どえらい事になりそうだ?
「オズワルド、様って……」
「…………」
真凛様が真っ直ぐに俺を見る。
はい、俺です。
しょんぼりと肩を落とす。
昨日の今日なので、割とガチへこみだ。
「昨日、ユリフィエ様が会場でヴィンセントの事を『オズワルド』と呼んでいたんですよね?」
「は、はい」
ヘンリエッタ嬢の質問に、真凛様が頷く。
異様な光景だった。
あの後、お嬢様とうちの旦那様、王家の方々、そしてディリエアス公爵で話がなされたそうだ。
ちなみに、マーシャは含まない。
一応、王家の者として生きるつもりはないと言っていたから。
昨日から会っていないが、さすがのあいつも今回の事をどう思っただろう?
なんにしても話し合いの結果は、やはりユリフィエ様は『精神を病んでいる』から、妄言を吐いてしまった、という事になったという。
実際、エディンやスティーブン様調べによれば、ほとんどの貴族が「驚いたがユリフィエ様の仰る事だから」と苦笑いしていたらしい。
それはそれで複雑だけどな。
「…………」
ユリフィエ様……本当に、一体なぜあんな事を……。
「……やっぱりオズワルド様ルートの補正なのかしら……。でも、メグはクレイとのイベントバリバリ進んでるし!」
「え?」
「そ、そうなんですか? ……じゃ、じゃあ……やっぱり俺は真凛様に攻略されてる……!?」
「えっ、え!?」
「義姉様のルートという恐れは?」
「うーん、ユリフィエ様の行動を考えると……」
んじっ。
……集中する視線。
でしょうね。
「え、あ……え、ええと……あの……ううっ」
「…………」
そ、そうか、真凛様は『オズワルドルート』……俺のルートに入っておられるのか。
いや、それならば別に俺が真凛様に落ちなければ良いだけだろう!
そりゃ、真凛様は普通に良い子だし、マオト様の妹さんだし普通に良い子だけど!
「う、うん、だ、大丈夫です! 俺のような恋愛鈍器に恋愛など無理です!」
「ええぇ!? な、なんですか恋愛鈍器って!?」
「鈍感すぎていっそ鈍器なんですよ、うちのヴィンセントは。確かにまあ……恋愛方面において、その心配はない気がするな。ヴィニーだし」
「そ、その謎の信頼はどうなの、って言いたいところだけど、恋愛方面に関してはわたくしもフォローの言葉が見付かりませんわ」
「ヴィンセントさんですからね」
「ええぇ……」
「ね!」
「ねっ、て……」
三人のお墨付き!
ご安心ください、真凛様!
俺は恋愛方面鈍器です!
貴女に恋したりしませんし、貴女に落ちる事などありえないでしょう!
つまり!
俺のルートはバッドエンド直進あるのみ!
「…………。ヘンリエッタ様、ちなみに『オズワルドルート』のバッドエンドって……」
「戦争でどちらか死亡、または両方。戦争前だと、戦争が嫌で逃走。行方不明……かしら」
「し、死亡……」
「と、逃走……」
真凛様はやはり『死亡』に反応した。
俺は『逃走』。
……まあ、戦争なので『死亡エンド』は戦巫女ヒロインの場合は全キャラにあるようだしな。
つーかゲームの俺は姿をくらましすぎではあるまいか。
頭が痛いぞ、全く。
「そ、そうか、そうですよね。戦争、ですものね」
「は、はい。あのでも、戦闘難易度まで『鬼』なのかどうかはまだ分かりませんし」
「せ、戦闘にも難易度があるんですか!?」
「は、はい。戦闘難易度が高いとですね……」
と、ヘンリエッタ嬢が真凛様に戦闘難易度の差を説明していく。
戦闘難易度、低いと良いなぁ。
「あ、あと、ヘンリエッタ様」
「なに、ヴィンセント?」
「ハッピーエンドはどんなものなんですか?」
「……あ、そうかハッピーエンド!」
「「「?」」」
「クッキーです」
アンジュさん通常運転。
差し出されたクッキーに真凛様が嬉しそうに「いただきます」と手を伸ばす。
はっ! ちょっと怖い話の後だから、甘いものを差し出したのか!
さすがアンジュ!
「ハッピーエンドは甘々ラブラブエンドよ!」
「「ブゥ!」」
「ほらハンカチ」
「「ど、どうもっ」」
クッキーをひと齧りし、お茶を一口。
直後のヘンリエッタ嬢の拳付き満面の笑みの爆弾投下に、真凛様と共にお茶を吹き出す。
すかさずケリーがハンカチを二枚、俺たちに差し出してきた。
……お前もハンカチ数枚持ちか、ケリー。
「でも、その為には一つ乗り越えなければいけないイベントがあるのよね……」
「え、え、いや、あの……へ、へ、ヘンリエッタ様、あの、待ってください! そ、それってわたしとヴィンセントさんが、あの、あの!」
「そ、そうですよ! そんなの無理です! 俺は恋愛方面鈍器ですよ!」
「もう、二人とも何言ってるの! ハッピーエンドよりトゥルーエンドの方が難易度低いのよ!? このままじゃゲーム補正でそっちにいっちゃうかもしれないじゃない! どうせルートに入っちゃってるならハッピーエンドを目指した方が良いってば!」
「「……………………」」
ぐ、ぐうの音も出ませんけれども!
「い、いえ! しかし、お嬢様は!? そこが一番重要事項です!」
「えーと、あの方ルートのローナは記載がなかったから、多分エディンと結婚しました、なオチだと思うわ」
「! …………つまり」
「そうよ! あの方のハッピーエンドなら、今のローナも幸せになれる!」
「「「!」」」
エディンとお嬢様は婚約破棄して、今レオの婚約者。
相変わらず照れ照れもだもだ感が否めないが、逆に両想い感バリバリと捉えれば可愛げもある!
戦争さえ乗り越えれば……二人は結婚……!
「…………。いや、でも……ええ? じゃあ、えっと……」
「…………」
やばい、むり、真凛様の方を見られない。
俺のルートを突き進むのなら……そのハッピーエンドを目指すのであれば、それは、つまり……!
「……っ」
「〜〜〜〜っ」
「(分かりやすすぎかよ)……ま、まあ、ちなみにその乗り越えればならないイベントってなんだ?」
「ストーリーの流れは前に説明したでしょ?」
「え、あ、はい。歓迎パーティーで血筋をバラされたオズワルドは、戦巫女と壁が出来る……」
「! ……もしかして、それをなんとかしようとして先にわたしに打ち明けてくれたんですか?」
「あ、はい」
「そ、そういう事だったんですね」
「す、すみません?」
「いえ! なんか納得というか……スッキリしました!」
……本当に良い子だよなぁ……真凛様……。
そう言ってもらえると罪悪感がなくなる。
いや、別に騙してたわけではないんだけど……。
「(水守くんバリバリ攻略進んでるんじゃ……)……こ、こほん! ……ええ、それで、その後『斑点熱』の流行があり、ローナが気を遣って二人を助手に指名するわ。そこで少しだけ距離が縮まるのよ」
「「…………」」
「……その様子だとがっつり縮まってるのかしら?」
「「そそそそそそんな事は!」」
ない!
……と! お、お、お、思いたい……多分……。
「そ、そして『王誕祭』で生まれて初めて陛下にお会いして、しかし無視されてしまうあの方は、巫女様に慰められ、ますます距離が縮まるんだけど……」
「ヴィンセントさんは陛下を冷たい眼差しで見てませんでした?」
「あ、はい。普通に嫌いなので。嫌いっつーか興味がないので」
「…………」
むしろマーシャへのあのによによが気持ち悪い。
とは言え、立場的にどうする事も出来ないんだが。
頑張れマーシャ、と心の中で応援する事ぐらいだよな。
「だが、昨夜はそれが少し違ってた、という事だな」
「ええ、まさかのユリフィエ様……オズワルドルートのラスボス登場」
「ラ、ラスボス……」
「ラスボスよ!」
言い切られてしまった。
ユリフィエ様は、
「……、……あ、あの、ヘンリエッタ様! その、ハッピーエンドだと、ユリフィエ様はどうなるんですか?」
「え? ラスボスよ?」
「やっぱりラスボスなんですか!?」
「ええ、ハッピーエンドはルートストーリーの最中で起こる高難易度戦闘イベント……『鳥の獣人』をクリアしなければいけないの!」
「「「鳥の獣人!?」」」
じゅ、獣人!?
獣人との戦闘ってどういう事だ!?
「!」
——『十年周期でヨハミエレ山脈を越えてくる鳥の獣人がいるようなんだ。あまり大きくはない種族で、なぜ山を越えてくるのか理由も分かっていないんだけど……』
以前レオがお嬢様に漏らしていた……あ、あれの事か!?
俺のルートの伏線だと!?
待て待て待て、鳥の獣人との、戦闘?
戦うって事!?
マジで!?
「そのイベントが起きるのは十月の頭。その戦闘イベントは勝てなくてもストーリーが進む。けど、勝てなければ『女神祭』でトゥルーエンドへ繋がるイベントが起きる……んだけど……」
「なんだ? 歯切れが悪いな?」
「『女神祭』イベントは悪役姫マリアンヌが巫女様を虐めて、それに反撃するというストーリーなの」
「!? マリアンヌって、マーシャちゃんが悪役姫!?」
……はた、と固まる俺たち。
あ、ああ、そうか、そういう認識になるのか。
真凛様が召喚された時点で、マリアンヌは『マーシャ』……『本物』の方だけ。
「い、いいえ、巫女様。『マリアンヌ』は本来『偽者』……ゲームで言うところの『マリアンヌ』は今日まで巫女様のメイドを勤めていたマリーの事です」
「っ!」
「ヴィンセント……水守くんが三年掛けて見事な程にあちこちのルートを破壊して引っ掻き回した結果なんですよ」
「ひ、人聞きの悪い……」
否定が出来ないのが悲しいところだけど。
「でも、正直ユリフィエ様が出てきたりマーシャがお姫様扱いされてたりで補正効果に関してはわたくしにも見当が付かない状況なのです。今後、どんな補正が行われるのか……行われないのか……。予想としては巫女様が『あの方のルート』を進む度にある程度の補正が入るのではないかと思います」
「つまり次は『マリアンヌ姫』補正か」
「多分」
む、むう。
マリーは明日俺たちとともに東区へと連れ帰る。
つまり、偽物のマリアンヌによる妨害が本物のマリアンヌになる可能性も?
本物のマリアンヌ……つまりマーシャ。
あいつも一応、ライバル役としての役割を持ってる。
その能力が補正に用いられる可能性はゼロではない。
「……ヘンリエッタ様、『あの方のルート』だとマリアンヌはどうなるのでしょうか?」
「どのエンディングにも関わらないわ。邪魔するだけ邪魔して終わりよ」
「では、万が一このまま進んでもマーシャが破滅する事はないんですね?」
「! あ、そ、そうね、そうか……マーシャの破滅エンドはないから大丈夫!」
ふむ、マーシャが邪魔してきても特に問題ないか。
…………まあ、普通に考えてあいつの邪魔など簡単に踏み倒せるだろうしな!
あいつの出来そうな邪魔なんぞたかが知れている!
「で、ハッピーエンドはその戦闘を勝利で終わらせて……という事か? ヘンリ」
「あ、うん、そうよ。相手は獣人だし、五人対一人なの」
「鬼イベじゃないですか」
戦争レベルの戦闘じゃん、なにそれ!
それが個人のルートのイベント!?
「そ、そう。でも一応リーダーの獣人一人を倒せばクリアなのよ」
「む、むう、一人……」
「でも、そのイベントを乗り越えるとユリフィエ様があの方に『真実』を告げても動じないの! そしてあの方は、ヒロインを信じる事を選び、レオ様を助け出し、さすがに監禁はやりすぎだ、って偽者マリアンヌをギャフンと言わせて戦争イベントへ! という流れ!」
「なるほど、ストーリー自体に大きな変化はないんですね」
「……ん? けど、戦争で負けたらやっぱりバッドエンディングなんじゃないか?」
水を差すケリー。
若干引いたぞ、その的確すぎる現実の突きつけ方!
なんでそれ言っちゃうかな!?
「うーん、でもあの戦闘イベントをクリア出来るレベルのステータスになってるなら、戦闘難易度『雉』でも負ける事は少ないわよ」
「……ああ、なるほど……獣人とすでに戦って勝っているんだものな」
「そういう事!」
ほっと、胸を撫で下ろす。
いや、待て。
だが、そうなるとますます……。
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