魔法訓練


 さて、四月も順調に地獄のような多忙さを極めております。

 土曜の城での勉強会は今年一年休みとなったのだが、その代わり俺たち従者候補は魔法の訓練が追加されてほぼ毎日放課後は魔法研究所で魔法の『創造』に費やされている。

 これが難しいのなんのって……。

 魔法は基本的に魔力を巫女殿経由でエメリエラからもらうのだが、魔法を使うのは『従者』の想像力頼り。

 そりゃあ、どうやって使うんだ問題はあったがこれは思いもよらなかった。

 もっとこう、出来合いの魔法が使えるものだと思っていたんだが、まさか自分で一から作るとは。

 ゲームだとミニゲーム風で終わった事だが、現実は厳しい。


「わあ!」


 ボワァ!

 と、燃え盛る炎。

 ……レオだ。

 レオの場合、魔力適正が高すぎるせいか魔法を使うと制御が効かない。

 あのように火柱が毎度毎度上がる。

 レオの場合はアレの制御が課題。


「っち!」


 エディンの場合は風の操作。

 こちらも制御が課題と言えるが、風の操作はそもそも非常に難しいらしい。

 エメリエラ談。

 ただ弓矢を使うエディンにとって、使いこなせればこれ以上ないほどに相性の良い属性。


「ヴィンセント! もう一度だ!」

「お、おう!」


 んで、俺とクレイ。

 そもそも『闇属性』はクレイだけだったはずなのだが、俺が『オズワルド』なせいなのか俺も『闇属性』が使えるようになった。

 のは、以前確認した通りなのだが……そこで俺とクレイに起きた問題は『闇属性』は『魔法を打ち消す力』であるという事。

 つまり、魔法の訓練をするには『打ち消す魔法』が必要なわけである。

 幸い俺は『水属性』もあるので、クレイに向かって水の球を放つ。

 クレイはそれを打ち消す。

 ……と、いう訓練を行なっている。

 俺は同時進行でこの水の球をなんとか魔法っぽく昇華出来ないか、試行錯誤を繰り返しているのだ。

 こんなんじゃ戦争で、敵をダウンさせるのには到底使えないからな。


「……はあ……はあ……」

「なんか、これ……はあ……精神的に疲れるっつーか……」

「あ、ああ……」


 二時間ほど訓練を休まず続けると、こうして精神が削られて立っているのもやっとになる。

 レオも、エディンも汗だくだ。


「で、ケリー……なんでお前は普通なんだ?」

「だって俺、今日は従者石持ってないし」

「そ、そうだったな」


 従者石は四つしかない。

 レオ、エディン、俺、クレイ。

 今日訓練していたのは俺たちなので、ケリーは見学。


「はいはーい! じゃあ次は俺っちたちの番ですねー!」

「帰りたい……」

「諦めろアルト。では、巫女殿、頼む!」

「は、はい。よろしくお願いします」


 さて、精神的にダウンしている俺たちとは交代に、今度はケリー、ライナス様、ハミュエラ、アルトの番。

 一応コイツらも従者候補と書いて攻略対象と読む。


「むん!」


 ライナス様の属性は『火属性』。

 レオと同じだが、威力で言うと天と地ほどの差がある。

 ライナス様の場合、小さな火の玉を一瞬だけしか作れない。

 その上、消耗も大変激しいらしくすぐに膝をつく。

 まあ、今の俺たちのようになるのがとても早いという事だ。


「ふんふんふーん……♪」

「はあ……面倒くさい……早く帰りたい」


 ……で、反対にケリーとアルトはなんだあの上達ぶりちくしょう。

 と、忌々しく思うほどに魔法使い属性。

 ケリーは最初に使った時の怯えた姿が夢だったかのように、訓練所に土の逆さ氷柱を打ち立てていく。

 アルトは俺のように水球を作り出すも、それを槍のようにしてすごいスピードで撃ち放つ。

 しかもライナス様のようにちょっとやそっとでは疲れた様子を見せない。

 あいつら絶対RPGだとMP有り余ってる魔法使い属性キャラだろ絶対そうだろ。


「ほっ、はっと!」


 そして、こっちもやばい。

 ああ、ハミュエラだ。

 なんつーか、センスがさすがなのだ。

 ハミュエラもエディンと同じ『風属性』なのだが、ハミュエラは風を体に纏い、体を軽くして浮いたり飛び上がったりする。


「…………二年生連中が優秀すぎる」

「なんなんだあいつら……っ! くっそ、ダモンズめ、俺はこんなにも苦労しているというのにあの楽勝顔……っ!」

「すごいなぁ……ケリーとアルトは生まれつき魔法が使えていたみたいだよね〜……」

「ラ、ライナスはもう膝をついているが大丈夫なのか?」

「うーん、ライナス様は多分使い方が向いてないような気がするな?」


 ゲームの攻略サイトで、ライナス様は魔法を身体強化に使っていた気がする。

 スティーブン様は巫女殿と同じ治癒とか他者への身体強化系。

 ルークやニコライに関してはヘンリエッタ嬢に聞かないと分からんが……いやもうヘンリエッタ嬢呼ばない?

 呼ぼうよ、絶対そっちの方がいいよ!

『ティターニアの悪戯』のせいにすればゲーム知識はここぞとばかりに役立つよ!


「巫女は体調に変化ないの?」

「はい、ありません!」

「レオ様! 話しかけないでください!」

「す、すみません……」


 えーと……そして今、巫女殿は剣を習っている。

 スティーブン様に。

 いや、なぜスティーブン様。

 そう思うだろう?


「わ、私だってあまり剣は得意ではないのですから!」

「む、無理しないでよ!?」

「し、しませんが……私も従者候補なので頑張るのです!」


 ……まあ、巫女殿はそもそも剣を持つのが初めてと変わらない。

 スティーブン様も、これまである程度……最低限の剣技の教育は受けておられる。

 だがまあ、そのつまり……レベルが一緒なので一緒に訓練してる……と、いう事だ。


「はわわわわわわ……!」

「あううううう……!」


 で、ルークとラスティも順番が回ってくるまでスティーブン様と巫女殿と一緒に剣の稽古。

 見て分かる通りこいつらもヤバい。

 手や足腰震えながら剣を振るうので、剣がこっちにいつ飛んでくるかと……!

 木剣も当たると痛いし。

 いや、避けられるとは思うけど。

 ほんとこいつら戦闘に向いてないな!


「…………混沌としているな……」

「て、的確な表現だな」


 クレイの言う通り……カオス!


「そうだ、フェフトリー、ちょっと勝負しよう」


 ん?

 ケリーがなんか言い出した?


「え……嫌だ。お前、容赦ないし」


 うん、俺もそれには全面的に同意するぜアルト。


「待って待って、アルト一人じゃ危ないから俺っちも参戦するー! ケリー、勝負なら俺っちとしよーよ!」


 と、混ざって来たのはハミュエラ。

 アルトを庇うように立ち、木剣を向ける。


「…………。ハミュエラ様とケリーか……普通に考えるとハミュエラ様の方が強そうですね」

「そうだな、剣技だけならダモンズの方が上だろうな」

「王子、ミケーレ・キャクストンと女神エメリエラは属性的に風の方が土より強い、と言っていなかったか?」

「あー、そうだね確か……『火』は『風』に強く、『風』は『土』に強く、『土』は『水』に強く、『水』は『火』に強い……だっけ? それと『光』と『闇』は相反する。『光』と『闇』は互いに強く、互いに弱い……って、エメが言ってたね」


 とりあえずベンチに座って一休みしていた俺たち、先に魔法の練習をしていた組はケリーとハミュエラ……と、アルトの勝負をのんびり眺める事にした。

 まあ、いつ木剣が吹っ飛んでくるか分からないので気は抜けないけど。


「…………。良いぜ。じゃあ二対一で」

「んん!?」


 なんだと!?

 聞き間違いか!?

 思わずベンチから立ち上がり、ケリーの方へと駆け寄る。


「おい、二対一はさすがにお前……!」

「いや、イケる気がする」

「気がするでイケるわけないだろ!」


 魔力の相性的にケリーはハミュエラに弱いはず。

 剣技だって、割と正攻法のケリーと奇抜な動きをしてくるハミュエラは相性が悪い。

 それなのに、アルトも加えた二対一だなんて、さすがに無茶だろ!


「いや、イケると思う。ヴィニー、俺はお前にも今なら勝てる気がする」

「……っ!?」


 な、なんの自信と敵愾心……?


「…………む、無茶するなよ?」


 いや。

 去年、サバイバルゲームで俺とライナス様の手合わせを見て以来のケリーを思い出した。

 あの時の、ケリーの言葉や表情。

 普通に戻っているとはいえ男の子だもんな、思うところはあったんだろう。


 ……正直お前の強さって俺とタイプが違うと主張したいけどな!!!!


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