雨二ウタヱバ
アラキレンズ
プロローグ
黄昏時から断続的に降り続けている雨は、やがてバラックの屋根の下に水溜まりを作り、僕の足の踏み場を無くしていく。ここはもう駄目かと雨宿りの場所を移動しようとした時、向かい側から照らしていた常夜燈の光が薄れ、一つの小さな影が僕を覆った。
「君、独りなの? 雨宿り?」
僕は声のする方へ視線を移し見上げると、小さな影の主は一人の少年だった。年の頃は十歳くらいだろうか、子供らしく興味深げに僕を見ているがその表情や瞳からはどこか見かけの年齢以上の雰囲気を漂わせている。
「そっか、独りで雨宿りしてるんだね……」
勝手に状況を解釈してしまっているが、少年の言っていることに間違いはなく、特に言い返すこともないし、こちらの言葉が理解出来るわけでもない。
「僕も独りだし、一緒に雨宿りさせてもらうよ」
そう言うと少年は、山積みに置いてある木製パレットの上に腰を下ろした。そして少年は手招きをしてこちらへ僕を呼び寄せている。
「ここはまだ雨に濡れてないよ」
少し笑みを浮かべた少年だが、その
そもそも何故この少年がとっくに日が落ちた闇夜の、しかもこんな人気の無いバラックの廃墟にいるのか疑問だ。こちらの勝手な想像だが、近くに少し民家はあるが住宅街などという言葉を使うほどの場所ではなく、ここら辺は本当に人気も少なく静かな場所なのだ。少年は第一印象で感じた大人びた小学生という印象だけじゃなく、身なりなどからどこか都会的な雰囲気があり、この辺りの住んでるとはとても感じられない。そんなこちらの勝手な想像を割くかのように、少年の寂しげな瞳が僕の思考を制止させる。そして僕は木製パレットに軽くジャンプして少年の横に静かに腰を下ろした。
「君はなんだか僕に似てるね……だから声を掛けたんだけどね」
そう言うと少年は僕の頭をそっと撫で始めるが、少年の手はとても冷え切っており、この凍雨の降る中を長時間うろついていたことが容易に想像出来た。
「僕はこの町に引っ越して来たばかりなんだけど、父さんは仕事でいないから家に帰る途中にちょっとこの町を探索していたんだ」
少年は
「僕はずっと独りだけれど――でもね、僕は本が好きだから本の中に入り込んでしまうと、とてもワクワクするしドキドキもするし、それがとても楽しいんだよ」
だから少年は独りでも大丈夫なんだと言った……本は本当に好きなのだろうと感じたが、しかし、大丈夫の言葉にとても強みを帯びていたことが、少年の満たされない心模様を深く感じてならなかった。そして僕は固く握りしめられた少年の手の甲をチロチロと舌でそっと舐めた。何故こんな行動をとったのかは自分でも分からなかったが、この時は何故か何かしなければと思ってしまったのだ。
「ありがとう、君は優しいね……そうだ!お礼に君に名前をつけてあげるよ」
そう言うと少年は僕に名前をつけて、父さんが帰る頃だからだと言って、自分の透明のビニール傘を僕の
僕の名はレイン、流れ者の猫のレイン、冬の冷たい雨の降る夜に僕は固有の存在となった。漆黒の空、チカチカと
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