第六話 リーフの記憶Ⅰ

 ――ここは、木が立ち並ぶ森の中。足元には、薄緑色の石畳。その石畳を少女はジッと見つめている。


 「珍しいか? リーファー。この森林のトンネルを抜けると、王都グラディナだ。街の中は、皆この石畳だ」


 リーファー――リーフは、声の主に振り向いて、パッと笑顔を向けた。

 声の主は、リーフの祖母のチェチーリア。深緑の髪を後ろに束ね縛っている。チェチーリアがほほ笑むと、深いしわが増える。


 「おーい! 早くー」


 その声に二人が振り向くと、ブンブンと元気よく手を振る少年がいた。リーフの兄のシリルだ。深緑の髪に瞳。そしてよれよれのグレーの服。リーフと一緒だ。


 今日はシリルが、魔術師の試験を受ける為に、グラディナに向かっている最中だった。この森のトンネル近くまで馬車で来て歩いていた。

 リーフはまだこの時は、深緑の髪を耳の高さで一本に縛り、誰が見ても少女に見えた。


 「待って! シリル!」


 二人は、楽し気に森のトンネルを抜けると、森とは違った緑に感動する。

 道から建物に至るまで、緑色だった。


 「すごいよ! おばあちゃん!」

 「何もかも緑だね! 見てシリル! 家の壁に蔦が!」

 「本当だ! 面白い!」


 はしゃぐ二人を見てチェチーリアは、まだまだ子供だと、愛おしそうに見ていた。


 「ほら行くよ。見学は、試験が終わってから。紹介状を受け取りに行かないと、間に合わないよ」

 「はーい」


 二人は、声を揃え返事をする。三人は、石畳を足早に歩く。

 王都の中は、よほどの事がない限り、飛んでの移動は禁止されている。急ぎの時は、馬車を使う事になっていた。

 なので三人も馬車に乗り、目的の場所近くで降りた。

 試験会場の近くの建物の扉をチェチーリアはノックする。


 「おぉ! チェリ。久しいな。ささ、中へ」


 扉を開けたのは、チェチーリアと同じぐらいの年齢の騎士。これまた緑の髪に瞳。がっしりとした体格で、緑色のマントに薄緑色の服。そして腰には剣を下げている。緑つくしだ。


 促された三人は、中に入った。


 「こんにちは」


 そこへ奥から美少年が現れ声を掛けて来た。


 「彼はアージェと言う。俺と同じ騎士だ。おっと、二人は、俺の事も知らなかったな。俺は、オルソだ。宜しくな」

 「はい!」


 オルソにシリルは元気に返事をするも、リーフはアージェに見惚れていた。


 「私はチェチーリア。この子は孫のシリルで、こっちがシリルの妹のリーファー。宜しくお願いします」


 チェチーリアは、アージェに自分達の自己紹介をして、頭を下げた。


 「初めまして。私は、騎士ですが研究者でもあります。そこで、君達に出会えた記念に、マジックアイテムを用意しました。はい、どうぞ」


 アージェは、シリルにはナイフをリーフにはペンダントを渡した。


 「わぁ。ありがとう!」

 「ありがとうございます!」


 リーフが頬を褒めお礼を言うと、シリルも嬉しそうにお礼を言った。


 「アージェさん、ありがとう」

 「いえ、すみません。二人分しかなくて。シリルに渡したそのナイフには封印の力が、リーファーに渡したペンダントには、魔術無効の力を付与してあります。使う事がないとは思いますが、記念にどうぞ」


 アージェの説明に、三人はもう一度、ありがとうと頭を下げた。


 「時間も時間だ。アージェ、頼んだぞ」

 「はい。では、行きましょうか。紹介状は、私が持っておりますので」


 アージェに声を掛けられたシリルは頷くと、元気に手を振りながら二人で一緒に建物を出て行き会場へ向かった。


 「それにしてもお互い歳を取ったな。さぁ、そこへどうぞ」


 奥にあったソファーへと、オルソは二人に座るように勧める。それに従いソファーに座った。

 二人掛けのソファーに、チェチーリアとリーフが並んで座り、チェチーリアの向かいにオルソが座った。

 暫くは二人は、近況を話していた。リーフにはつまらなく、眠くなって、チェチーリアの膝を枕にして眠りに落ちた。


 「――火事の後、どこにいたのだ? 心配したんだぞ」


 寝ぼけながらもそんな声が、リーフの耳に届く。

 火事? なんだっけ?


 「襲われた皆は? 元気なのか?」

 「私達は、三人で逃げて――」


 逃げて……?

 ふとリーフが目を開けると、チェチーリアの顔が見えた。それは切なげで目に涙を浮かべていた。


 「おばあちゃん、大丈夫?」


 リーフの声に、チェチーリアは少し驚くも、大丈夫とリーフの頭を撫でた。

 安心したリーフはまた眠った――



  ◇ ◇ ◇



 「リーファー起きて!」


 まどろむリーフを呼ぶ声に、目を開けた。そこにはシリルがいた。リーフを起こしたのはシリルだった。リーフは、がばっと体を起こす。


 「シリル、お帰り!」

 「じゃーん! どうだ!」


 シリルが自慢げに見せたのは、魔術師証だ!


 「あ、それ! すごーい! おめでとう! いいなぁ!」

 「大丈夫。リーファーだって、二年後に取れるさ」


 二人が話していると、スッと目の前に封筒が差し出された。

 何だろうと二人は封筒をジッと見つめる。


 「紹介状だ。これを持って、二年後にまた三人でおいで」


 オルソが差し出した封筒は、リーフの分の紹介状だ。

 魔術師の試験を受けるのには、条件が二つあった。

 一つは十五歳以上である事。もう一つは身分を証明する物かそれに相当する物の提示。


 紹介状は、王族付属の者のであれば、身分を証明に相当する物になる。

 つまり、リーフも十五歳になれば、条件が揃い試験を受ける事が出来る!


 「うん! おじさん、ありがとう!」


 リーフは、元気よくお礼を言うと、紹介状を受け取った。そのリーフの頭をポンポンとオルソは撫でた。


 その後三人は、騎士団が所持する馬車で、出入り口の森のトンネルまで、アージェとオルソに送ってもらった。

 その二人に元気よく、シリルとリーフは手を振り、チェチーリアは頭を下げた。


 三人は、来た時同様に森のトンネルを歩く。

 シリルとリーフの二人は、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと落ち着きがない。


 「おっと!」

 「あ、ごめんなさい」


 王都に向かうおじさんに、リーフはぶつかった。


 「すみません」


 チェチーリアも頭を下げる。


 「いやいや、大丈夫だよ。気を付けてお帰りよ」


 リーフはおじさんの言葉に、元気よく頷き小さく手を振った。

 その時だった! ゴーッと言う音が聞こえ振り向くと、大きな火の玉がリーフ達目掛けて飛んできていた!


 チェチーリアは、咄嗟に水の術を使うも粉砕しきれず、火の玉は小さくなったが、そのまま近づいて来る!

 それで今度は、シリルが水の術を使うと何とか消滅した!


 「ひー!」


 先ほどリーフとぶつかったおじさんは、水蒸気の霧で辺りが見えない中、一目散に王都に逃げていった。


 「まさかお前、村に火をつけた奴か!」


 シリルが、睨み付け叫んだ!

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