破滅エンド回避会議【後編】
心外だ!
俺が例えお嬢様にとっての破滅フラグであったとしても、変態であるかのように扱われるのはなんか違うと思います!
若干のMっ気は自覚あるけど!
「巫女様大丈夫かしら……この人無自覚でフェロモン撒き散らすし、無自覚で口説いてくるし、無自覚で距離感間違って詰めてくるし、無自覚で勘違いさせる事言ったりやったりしてくるから……」
「ふぐっ!」
そ、そっち!?
ヘンリエッタ嬢の恐ろしく説得力しかないお言葉!
い、いや、多分そんな変な事はしてないと思う多分!
…………してないよね?
「だがそう考えると巫女殿とこいつを二人きりにして、秘密の共有をさせるのは危険かもしれない」
「「た、確かに!」」
「?」
みんなガチすぎる表情だな。
というか、危険だなんて失礼な!
まるで俺がケダモノのような言い草ではないか!
「お、お前ら失礼だぞ、俺に! 若い女の子と二人きりになっても変な事なんかしねーよ!」
「ちっげーよ鈍器黙ってろ」
「……え、えぇ……」
そんなキレ気味で怒られるほどの事言った……?
「うーん、けどパーティーまで時間もないですしねぇ。あ、パーティーといえばもう一つ問題がありませんでした? ローナ様へクレイ様が一目惚れする可能性の方も」
「「そ、そうだった!」」
と頭を抱えるヘンリエッタ嬢とケリー。
抱え方は別ではあるものの、俺も鈍器で殴られたような衝撃。
そうだった、それもあった!
巫女様歓迎パーティーなので、同盟相手の長であるクレイも招待されるらしいのだ。
あと、レオとしてはいい加減婚約者となったうちのお嬢様をクレイに紹介したいのだろう。
もし、紹介された時にクレイがお嬢様に一目惚れする、なんて事になれば、その場は歓迎パーティーどころか修羅場じゃねーか!
胃が爆発するレベルの修羅場!
絶対に避けたい!
それは本当になんとかしなければ!
「一目惚ればかりはどうする事も出来ないわよね〜! ローナ美人だし気持ちは分かる〜!」
「そうなんだよな〜! 無理もない! 義姉様の美しさでは……!」
「全くだ! なんて罪なお方……!」
「この先もクレイ様とローナ様を会わせないようにする、というのは……無理ですよ?」
「「「……………………」」」
アンジュの言葉に押し黙る。
頭が痛い。実にその通りだ!
ど正論!
クレイは同盟種の長。
レオは人間族の王になる。
交流を深めていかなければならない間柄。
亜人はどうか知らないが、人間は王の妻……王妃とは表に出て外交にも携わる『華』だ。
お嬢様の美しさならば『華』として申し分ない。
王妃としてのお勉強もすでに始めておられるようなので、今後もより一層王妃として恥じない方になられていくだろう。
そんな相手に横恋慕とか、全力で笑えない……!
「し、しかしクレイの性格からしてレオからお嬢様を奪い取ろうなんて……!」
「やるのよ! ゲームの中のクレイは!」
「嘘だろ!?」
「いや、まあ、ゲームの中のローナの婚約者はエディンだけど! エディンはあんまりローナに興味のないパターンのエディンたけど!」
「え、待ってうちのお嬢様に興味あるエディンとかいるの!?」
「だからそういうのはまた今度整理してください、ヴィンセントさん。具体的にクレイ様はどんな行動をするんですか? お嬢」
「ぐえっ」
うあう、アンジュの容赦なさが戻ってきたー!?
いや、別に構わないけど!
でも顎を押し退けるのはやめてくださいお願いします。グキっていった。
「……ストレートに『妻になってほしい』ってプロポーズしてくるのよ!」
「ふぁーー!?」
ど直球ストレートアウトーーーー!?
「え、ちょ、それどこで……!?」
「一目惚れした直後よ。スケートの時」
「っ」
……か、回避成功……!
でも、それをもし『巫女様歓迎パーティー』でやらかしたら……っ。
「ま、まずいなそれ……そんなのをレオハール殿下の前でやられたら……!」
ケリーも俺と同じ事を思ったらしい。
頭の中には『婚約破棄』『同盟解消』『不貞疑惑』からの『伯爵家爵位剥奪』『没落』『お嬢様処刑』……様々な最悪のシナリオが駆け巡る!
ヤバいどころではない。
ヤバいどころではないぞ……!
「ヴィ、ヴィニー、クレイにお前から義姉様には絶対惚れるなと注意出来ないか?」
「そ、そうだな!」
「でも一目惚れって本人でもどうしようもないんじゃないんですかー?」
「「…………」」
……まあ、そうだな。
いや、でもなぁ! クレイほどの男なら本当にそれやりそうだしなぁ!
亜人と人間では文化が違いすぎる。
結婚観も以前聞いた時、男前な事言ってたし。
「よし、まず俺がクレイに人間の結婚観や仕来りとかを教えてこよう! そうすれば一目惚れしてまずプロポーズはないだろう!」
「そ、そうかなぁ?」
「いや、それも下準備としてはしておくといいだろう。だがパーティーの前に顔合わせをしておく方がまだ安心感がある」
「え? それって事前にローナとクレイを会わせておくって事!? だ、大丈夫なの!?」
「分からん。だが、パーティー会場でいきなり義姉様にプロポーズされるよりはるかにマシだ!」
「う、うーん、まあ、それは……」
「それにクレイは長としての意識が高い。事前に『人間はそういうものだ』と知識を持たせておけば自重するだろう。亜人とはいえ理性的な感じだったし……な、なあ? ヴィニー?」
「え、あ、う、うん、まあ……」
そう、だな?
クレイはちゃんと仕込んでおけば……たとえ一目惚れしてもある程度は抑え込む、だろうか?
いや、不安だ。
一本気な奴なのでそれだけでは不安だ!
「いや、メグに相談しよう」
「な、なんて説明する気だよ!?」
「はい。そこはあたしが任されます。ヴィンセントさんがこの手の話題で役立つとは思えません」
「アンジュ! やってくれるか!?」
「はい、お任せくださいケリー様」
アンジュ様……!
……若干アンジュのケリーへの忠誠心がヘンリエッタ嬢より高い感じなのが微妙に気になるけど……アンジュなら確かに俺よりもメグへの接触率は高い。
この手の話題で俺が役立つか否かについては、言い返す言葉が見つからないので、是が非でもお願いした方がいいよな!
「……根本的な疑問としてなんでクレイがうちのお嬢様に一目惚れするんだろう」
「そんな真理みたいな質問されても分かんないわよ……」
「他のルート? では義姉様とクレイは出会わないんだろう?」
「うん。この『ゲーム難易度・鬼』だけよ」
「そもそもその『ゲーム難易度・鬼』ってなんなんですか? ヘンリエッタ様」
「えーと、そうね。ゲーム難易度は『パーフェクト』で実装されたシステムよ。戦闘難易度と同じく『犬・猿・雉・鬼』と難易度が上がる仕組みなの」
「なんで桃太郎風……?」
「さ、さあ? イージー、ハードとか、普通じゃ面白くないとかなんとか……」
でもだからと言って桃太郎風にする意味が……。
い、いやいや、話が逸れた。
「何が変わるんですか?」
「そうね、好感度や友好度が上がる瞬間が表示がされなくなったりするわ。エメリエラの能力で見える相手のステータス……好感度とかね、が、見えなくなったり、エメリエラがそれまで恋愛イベントが起きる場所に『愛の気配があるのだわ』って誘導していてくれたりしたんだけどそれもなくなったり……とにかく上級者向けのシステムね。その分リアリティが上がる感じ? 相手は今わたしをどう思ってるの〜? ってドキドキ感が味わえるのよ……!」
しゃらくせぇ。
……とか思わないでもないけど、女子ってそういうの好きなのか?
ゲームの中でまでそんな事考えなきゃいけないとかめんどくない?
ヘンリエッタ嬢は「きゃっ」て染まった自身の頰を両手で包んでいるけれど。
俺にはその楽しみ方の意味が分からない……。
「ゲーム難易度と戦闘難易度ってどう違うんだ?」
「ゲーム難易度は主に恋愛イベントとかの難易度で、戦闘難易度は戦争の難易度かしら?」
「……戦争の難易度……」
質問したケリーが神妙な面持ちで腕を組む。
なるほど、俺たちにとってはそっちの方もなかなか重要な情報だな。
ちなみに、とヘンリエッタ嬢にその戦争の難易度の違いを聞いてみた。
「戦争の難易度は全体の敵の強さよ。相手が使う魔法もだいぶ違うわ。妖精は魔法中心……厄介な全体攻撃魔法が加わる。エルフは魔法中心だけど物理攻撃……主に弓矢ね、それに魔法による属性付加の攻撃が増えたりするの。獣人と人魚男のHPは爆上がりするし、人魚女は回復魔法まで使うようになるわ」
「げ、げぇ……」
「も、もしそれが本当なら……対策が立てられるな? 詳しく聞いてもいいか?」
「え、ええ! もちろん!」
「あれ、ヴィンセントさんとクレイさんの件はいいんすか?」
「……良くないな。先にそちらの対策をまとめてしまおう」
戦争の件は俺たち以外にも有益な情報だからな。
他の『従者候補』と巫女殿にも聞いてもらった方がいいだろう。
それにしても……お嬢様……なんでこんなに破滅フラグが立ちまくっているんだ。
これが悪役令嬢という星の下に生まれた運命だというのか。
ひどい。
「今のところ早急な対応が必要なのはクレイとヴィニー……というか『あの方』のルート、という事になる。目下最大の山場は『巫女様歓迎パーティー』。この時までにやるべき事は大きく三つ。一つ、クレイ対策。これはアンジュにメグを通して『人間の婚姻に関する情報』を流してもらう。同族のメグからの助言なら、ヴィニーより説得力があるだろう」
「あ、そうだ。説得でいうならクレイはスティーブン様が苦手だ。スティーブン様の言う事なら割と聞くと思う」
「……? ど、どうしてそういう事になってんのかは分からんが……まあ、そういう事なら、クレイへの教育・調教はお前とスティーブン様、メグとアンジュに頼む」
調教……。
言い得て妙というか……いや、それ絶対本人たちに聞かせちゃダメなやつでは。
「二つ目は巫女殿へヴィニーの血筋の事を知らせて、口止めをしてもらう。事前に知っていれば当日エメリエラ様に聞かされたとて驚きはしないはずだ。当日はマリーをメイドの研修か何かで引き離す。その辺の手回しは……アンジュ」
「もちろんでございます。お任せくださいケリー様」
「で、巫女殿の呼び出しはヘンリ、頼む」
「あ、そうね」
「呼び出す理由はダンスの練習。パーティーがあるのだから、最低限の基礎を学んでもらう」
「「お、おお……」」
思わずヘンリエッタ嬢と声が重なる。
なにこいつほんと天才なんじゃないの……。
「三つ目……これが最も重要だ」
「……!」
ごくり。
「義姉様とレオハール殿下にデートして頂く! 婚約が内定したんだ、周囲に徹底的にうちの義姉様が次期王妃であると知らしめる! つーか婚約申し込みから一ヶ月経ってんのに進展なしとかどーゆー事だ!? 殿下がお忙しいのは分かるが放って置きすぎだろう!」
「「「……………たっ……確かに……!」」」
ぐうの音も出ないほど納得した。
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