未来と過去

@Ryota11231129

第1話 使者と男

「ここはどこだ?」

目が覚めた時、俺は周りが薄暗いところにいた。


今までの記憶が曖昧で、どうしてここにいるのかよくわからない。


辺りを見回しても誰もいない。それがおかしいのかどうかもわからない。


夢の中か‥。そう思って頬をつねってみても痛いという感覚はない、というよりそもそもつねろうとしても体をすり抜けるような感じがし…。


「わぁ、体が、体が、、、、!!!」


よく見てみると体全体が透けている。自分で自分の体に触ろうとしても触れられない。

明らかにおかしい、夢ならば、こんな不気味な夢なんて覚めてほしい。


周りを見渡しても何もなく、真っ暗だ。するとそこに、カッ、カッ、カッという音が聞こえてくる。

どうやら何かの足音らしい。どこから聞こえてくるか分からない。でも近づいてきているのは確かでだんだんとその音は大きくなっていく。それがどうしようもなく怖くて、怖くて仕方がなかった。そして音がやんだ。


「この度は、ご愁傷様です。」という声が俺の真後ろから聞こえる。


「わあああ!あんたどこから来たんだ?そもそも何者だ?」


「私ですか?名乗るような名前があるわけでもないので『使者』とでもしときましょう」


「使者?なんだそれ?ってかなんで俺がこんなところにいるんだよ?夢なら早くなんでもいいから覚ましてくれよ」


「夢?あなた何をしてたか覚えてらしゃっらないのですか?」


「だから何のことだよ?」


「まぁ無理もないですね。ここにあなたがいるのは、あなたがまさに今死にかけているからですよ」


「は、死にかけている???そんなバカな、一体なんで?」


「仕方がないですね。じゃあ、これを見てください」そう言って取り出したのは、タブレットのようなものだった。その中をのぞいてみると、そこは病室で真ん中ベッドで誰かが寝ている。その周りで家族と思われる面々が泣き叫んでいる。


「ま、まさか、これって」


「そうです。その真ん中のベッドに寝ているのはあなた自身ですよ。あなたは今朝都内のホテルで自ら睡眠薬を多量摂取して倒れたんですよ。そこにたまたま清掃係だった人がに入って、空になった薬瓶とおこそうとしても起きない眠っているあなたを見て救急車を呼び、この状況です。本来ならもう死んでててもおかしくない状況です」


話を聞きながら、だんだんと記憶が蘇ってくる。おそらく俺が自殺しようとしていたのは、多額の借金に追われていたからだ。勤めていた会社が倒産し、再就職するあてもなく、パチンコなどのギャンブル、酒に走り借金に埋もれた。それでもうダメだと…、よくある話だ。


「んで、そんなもう死んでもおかしくない俺がなんでこんなところにいるの?」


「いい質問ですね。この度あなたは選ばれたんですよ。本当に運がいい。」


「え、もしかして生き帰れんの?」



「半分正解で、半分不正解です。」


「どういうことだ?」


「確かにあなたの選びようによって生き返れます。最大一日だけ。」


「なんだ、一日か、じゃあいいや。」


「人の話は最後まで聞いて下さい。」


「はいはい、で、俺は何を選べばいいわけ?」


「それは、『過去と未来』です。」


「かことみらい?」


「はい、そうです。「過去」と「未来」です。」


「んで、未来を選べば一日生き延びられるの?」


「ご名答。しかし条件が3つあります。一つ目は、この会話およびシステムを他言しないこと。二つ目は、他人の人生を阻害しないこと。三つ目は、期限戻ってから一日ということ。」


「一つ目と三つ目はなんとなくわかったよ。でも、二つ目ってどういうこと?見方にっちゃ、他人と会話すらするなってことになるぜ。」


「いいえ、二つ目はあってないようなものですので、それほどおお気になさらずに。」


「あってないようなもの?どういうことだそれ?」


「こちらもいろいろ調べて厳正なる審査によって決めているつもりなのですが、たまに自分が死ぬならみんな道ずれだと言って死ぬはずのない人まで死んでしまうとこちらとしても面倒ということで、要は殺したり他人や社会を巻き込む犯罪をするなということです。」


「なるほど、そういうことか。もし、もし、破ったたらどうなるんだ?」


「その時は、このシステムが作動する時、つまりあなたが死ぬはずだった時に死んでいただき、そもそもなかったことになると思います。それと同時にペナルティーであなたの魂ごと削除させていただくのでご注意を」


「わかった。まあ、そもそもやるつもりもないが。じゃあ、過去選んだらどうなるんだ?」


「ルールは基本変わりません。ただ3番目のルールがなくなります。またあなたがいく「過去」もこちらで設定させていただきます。」


「俺が行く「過去」ってのは前もって分かんねぇのか?」


「はい、残念ながら。しかし、あなたにとって最も後悔のある、未練がある「過去」に設定するのが前提です。」


「なんでだ?」


「そもそもこのシステムの目的というのが、死ぬ前にそれ以前ににまたは、それ以後にある未練、後悔を果たして気持ちよく昇天しようというものだからです。」


「ふーん、まぁ多少納得いかないけど、まあいいや。三番目のルールがなくなるってのはどういうことだ?」


「それは、人それぞれによって、後悔、未練変わるでしょうし、それにかかる時間も変わるだろうってことで。」


「じゃあ、一日って人もいれば半日って人もいて一週間とかいう人もいるんだ?」


「はい。場合によってはそれ以上、それ以下の時もあります。」


「そうか、だいたいわかったよ」


「では、どちらを選択なさいますか?」


「いや、いいよ。このまま何もしないで昇天させてよ。どうせこれといった未練もないし、生き延びても借金取りに追われるだけだから。」


「えっ、いいんですか?本当に?」


「ああ。」


「そうですか、残念です。」これでいいんだ。これでやっと死ねる。過去に未練もな…。


「やっぱちょっと待ってくれ。「過去」だ。「過去」にしてくれ。」


「なんですか、やらないって言ったり「過去」って言ったり、ハッキリしてくださいよ。」


「すまん。すまん。まだ未練があってな。」


「必ずそれになるとも限りませんよ?いいんですね?」


「ああ。」


「じゃあ、「過去」ですね。」そう言って左手を俺の腹あたりに突っ込む。痛くはないが、どこか、気持ち悪い。


「これですね。わかりました。では、行ってらっしゃい。」先ほどのタブレットに何らかの文字を打ち込むと同時に体が、足から順に光を放ちながら消えて行く。


名乗っていなかったが俺の名前は、斎藤 黎だ。


「過去」に見送った使者は、「斎藤 黎 「過去」選択」と打ち込み、今ベッドで寝ている黎が死を迎える。


斎藤 黎が抱えたのはどんな未練か、それを知るのは、まだ使者と私、筆者だけのお話。。。

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