第22話 あの子と手紙
温かい。
冷えた体に風呂の温かさが染み入る。
「ふぅ」
今日の疲れが、息から抜けていくようだ。
そうやってぼんやり風呂に浸かっていると、どうしても空のことを考えてしまう。それと僕が彼女に向けているこの気持ちのことを。
これはきっとひよこの刷り込みのように、感謝の気持ちを自身の好意にすり替えてしまったひどく愚かしいものだ。
だが、どうにもそれと分かっていても、体の生理的な変化が止められなくて、それが苦しいのだ。
ただ、それだけだ。
風呂から上がって、自分の部屋に戻る。
今日は疲れた。ぐっすり眠れそうだ。
長いこと風呂に浸かっていたようで、明るかったはずの場所もすっかり暗くなっている。
こういうときに電気をつけずに部屋まで戻ると、なんだか部屋に入った時に安心感に満たされるので、ついつい電気をつけないで歩いてしまう。
なんでだろうな、怖いもの見たさと言うか、そんなことかもしれない。
そうして、自分の部屋の前にたどり着いた。もうすぐ眠りにつける。ベットに倒れ込もうと、ドアを開けた。
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
『これは夢だ。』『これは夢だ。』『これは夢だ。』
そう書かれた紙が、壁一面に貼りつけられていた。
「ぎゃあああああーーーーーーー!」
恐怖のあまり、叫び声あげてしまう。
僕はこれが、現実だと思いたくなかった。
これは現実じゃない、現実じゃない、現実じゃない、現実じゃない。
そうだ、夢だ、夢だ、夢だ、夢だ。
だがそう唱えるたび、今度は頭痛が僕を襲ってきた。
「痛ったたたたた!」
うずくまって頭痛に耐えていると、頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。
僕が本当はどこの誰で、どんな性格をしているか、どんな友人が居るのか、ここ最近何に夢中になっていたか、そして、夢で何をしようとしていたのか。
そんな情報が頭中を駆け巡る。
そして、痛みが引いてきた辺りで、すべてを思い出した。僕が何のためにここにいて、そしてここで何をすべきかを。
この場所であっているのかは分からない。
けれど、妙な確信があった。
僕は夜道を紅葉秋の家に向けて走っている。
紅葉秋と最後に話した公園を通り過ぎた。
もうすぐだ。
もうすぐ会える。
本当はずっとできっこないって思ってた。
でも願うのはやめられなくて、前も見えずにずっとあがいてた。
それが、今実を結ぶ。
全然王道じゃなくて、邪道も邪道だっだけど。
それでもたどり着けた。
彼女の家が見える。
もうすぐ答えが分かる。
そのことが少し怖くもある。
けれど全身を巡る血がそんな考えを吹き飛ばしてしまった。
インターホンを鳴らした。
息を整えながら彼女を待つ。
ひどく長く感じられた時間の後、
「こんな時間に、どなたですか?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
僕はドアが開く前にはもう声を出していた。
「君に現実で会いたい!」
そう思いっきり叫ぶ。
そして、ドアが開き現れた彼女に向かってもう一度叫んだ。
「夢じゃない世界で、君と一度でいいから会ってみたいんだ!」
彼女は驚いたような顔をしてこちらを見ている。
僕が3回目の叫びを上げようとしたそのとき、
世界が割れた。
待ってくれ。
まだ何もつかんでない。
まだ何も分かってないんだ。
このままじゃ終われない。
終わるわけにはいかない。
心の中で叫んだその言葉は形にはならなかった。
外はまだ薄暗い。
布団にうつ伏せになった状態で、僕は目を覚ました。
失敗した。失敗した。失敗した。
もう彼女には会えないかもしれない。
そのことへの後悔の念が胸のところにわだかまってる。
枕に埋めた目元から涙がこぼれてしまいそうだ。
思わず手を握りしめた。
そのとき、手に感触がした。
ペンを握っている感触がする。
ハッとして、顔をあげて確認してみる。
『これは夢だ』と書かれた紙が大量に周りに散らばっている。
その中にあって、一つだけ違う言葉、しかも全く別の筆跡でかかれた紙があった。
『今日の夜、1時にこの場所に来てください。』
そこにあったのは、その言葉と共に住所が書かれた紙だった。
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