第一章  よもぎと鷹助3

 戸を誰かが叩いていた。

 まだ残る眠気に襲われながらも起きだし戸へ歩き出した。

 昨日井戸で洗い物を済ませるとお堂で松之介を手伝った。その日は松之介は足軽たちのためにお堂に泊まり込むこととなっていた。家にはよもぎ一人で帰った。

 家に着くと古布を裂き包帯を作り出した。戦が長引けば怪我人がこれからも出るだろうから余分に作っておけと松之介に言われていたからだ。古布を裂いては巻き続けた。巻いているうちに、よもぎの就寝が遅くなってしまった。


 大きな欠伸が出てくる。

 隣家の息子の勇太郎が叩いてるのだろうかと思い戸に手をかけた。

  戸を開けると鷹助が立っていた。両手で籠を持っている。籠は草や葉で山積みになっている。草の根には土がついているため抜いたばかりだと分かった。

 「何?」

 「たくさん生えていたから薬草に使えないかと思って。どうだ?使えそうか?」

 そう言い籠をよもぎの目の前に押し出し見せた。

 「それはありがたいけど…。薬草については父さんに聞いてみないと。」

 「そうか。じゃあ、その中で使える奴があったら教えてくれ。また取りに行くから。」

 よもぎは籠を見た。それぞれ葉や茎の違う草が多数詰め込まれている。同じ物同士に仕分けるとしたらどれくらい時間がかかるだろうか。おそらく適当に手あたり次第摘み取ってきたのだろう。

 「鷹助、鷹助」

 外からダミ声が聞こえてくる。よもぎは目の前に立つ鷹助をよけて戸から顔を出した。声する方向を見る。

 「鷹助、こんな所にいたのか」

 万兵衛だ。思わず苦い顔になる。

 「探したぞ。」

 鬼のようなギラギラした眼で鷹助を見る。鷹助は急に丁寧な言葉遣いとなった。

 「これは万兵衛様。申し訳ありませんでした。」

 「まったくだ。お前に先程急ぎの用事を頼もうと思ったというのに。まあ、こっちで適当に片づけた。ここで何をしていた?」

 「はい。私は薬草に使えないかと山で見つけた草木を松之介様に見てもらおうと届けた次第でございます。」

 「そうか」

 一言だけ残して万兵衛は立ち去った。鷹助は丁寧に、よもぎは忌々しく見送った。姿が見えなくなると鷹助は振り返り言った。

 「なあ、大蛇の沼だけど…」

 よもぎの耳がぴくっとした。

 「聞いちゃ悪いことかもしれないけど…。昨日、庄屋たちが言ってた泉ってどの辺にあるんだ?」

 よもぎは答えられなかった。時が止まるような感覚に襲われた。

 「悪い…。聞いちゃいけなかったな…。すまん、忘れてくれ…。」

 沈黙を破ったのは弁明だった。鷹助は慌てながら身振り手振り謝罪した。

 「見たい?」

 よもぎの声が鋭く突き刺さる。

 「いや、泉が見たいという訳じゃないんだけど…。ただ…深見山を越えると中川だろ…。中川の兵が大軍で攻めてきたら…って思って。だから山について調べようと思っただけなんだ…。悪気はない。悪かった…」

 彼はうろたえるばかりだ。

 「すまなかった。もう泉については…」

 「見るだけなら案内してもいいけど。」

 「えっ?」

 今度は鷹助が黙り込んだ。

 「ここだけの話、私こっそりと泉の所まで行ってるの。」

 「今すぐにでもいいか?……」

 「うん…まあ…。」

 「じゃあ、よろしくな。」


 

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