朝の癒しタイム


 翌朝。

 朝起きてきた真凛様が、厨房に顔を出す。

 朝から可愛いが……。


「おはようございます、ヴィンセントさん!」

「おはようございます、真凛様。寝癖がついておりますよ」

「え? え? やだ、ちゃんと梳かしたのに!?」


 かわいい。

 え? かわいい。


「先に少し整えましょうか。お話しておきたいこともございますし」

「?」


 朝はまだ早い。

 みんなまだしばらくは起きてこないだろう。

 真凛様をダイニングの方に案内して、椅子に座らせてからくしで寝癖を梳かす。

 レオやマーシャやケリーやスティーブン様の髪を撫でつけながら梳かす時、なんにも感じないのに……真凛様相手だと妙な緊張感を覚える。

 しかし、緊張してる場合ではない。

 今日から四連戦になることをお伝えしなければ。

 後頭部かわいい。

 髪サラサラ。

 いい匂いする。


「あ、ありがとうございます、ヴィンセントさん」

「い、いえ。そ、それより大事なお話があります」

「わ、わたしも……ヴィンセントさんに相談したいことがあって……」

「相談? 俺にですか?」


 それで早起きしてきたのか?

 俺に相談だなんて、ちょっと嬉しい。

 だが、真凛様の相談は急ぎではないっぽい。

 俺に対して「お先にどうぞ」と気遣ってくださる。

 天使かな?


「では、先に。実は昨日真凛様がお部屋に戻ったあとモモルが来まして、武神ゴルゴダよりルール変更の連絡がきました」

「え! ルール変更!? そ、それって……」

「はい。ヘンリエッタ様がおっしゃっていましたアレです。ですが、こちらの想像を越えて過酷な内容を突きつけられております」

「っ」


 あえてワンクッション。

 想像よりヤバい、という覚悟をしてもらう。

 まあ、実際聞いてたよりヤバいしな。


「そ、それは、どんな……」

「四日連続で多種族と戦います。……しかも勝ち抜き戦です」


 五対五で戦うものより個人の強さが大きい、勝ち抜き戦。

 しかもあの会場は巨大な円形。

 端から落ちたらどうなるのかはわからない。

 見た限り生還は絶望的。

 他の種よりもはるかに弱い人間種である俺たちが、一人で他の種族と五人、連戦を続ける。

 完全に殺しにきてるんだよなぁ。


『なんなのそれ、ずるいのだわ、卑怯なのだわ!』


 と、魔宝石からエメリエラが現れる。

 そうだろうそうだろう。

 俺も同意見だ。

 むしろ全員同意見だが、俺たちの苦情などゴルゴダは聞く耳もない。

 俺がルールだ、という武神なので、当たり前だろう。


「卑怯な手を使っても魔宝石——エメリエラ様を取り戻したいのでしょう。武神族の狙いは創世の女神ティターニアのかけら」

「エメのことだよ?」

『絶対やなのだわ! そんな卑怯者!』


 まあ、ですよね。


「でも、そんな……四日連続の勝ち抜き戦なんて……そこまでするなんて……」

「とりあえず今日はレオが出ます。ケリーは対人魚戦の要ですしね」


 レオと人魚族は魔法の属性的に相性が悪い。

 あと、クレヴェリンデが怖い。

 人間の王子に対する執着的なアレが。


「それに戦う順番が決まっているのはありがたいです。獣人、エルフ、妖精、最後が人魚だそうです」

「えっと、確かスティーブン様の作戦だと……勝ち抜き戦になった場合獣人にはレオハール様が、エルフにはヴィンセントさんが、妖精にはエディん様が、人魚族にはケリー様がそれぞれ担当として先鋒を務めるんですよね」

「はい」


 獣人族にレオを当てるのは、レオが魔法も得意だし近接戦闘にも長けているからである。

 獣人族は物理的にタフだが、魔法に弱い特性を持つ。

 魔法が得意なのはレオとケリー。

 身体能力の高い獣人相手なら、それに対応できるレオの方が勝機が高い。

 俺がエルフを担当するのは、俺の闇魔法が魔法を無効化する力があるから。

 エルフは弓矢と魔法交互に使ってくるので、俺が闇魔法で魔法を打ち消し一気に距離を詰めて弓矢を無効化。

 弓も魔法も使えない相手なら気絶させて勝てる。

 エディンが妖精族担当なのは、エディンが弓矢と剣両方使えるのと風魔法を使えるからだ。

 妖精族は満月の夜以外体が人の手のひらくらいしかない。

 風魔法は探知に優れ、エディンの弓矢は小さいものも射抜く。

 接近されても剣で戦える。

 妖精族は魔法主体だが、エディンの風魔法ならちょろちょろ逃げ回る奴らを探知したり、まとめて射抜くこともできるだろう。

 どこぞの女神様が「物理で燃やせ!」となかなかワイルドなことを言ってたが、それだってエディンの風魔法で妖精の火魔法を強化し、逆風として跳ね返して使えば可能。

 で、ケリーが人魚族担当なのは土属性魔法の使い手だからだ。

 水魔法は土魔法に弱い。

 人魚族の男の物理攻撃力は獣人族に匹敵するが、弱点が土魔法なのは女人魚も男人魚も同じ。

 あと、男人魚の物理攻撃力が高くともケリーの土魔法のチートっぷりは……うん、まあ、はい。

 という感じで真凛様は基本戦わない。

 もちろん最低限の戦闘訓練は受けているし、万が一の時はエメリエラの結界を戦いに用いることはできる。

 だが、本当に万が一の時の話だ。

 真凛様の役目はあくまでも魔宝石から従者石に魔力を流す媒体。

 彼女を戦わせるのは、俺たちにとって恥に等しい。

 五対五のままならば、真凛様が戦場にいるのは仕方がないんだが。

 それでも真凛様には傷一つつけないけどな!

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