選択権

As.

第1話

 身長156cm、体重46kg。箸も持てないような非力な女の子で

足は遅く、周りのみんなに世話をかけさせるほどのどんぐささと愛嬌を持って生まれました!

 特技は裁縫に料理、勉強は中の下で皆に愛されてます!

 笑顔が可愛いと皆に言われ、男なんて財布も同然!毎日のように告白され、だけど誰とも付き合うこともなく一人のことを想い続けています!



 なーんて都合のいいことなんて何一つなく。

 身長172cm。体重59.7kg。握力は30の100m走は15秒。

 特技は特に無し。勉強はそこそこできるが、国語が苦手で毎回赤点ギリギリだ。

 笑顔を可愛いと言われたことなんて一度もない。むしろ笑顔を見せると引かれるレベルで、真顔のほうが良いよと言われる始末。


 男に告白されたことはなく、女の子には何度か勘違いや一目惚れをされたことがある。


 いや、厳密には一度も男に告白されたことがないわけではない。

 同性愛者。その人等に男と勘違いをされて告白をされたことがある。

 何人かは女性のことも好きになれるかもしれない!と希望をもち、何人かは失礼なことをしました!と謝ってきた。そして極稀に厄介な容姿してんじゃねぇよ!と逆ギレをされたことがある。



 男か女か見分けがつかない人のことをどこで判断するのか。

 そう、胸だ。だが天はいらない物を2物も3物も与えたくせに欲しいものは与えてくれず、小皿(しかも醤油皿)程度に膨らんだそれはブラなんてものも必要もないほどに密かに潜んでいる。

 いつか膨らむかもしれないと思い、毎日ごはんを3杯以上は食べるようにしているが、全て上へと持って行かれている。



 私は父によく似ていると言われる。

金色の髪にやたらと白い肌。カラコンとよく怒られる変わった瞳の色にやたらと伸びたこの背丈。

 母は真っ黒でサラサラな髪をもつ。黒の瞳に日本人特有の黄色がかった健康的な肌の色。それが私にはとても羨ましかった。

 コンプレックスなどではない。などではないのだが、学校での先生の目が痛い。何度ハーフだからと言っても髪を染めなおせ。カラコンをつけてくるな。仕舞には男が女の格好をするな。


 何度行っても聞いてくれない大人の横暴さに嫌気が差して何度か髪を黒くしようとしてみた。だけどギリギリになり、未だ見たことない父の面影がちらりと浮かんで無気力に髪染めを床へと捨てる。


 高校は理解ある学校を目指した。

 そのために沢山勉強した。そして第一志望へと合格し、胸を躍らせながら入学式当日門を潜った。



 だけどそこは何一つ変わらない景色だった。

 奇異なものを見る目。先生は大急ぎで私を呼び出し、生徒の中では一部ヒソヒソするものまで出てきた。

 生意気。高デ。イキり。先生に手を引かれながら背中にその言葉を一つ一つ丁寧に受け取った。いりもしないのに。



 職員室では案の定怒られた。入学したてではしゃぐ気持ちはわかるけど、そういうことをされては困ると。


「先生、私はハーフです。それに、入試時にこういった髪色と瞳をしていると事前にお伝えしたはずです。」

「郷に入れば郷に従えだ。お前はこの高校という郷に踏み入った。だからお前は郷に従い、髪を黒くしないといけない。」

「ですがこの学校は髪を染めることを禁止しているはずでは。」



 そう食い気味に答えると、先生は心底呆れたかのように深いため息をつき、やれやれと言ったように言葉を紡ぐ。


「臨機応変だよ。君も小中と悩んだんだろ?なら高校では適応するために自ら動くもんじゃないのか?それが大人になるってことだろ。」


 先生はそう言うと、話はそれだけだと言い放ち、私を職員室から追い出した。


 悔しかった。


 父からもらった髪を、瞳を、自分という存在をすべて否定されたようで。


 グシグシと泣いていると、下から声がかかる。


「えっと、だいじょう…ぶ?」


 おどおどしながらそう声をかけてきたのは男の子だった。

 同じ学年の子らしく、腕には緑の腕章を付けていた。(一年は緑。二年は黄色。三年は赤。)


「あっ、ごめんね、こんなデカブツがみっともないところを見せちゃって!」


 明るくそう取り繕ってみるものの、男の子は心配そうにこちらを見つめる。

 前髪がやたらと長く、いまいち顔を見ることはできないが雰囲気から優しいということだけはわかった。


「えっと、今言われたこと気にしなくていいと思うよ。」


 彼はそう言うと、鞄からハンカチを取り出しはいっとこちらに差し出す。それの意味がわからず首を傾げると「あげるよ」と言われた。


「その、今日は入学式で…先生も気が立ってるんだと思う…。多分だけど…。もう少し落ち着いて、クリスがハーフだって認識が広まったら、そんなことなくなると…思うんだ……。」


 尻すぼみになりながらそう答えてくれる彼の言葉に少し救われた気がした。

 私はハンカチをありがたく受け取り、ありがとうとお礼を述べた。


「その、そろそろ入学式始まるから!じ、じゃぁね!」


 彼はそう言うと、足早にかけていってしまった。


 少し髪を染めてしまおうかと思ったが、肯定してくれたことが嬉しくて私は肩までかかるかかからないかの髪を伸ばすことを決意した。


 私の名前は赤城クリス。父は異国の人間。母は日本人。


「そういえば…。」


 彼はどうして私の名前を知っていたのだろう。


 高校1年生の春、そこかしこを桜が舞う中見えないところで砂時計がひっくり返された。

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