番外編【マーシャ】4
「あ!」
はた、と立ち止まった。
今日もメグと図書館で勉強した帰り、義兄さんが買い物に行くところさ遭遇したんだけど…。
「…………メ、メグに本返してもらうん忘れてたさ…!」
メグには毎週本をわたしの名前で貸し出して、次の週会う時に返してもらってる。
最近は週に一回じゃなくてほとんど毎日会うようになってきてたけど…本は週一なんさ。
やばい、延滞すると叱られる。
それでなくとも又貸しだし!
夜は外の箱に返せばいいって書いてあったよね。
今から返してもらって、外に設置してある返却箱さ入れて帰ろう!
そう思い立って、町への道を下って行く。
そこでハタ、と気が付いた。
メグってどこさ住んでんだろ?
…わたし、そういえば自分の事ばっかり喋っててメグがどこさ住んでるとか、全然知らねーさ。
うわ、どうすんべ…。
…とりあえず義兄さんは市場に行くって言ってたし、市場方向だよな?
あんまり遅くなっと義兄さんに叱られるし、メグの事を早く見つけねーと…。
いやいや、そもそも義兄さんが思わぬところに現れるからびっくらこいてメグに本を返してもらうのを忘れたんさ!
そう、今回のこれは義兄さんのせい!
たっ、たっ、たっ。
と、坂道を颯爽と下り、プリンシパル区の町に降りた。
これまで全然意識してねかったけど、丘の上にあるってホントだな。
結構坂道が多いんね。
えーと、市場は…。
「マーシャ!」
「あ!」
市場の方向を探していたら、今まさに会いたかった相手の声。
駆け寄ると「ごめん」といきなり謝られた。
「本、返すの忘れてたよ! …あんたの義兄さんに頼めば良かったんだけど別れてから気が付いちゃって…」
大きな肩掛けカバンをゴソゴソして、図書館から借りた文字の本を取り出すメグ。
いつも思うんだけどメグのカバン大きくていっぱい入りそうで羨ましいさ。
「なんにしても入れ違いにならんで良かったさ」
「そうだね」
「明日また別な文字の勉強できる本借りて貸すな」
「…うん、なんかいつもごめん。…あ、そういえば…あんたの義兄さんに聞いたんだけどーーー」
「おいおい、見ろよ。メイドだぜ?」
「本当だ、下町のオトモダチと夜遊びかぁ? そいつぁいい。俺たちの相手してくれよ」
「丁度6対2だ…3人ずつ…なぁ?」
は?
「っ……、…帰んな、また明日ね」
「え、あ、うん」
なんだろ、酔っ払い?
確かにそろそろ夜の時刻だけんど、もうあんなに飲んどんのか?
これが小説でよく見る「下劣な表情」ってやつだな。
メグに回れ右をされて、背中を押される。
…あれ、でも…わたしが帰ったらメグがあのおっさん達に絡まれるんじゃ…。
「おい待てよ」
「ほら、あっちに宿があるからさぁ」
「やめな! この子はあんた達みたいなのが相手してもらえるような子じゃないよ!」
「メグ!」
何歩か離れたところでおっさん達をメグが制する。
わたしを庇って…。
「いいから帰りな! こんな奴ら、あんたが相手する必要ないんだから!」
「でも!」
「言ってくれるなぁ? なら、嬢ちゃんが相手してくれよ」
「俺、こういう気ぃ強いの好きなんだよなぁ…? ヒヒッ…」
「っ!」
メグ!
名前を叫んだ時、メグの腕をおっさんの1人が捻りあげるように掴んだのが見えた。
そのまま勢いよく引き寄せられた拍子に、メグがいつも被っていた大きな帽子が後ろへ落ちる。
そして、その頭には大きな……耳?
「‼︎ こ、こいつ! 『耳付き』じゃあねぇか⁉︎」
「うわ!」
「…………っ」
…獣の、耳。
あれが…亜人?
メグが?
ハッとした。
おっさん達が嫌悪の表情に変わり、うち1人が近くの家に立てかけてあった細めの薪を手に取ったのが見えた。
それをメグに、投げつける。
「いっ!」
「化け物め!」
「ここは人間の領土だぞ⁉︎ なんでここに居る⁉︎ この、耳付きめ!」
「気色悪ぃ! 国王のお膝元によくも平気な顔して現れやがったな…! この!」
おっさんたちが次々と民家の前に立て掛けてある瓶や薪を手にすると、それを投げつけたり振り下ろしたりし始めた。
メグはそれを避けながら、民家と民家の隙間に逃げ込む。
「あ…」
なのにおっさん達は、適度な細い木の棒を掴むとメグを追いかけ始めた。
なんで⁉︎
「…………」
帽子を拾う。
胸が、痛い。
わけ、わからん。
でも、友達なんさ。
追い掛けて、おっさんたちの声が聞こえる方へ進む。
別の道に出ると、その奥の家と家の隙間から声が響いた。
その隙間目掛けて駆け込むと、おっさん6人に押さえつけられそうになっとるメグ。
なんで⁉︎
なんでそんな酷いことする⁉︎
「化け物!」
「違う!」
「!」
薪をメグに振り下ろすおっさんを見たら、もう、自分でも、何かが抑えられんかった。
その脇の民家に立て掛けてあった箒ば掴んで、おっさん達をすり抜けてる。
薪を箒で受け止めて、思わず叫んでた。
「耳付きって差別用語だから使っちゃダメってお嬢様が言ってたべさ!」
「…マ、マーシャ…」
自分でもどうやったんかようわからん。
箒を半回転さして、おっさんの薪を叩き落とした。
別なおっさんがなんか叫びながら襲ってきたから…一瞬姿勢ば下げて箒の先端でおっさんの足の隙間を引っ掛ける。
ぶっ倒れるおっさんの真横から別なおっさん。
箒を引っこ抜くようにして、その勢いのまんま脇の下をひっ叩く。
面倒。
足かけて倒れたおっさん踏みつけて、飛ぶ。
後ろにいたおっさんの脳天に箒を振り下ろし、ぶっ倒す。
えーと、これで…4人!
「なんだこのメイド⁉︎」
「うっさい! 先に悪いことしたのあんたらやんけ! 寄ってたかって1人の女の子ば相手に…オメーらみてぇなんクズっていうんさ!」
「クソ! 耳付きなんかの味方するなんて何考えて…」
「それ差別用語ださ! 使うな!」
「うわあ!」
構えて見せっと、残りの2人はケツまいて逃げてった。
なんさ、男らしくねぇな!
「………マーシャ…あんた…」
「あ、メグ! 怪我ないさ⁉︎」
「……………」
へたん、と座り込むメグ。
あ、そっか、めっさ怖かったんな。
駆け寄ってしゃがみ込む。
メグは自分の耳を両手で抑えた。
「………ごめん」
「え?」
「…騙してたつもりはないの…っ、ただ、言えなくて…!」
「なにが?」
「…なにがって、あたし…………っ…亜人族…」
「……うん」
ポロポロと泣き出すメグ。
そうだな、怖かったんだな…。
わたしもあのお嬢様の婚約者を名乗るクズ野郎に腕掴まれてどっかへ連れていかれそうになった時は怖かった。
よしよし、って、頭を撫でてやるとメグは驚いたみたいな顔でわたしを見上げる。
「…どうして…、…気味悪くないの…? あたしの耳…」
「耳? 耳なら私にもあるさ」
ほら、と顔の横にある耳を引っ張った。
ますますキョトンとするメグ。
? どうした?
「…あたしは、耳付きだよ⁉︎」
「それ差別用語だから使っちゃダメってお嬢様が言ってたさ!」
なんでメグまで使うんけ!
と怒るとぶわりとメグは泣き出した。
なんで⁉︎
「うっ………ううっ…!」
「メ、メグ…どうしたんさ? やっぱり怪我したん? どこ痛いの? ええ〜、どうすんべ…わたし手当とか苦手…あ、いやいや、ちゃんとやり方は義兄さんに習ってるから…だから痛いとこ見せるさ、メグ」
「っうう…!」
「メグ〜?」
そして腰に抱きついてきた。
そんな、倒れるほど怪我痛いんか!
背中をさする。
腕とか頭とかもさする。
痛いのどこなんだろう、わたしに手当できるといいんだけんど。
義兄さんが側にいたら、義兄さんの方が手当は上手いから頼めるんだけどなぁ。
こんなメグを放って市場さ探しに行くのも気ぃ引けるし…うーん、困ったべ。
「…………あんたって、ほんとばか」
「なして⁉︎」
30分くらい、延々とわたしにしがみついて泣いていたメグが落ち着いてきての第一声。
な、納得いかねぇ、なんで⁉︎
「…マーシャ…明日からも…普通に友達として、会ってくれる…?」
「? え、なんで? そんなの当たり前じゃん? なんでそんなこと聞くんさ?」
「……………………」
わたしが聞いても、メグは涙を目に浮かべたままニコッとかわいく笑うだけ。
ええ、全然意味わかんない…。
なんで1人で楽しそうなん?
ずるくねー?
「…ありがと…」
「??? なにが?」
本当に、なにが???
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます