第三三話 ヒントは魔獣の声

 あまりの内容に、ガッドが話さなければ誰も信じなかっただろう。


 「なるほど。そう言う事でしたか。彼はあのシリル……」


 ダミアンはそこまで言って、チラッとオルソを見て、リーフを見た。

 オルソはダミアンと目が合うと、小さく頷いた。

 ダミアンは、リーフが性別を偽っていると気づいたのだ。だが察して、そこには触れないでおいた。


 「リーフさん。何故シリルと知り合いだった事を黙っていたのだ?」

 「申し訳ありません。俺……私が、黙っているように言ったのです。リーフも狙られている可能性があったものですから……申し訳ありません」


 ゴーチェがリーフに問うと、オルソが立ち上がり頭を下げた。

 慌ててリーフも立ち上がり、頭を下げる。


 「ごめんなさい! 魔獣の事も何も知らなかったので、色々怖くて言い出せませんでした!」


 ガッド達は、仕方がないという顔つきで二人を見ていた。


 「今はその事は置いておこう。それよりもあの魔術師のフリをしていた魔獣のマスターが誰かという事だ」


 ガッドがそう言うと、オルソとリーフは椅子に座る。


 「というと、フランクの疑惑は晴れたのでしょうか?」


 ダミアンがガッドに聞いた。


 「フランクは、私がその場にいなければ、もたなかっただろう。その事を考えると、フランクを殺そうとしたという事になる。フランクがマスターならまずないだろう」

 「ですが、私ではなくなぜ、フランクさん達だったのでしょうか」

 「私がいたから逃げようがないと判断したのだろう。アージェだと避けられる。まあそれで、アージェが魔獣を召喚する事になり、逆に向こうが窮地に立たされる事になったが」


 アージェの問いに、悔しそうにダミアンが答えた。

 あの魔術師は、アージェに攻撃するよりフランク達に攻撃した方が効果的だと思ったのだろう。

 まさかアージェが、魔獣を召喚するとは思ってもいなかった。


 「あの……私の疑いも晴れたのでしょうか?」


 ボソッとウリッセが言った。

 ウリッセでは、あの魔術師を召喚出来ない。だが疑われていた。


 「私は元から疑っていなかった。ただ、あの魔術師が魔獣だと言う確証が無く、自分の目で確認するまでは、全員疑うしかなかった」


 ロイがそう答えた。


 「一つ宜しいでしょうか? 私を疑わなかったのでしょうか? 私もオルソの事を知る一人ですが……」

 「まあ一応疑ってはいた。だからあなたも試させてもらった。ヘリムに付けたブレスレッドが偽物だったのではないかとな。疑われているフランクに、疑いがむくようにする事も出来るがしなかった。それどころかフランクよりシリルが怪しいと指摘した。だが一応それでも監視はさせてもらった。シリルと一緒にいるように命令して、私自ら監視していた」


 ゴーチェの質問にガッドが驚く回答を返す。

 この状況で他の者に見張りを頼めないと思ったガッドは、魔術でシリルと同じ部屋で休むゴーチェを監視していたのだ。

 なので二人は、魔術師が攻めて来た事を知らなかった。


 「では一体誰が、あの魔術師のマスターなのでしょうか? 私は始め、リーフが現れた事により事が起き始めたので、彼がそうなのではないかと思っておりました。勿論、マスターではなく、魔術師側の人間として見ていたという事ですが」


 リーフは、ダミアンの言葉に驚いた。

 そして、ハッとする。窓に穴を開けようとした時に声を掛けられたのは、偶然ではなかった。ダミアンがリーフを監視していたからだ。


 「でもまあ、召喚師が内通者とは限らないな。リーフの様に王都の外に召喚師がいる可能性もある。そうならば、こちら側の情報を流す者がいるのだろう。私達は、召喚師ではないかと、騎士に目を向けていたが、魔術師という線もある」


 ロイがそう言った。

 しかしここにいる者ではないのは、確実だった。

 オルソがシリルやチェチーリアを襲う理由もなく、ダミアンも自分の息子を殺そうとはしないだろう。ウリッセも昨日言っていた様に、自分の娘を巻き込むはずがない。

 ゴーチェは、城に来てから連絡を取った形跡もなく、シリルに何かした様子もない。

 アージェは、皆の目の前で魔獣を召喚した事から魔術師のマスターではない。

 リーフも自分の家族を襲う事などないだろうし、七年前は八歳だ。


 こうなると魔術師達の目的を知りたいところだった。

 今のところ、思いつかないのだ。

 魔獣であるヘリムを連れ去った理由や、シリルを二年も手元に置いてこちら側に、手渡した事。何か事を起こすとしても、シリルは未だ目を覚ましていない。

 そしてフランクの剣を奪った事だ。

 ヘリムを殺そうとして奪ったとしても、それは何故か。

 元の姿になったヘリムには用がないからなのか、それとも剣の用途は違う事だったのか。

 だがそれも逃げる為に使い、魔術師の手を離れた。

 これだけは、相手の意図しない事だろうと皆は思っていた。


 「でも何かしっくりこないと言うか……」


 アージェがボソッと言う。

 そして、腕の中で寝ているヘリムに目を落とす。


 「そうです! 召喚師は、このヘリムさんの存在をどうやって知ったのでしょうか? ほとんど城の中に居た彼を……」

 「城の中に入った事がある者なのか? しかし警備の騎士と魔術師以外は、儀式以外の時は、ほとんど近づかない場所だ」


 アージェが言うと、ゴーチェが続けて発言する。

 皆もハッとした。

 魔術師が村を襲う前に、ヘリムを捕らえに城に来ていた。召喚師が知らなければ、命令出来ない事だ!


 「なるほど。召喚師には魔獣の声が聞こえると言っていたな。独り言でも呟いた声をその者が聞いた。そうなれば相手は、魔術師として城の警備にあたっている者なのか? しかし……十年以上前に勤務していた事になるな」


 ロイがそう言って考え込む。

 召喚師は、元々魔術師だ。相手は魔術師として生活していた事になる。

 十二年前に捕らえられたのだからその時に勤務していた者。だいぶ昔の為、調べるのは大変そうだ。


 リーフも引っかかっている事があった。


 (召喚師には魔獣の声が聞こえる。なんだっけ? 何か大切な事を……)


 ヘリムの声をアージェも聞けたという事だ。そこに行きあたると、疑問が浮かぶ。

 ヘリムは、犬の時にアージェの前で話さなかったか?

 そう考えてリーフは気づく!

 

 「あぁ!!」


 つい声を上げたリーフを全員が驚いて振り向く。


 「どうしました?」

 「どうしましたじゃない! 知っていたんですよね? ヘリムからリボンがほどける前から僕が召喚師だったて事を!」


 立ち上がり、横に居るアージェにリーフは叫んでいた。

 ヘリムは、アージェの前で散々言葉を発していた。しかも、作戦中止だとも言っていた!

 何か策を講じていた事は、アージェも気が付いたはずだ。だがアージェは、気づかないフリをしていたのだ!


 「何を言っています。先に騙したのはあなたの方ではありませんか。それにヘリムさんも私に聞こえるのを知っていて、話していたと思いますが?」


 それを聞きリーフは、目を丸くする。

 よく考えればそうだ。

 ヘリムは、この国の召喚師の仕組みを知っていた。ならばアージェが召喚師だとわかって話していた事になる。


 「酷い。騙すなんて……」

 「どっちがです? あなただってヘリムさんをそのままゲージに入れようとしてませんでしたか?」

 「………」


 俯いたままリーフは、答えられない。

 そうだった。知らないふりをして、ゲージに入れてしまおうとしたのだったと思い出す。


 「これ二人共……」

 『何だ煩いなぁ……』


 詳しく事情を知らない皆は、二人の言い合いを驚いて見ていた。

 オルソが声を掛けると同時に、ヘリムが目を覚ます。


 「おや、目を覚ましましたか?」


 アージェが、ヘリムを見て言った。


 『うん? 何故また犬になっている!』

 「この方が運ぶのに便利だからです」

 「もしかして、会話をしているのか?」


 ダミアンが驚いた様にアージェに聞いた。


 「はい。目を覚ましたようです」

 「だったら元の姿に戻って頂いても宜しいか? 私達には聞こえない」

 「わかりました」


 ダミアンに言われ、アージェはヘリムを床に降ろし、リボンをほどいた。

 一瞬にしてヘリムは、犬から人間の姿に変わる!

 それを始めて目にした他の者は、息をのんだ。

 わかっていても驚いたのだ。

 その中で一人、ムッとしてリーフは、ヘリムを見ているのだった。

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