毎晩ホラー、時々ミステリー

鷹司

第一夜 新元号、おめでとう!

「おめでとうございます!」


「はい? どちら様かな? あんた、もしかして相手を間違って電話を掛けられたんじゃ――」


「いえ、間違いではございませんよ。私どもは新元号を記念して、高齢者の皆様に電話を掛けているんです」


「元号が新しく変わったからといって、なんで高齢者に電話をしてくる必要があるんじゃ? それは少しおかしくないかい?」


「怪しむのも当然だと思います。今からその件に関してちゃんとお話しますので、どうかしばらくの間は電話を切らずに、私の話を聞いてもらえませんでしょうか? 決して損をさせるような話ではございませんし、迷惑を掛けるようなこともしませんので。ましてや、最近ニュースでやっているような詐欺紛いの話でもございませんので安心して下さい」


「あんたがそこまで言うのならば、話ぐらいは聞いてやってもいいがの」


「ありがとうございます。では、さっそくお話しをさせてもらいますね。――実は今回の新元号への改元を記念して、国の方から高齢者の方々に記念品を差し上げることになったのです。その連絡を、こうして各家庭にしているところなんです」


「ほおー、そうじゃったのか。それでどんな記念品をくれるというんじゃ?」


「それは実際にその目で見てからのお楽しみということで。高齢者の方だけに送られる特別な贈り物となっておりますので、きっと喜んで頂けると思います。今から老人福祉課の者が伺いますので、家の方で待機していてください」


「そうかい。そういうことならば待っているとしようか」


「あっ、ひとつ言い忘れていたことがございました。預金通帳と印鑑をご用意しておいてもらえますか?」


「通帳と印鑑? あんた、やっぱり、わしのことをダマそうと――」


「いえいえ、そのようなわけで言ったのではございません。ここだけの話ですが、実は国からの記念品というのは現金でございまして」


「国が現金をくれるというのか?」


「はい、そうなんです。昭和の時代を支えてくださった高齢者の方へのお礼として、国からほんのお気持ち程度の額なんですが、現金が支給されることになったんです。その入金の事務処理の為に、預金通帳と印鑑がどうしても必要になるんです。ご理解して頂けましたでしょうか?」


「ああ、分かったよ。それじゃ、通帳と印鑑をしっかり用意して待っておることにするよ」


「ありがとうございます。それともうひとつだけ確認したいのですが――現在、おばあちゃんは一人暮らしでいらっしゃいますか? それとも、お子さんと同居しているということはございませんか?」


「いや、わしはじいさんを亡くしてからずっと一人暮らしじゃよ。それが何か問題でもあるのかい?」


「いえ、お一人暮らしの方の場合は金額が少々上がりますので、その確認をしたまでのことです」


「そうなのか。それは言いことをきいた。とにかく早く家に来てくれよ」


「はい、分かりました。今スタッフがそちらに向かっておりますので、すぐに着くと思います」



――――――――――――――――



「――昨日都内で、新元号記念を語る詐欺事件が発生しました。皆さん、新元号詐欺には十分気をつけてください。では続きまして、明日の天気予報をお伝えします」



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