そして、また繰り返す
第18話 後輩と目覚まし時計
「ドラゴンジュニアだぞ、がおー」
目覚まし時計が話しかけてくる。こいつは後輩からもらったもので、なんとなく愛用して使っているのだが、結構うるさいのが難点のような気もする。
基本的には生意気なドラゴンの子供をイメージさせる言葉を発している。だが、見た目は完全にタツノオトシゴだ。
僕にはそれがみにくいアヒルの子の逆バージョンみたいに思えて内心、ちょっとかわいそうだなと思ってる。
それがうるさくてもあんまりイライラしない理由かもしれない。
それでも、長く聞いていると嫌になってくる。
「分かった。起きますよ」
そう言って起き上がる。
部屋の中が薄暗くて、気分が落ち込みそうになる。部屋を明るくしようとカーテンを開けると、しとしとと雨が降っているのが見えた。
余計に憂鬱になってしまう。
「今度からは自分で起きるんだぞ、がおー」
そう言って止まるこの目覚まし時計を見て、やっぱり少し愛嬌があるなと思った。
僕の通っている高校は、山の上にある。
山の上と言っても、ちょっと高い丘というかそんなぐらいである。
ただ、ブロック塀に囲まれた山肌を横目にしながら、つづら折りの坂道を登っていると、なんでこんな高校を選んでしまったのかと軽く後悔してしまいそうになる。
特に今日のような雨の日はなおさらだ。
足元を坂の上から流れてくる水流に取られそうになるし、斜面を歩くとどうしても傘が揺れて、それにより体がはみ出してしまって、色んな所が濡れる。
近いからという理由で選ぶのは早計だったかもしれない。
そう言っても、他の高校は通学に1時間以上かかる。1時間以上かけて公共交通機関を乗り継いで学校に通う生活も、それはそれで後悔していたとも思う。
まあ、後悔先に立たずと言うし、なんとなく生きてきたので、きっとこれからも小さな後悔を繰り返しながら生きていくのだろう。
学校に近づくたび、何かを言い合いながら登校している生徒がだんだんと増えていく。
僕がずっと考え事をしながら歩いているのは、そんな彼らと目を合わせないで済むように、風景に溶け込んでいたいからだ。
明らかに自意識過剰なんだろうが、一人で歩いていると劣等感に苛まれてしまう。
友達がいないことを他人がどう思っているのか、それがとても気になる。
一番つらいのは、他人に友達がいないことを憐れまれることだ、いや、誰もそんなことは思っていないんだろう。僕のことなんてどうでもいいはずだ。でも、そんな考えが頭から離れない。
登校中も、学校で授業を受けているときも、休み時間も、昼食を食べているときもそれは変わらない。
僕はずっと自意識過剰だ。ずっとそんなことで身勝手に苦しんでいる。
ただ、そんな友達がいない僕にも唯一学校で話せる相手がいる。
そいつと今日は放課後どんなことを話そうか、とかそんなことを考えると、暗かった気持ちが少しだけ明るくなっていくような気がした。
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