松尾先生がここまで変わってしまうとは・・・
・・・さすがORE、天下のゲーム。
「あ、じゃあちょっと待っててください。後30秒くらいで終わりますんで。」
「え、そんなに早く終わるのか?よく見たら相手ラグナロクじゃないか!しかも使用武器なんてガチャ限の超激レア『天翔ける剣』なのか!私なんていくら回しても出なかったのに・・・!!」
先程から先生のイメージ崩壊が止まらないんだが。
あの松尾先生がまさかのORE人だったなんて・・・しかもOREの話になるとここまで態度が豹変だぞ?
『変化』とか『急変』とかじゃなくて、『豹変』だぞ?
そしてラグナロクは難なく倒し、先生ともフレンド登録した。
いや、改めて先生の廃人ぶりがよくわかる。
IDの名前が、『アルフィ@天翔ける剣ほすぃー!』
(※アルフィ・・・ORE内に出てくるメインヒロインの名前。)
「なぁ、飯田・・・」
「ど、どうしました?」
急にまじめな顔になり、松尾先生は改めて立ったままの知人と対面する。
「もし、飯田が良ければなんだが・・・」
「・・・?」
――― eスポーツ部、見てみないか? ―――
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