何だか物足りない日に、
糸花てと
触れた体温を
「じゃ、お先」と、貴方は仕事へ行く。少しして私も行く。好きな人と一緒に棲む。楽しいって、期待してたんだけどな。
カレンダーとにらめっこして、休みは出掛けたり。共通の趣味を二人でやったり。そういうのは、誰かが創り出した幸せだったらしい。
「今日は私が早かったか」
鍵を開けて入る時点で、貴方は帰ってきてない。のに、靴をぬいだ後に端っこへ寄せる……距離を縮めてみないと分からない仕草。ふっと浮かんで、まだなんだと余計に寂しくなる。
「夕食、どうしようか。作りやすいの買ってきたらよかったか──…あ、」
ハンバーグが二つ。焼くか、煮込むか。どっちの気分で作って冷蔵庫に入れたのか。
「ただいま、あぁー……良い匂いする」
「お帰り。冷蔵庫にあったから焼いといた。煮込みハンバーグの気分だったら、ごめん」
靴を端っこに寄せながら、「いや別に。空腹が満たされれば、どちらでも」
あぁーそうだ。変な部分に頷ける、貴方の考え方に惹かれたんだ。
「はぁ~。ほんと上手く焼くよな」
「包丁、使えない事はないけど……面倒で。女なのに、ごめんね」
「俺は火加減とかミスしやすいし、バランス良いんじゃないの?」
テーブルを離れて、テレビの前へ。あぐら、少し丸くなった背中に──
「おー、びっくりした」
「ほんとに、そう思ってる?」
抱きついて、貴方の首へまわった腕。低い声に男なんだと、やってしまった後悔や……理由なんてなく求めたい欲が、血管を廻る。
「あれ、そういう事したいんじゃないの? 来ないんだ?」
言い終わってすぐ、唇を重ねた。これが無いから寂しいんじゃない。ただ二人の時間が欲しかった。
「顔真っ赤だし。クールで何でも余裕なのに、そういう顔するから。離れたくない、誰にも渡したくない」
『好き』や『愛してる』そういう言葉は必要ない。頬に触れた貴方の体温が、鼓動が、確かな答えなんだから。
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