第一〇話 疑惑

 リーフは、はぁっとため息をついた。

 うまい話には裏があるとは言うが、まさかだった。

 依頼がなくなった以上、報酬はなし。

 しかも、このまま帰してくれないようだ。


 「どうしよう……」

 「あなたに聞きたい事があります」


 リーフがボソッと呟いていると、アージェが真面目な顔つきで問いかけて来た。


 「試験を受ける時に、紹介状をお使いになりましたよね? あれは、ご本人から頂いた物ですか? 違いますよね?」

 「それは……」


 真剣に何を聞いてくるかと思えば、突然突拍子もない質問をされた。

 いや、そうでもないかもしれない。

 最初からリーフを疑っていたのだから身元を調べようとしたのかもしれないからだ。


 しかしなぜ、そんな事がバレたんだろうかとリーフは考えた。

 紹介状は確かにチェックされた。

 だが本物かどうかだけで、本人には確認をした様子はなかった。

 していたのならば、その場でバレていたはず。

 封をしてあったので、中身は見てはいないが、自分の名前や性別は書かれてはいないだろうと察しはついた。

 何せ、名前も性別も偽っていたのだから。


 そもそも紹介状を使って試験を受けていたのなら、逆に安心するはずだ。

 とういか、何故紹介状に疑問を持ったのだろうか?

 とそこまで考えて、リーフはハッとする。


 (メモ紙だ!)


 あれを見てから雇うと言い出したんだと、リーフは思い出す。

 そうすると、もう一つ疑問が生まれた。

 何故、そこまで怪しいと思ったリーフを雇ったかという疑問だ。

 連れ出しに行かされたのは、犬ではなく魔獣だった。それを知っていて行かされた。

 怪しい人物に、魔獣と接触させるのは危険だと思わなかったのだろうか? 現にリボンをほどいて、封印を解いてしまっている。


 いや、そもそもリーフの事を調べ、捕らえるつもりだったのならば、本当の仕事など振らなくてもよかったはず。

 メモ紙を見た時点では、どのような仕事なのか教えていなかったのだから、適当な事を言って調べる時間を稼ぎ、疑惑が確信になった時に、捕らえた方が安全且つ確実だ。

 そう結論が出た時、リーフは聞いていた。


 「紹介状の事をどうして疑問に?」

 「メモ紙に書かれていたので、もしやと思いまして。で、あれはどうやって手に入れた物ですか?」


 (やっぱり! メモ紙を見て疑問を持ったんだ!)


 しかしアージェの態度から、自分自身を突き出す気はなさそうだとリーフは思う。

 では何をする気なのだろうか?


 敵討ち! ――恐ろしい考えが浮かんだ!


 アージェは、自分達三人……本来の姿のリーファー、兄のシリル、そして祖母のチェチーリアの事を知っている人物で、自分達が死んでいると思っているのならあり得ない話ではない。

 と、そこまで考えリーフはふと思う。

 一度しか会った事はないが、本人だとわからないものだろうか?

 会った時には気付けなかったとしても、紹介状がオルソの物だと知れば、もしや本人なのではと思わないのだろうか?

 髪は切ったが、別に整形はしていない。


 と、そこでハッとする。

 そう言えば、自分達は狙われていた。だから、チェチーリアに王都に近づくなと言われていたんだと。そして、逃げ切った後もオルソ達にも頼ろうとはしていなかった! 村に身を潜めていた。

 だとしたら目の前にいる彼は、味方じゃないかもしれない?!


 「あの……拾ったんです。ごめんなさい!」


 リーフは名乗らず、暫くはこのままリーフで突き通す事にした。

 その返答に、驚いた顔でリーフを見る。


 「いつ! いつ、どこで拾ったのです!」

 「えーと、二年前? あ、拾ったのはおばあちゃんで……」


 リーフは、目をそらしたまま曖昧に答えた。

 そうしないと直ぐにバレそうな気がしたからだ。


 「また、おばあさんですか?!」

 「……全部、嘘だと思っているんですよね? だったらもう、何も語りません!」


 これ以上突っ込まれない様に、リーフはそう返す。

 アージェは、ジッと鋭い目つきでリーフを見つめていた!

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