幕間「それぞれのお話」
Side 銀条院 ユカリ
これは銀条院 ユカリと異世界のヒーロー、変身ヒロインとのそれぞれのお話。
そして最後の日常。
聖ヒメノ学園での特訓が終わり、少しばかりの時間ができた――
=天野 猛のばあい=
猛はとても明るい。
だが時折影を感じる時がある。
楠木 達也にイジメの過去があったように、彼にも何かしらの辛い過去があったように考えるの自然だがそれを追求しようとは思わなかった。
「猛さんは恐くないなんですか?」
「なにが?」
聖ヒメノ学園の休憩スペースで休んでジュースを飲んでいる。
遠巻きに眺められているがもう仕方のないことだと割り切った。
「うん。恐いよ。だけど戦わないと誰かが傷つくから」
「・・・・・・例え相手が神でも?」
「そうだよ。信じられないかもしれないけど、一度神と戦った事があるからかもだけど恐い物は恐い。だけど自分のせいで誰かが傷つくことなんてことになったらもっと恐い」
「・・・・・・でも」
猛は優しい笑みを浮かべた。
「銀条院さんは優しいんだね」
「え?」
「言われた事があるんだ。それは病気じゃないのかって――いわゆるヒーロー症候群的な」
「それは――」
「どんなに強くなっても手の届く範囲は限られている。それが分かっていながら手を伸ばしてしまう。ヒーローになればなるほど辛いことなんだよね」
言わんとしていることはわかる。
それはヒーローになる物なら誰もが直面する壁だから。
「それでも思わずにいられない。あの時もっと強ければ、あの時もっと強い意志を持っていればってね・・・・・・でもヒーローは神様じゃないんだ」
「・・・・・・」
安易に同情してもいいものではないのでユカリは言葉に詰まった。
「でもね、そんな辛い時に支えてくれる人達がいたんだ」
「支えてくれる人?」
「それが答えなんだと思う」
「いるんですか?」
「うん。ヒーロー部の皆、クラスメイト、先生、悪の組織部、演劇部の人達――他のヒーロー達――皆お人好しだから」
それを語る猛はとても照れくさそうだった。
=楠木 達也のばあい=
達也は近くにいたため、話を聞いていたいのかユカリが何を尋ねたいのか分かっていたようだ。
「猛君の言う通り、恐いと思ったことがある。どうして自分なんかがと思ったこともある。それでゴーサイバーになって初出動後は暫く戦力外通告されて引き籠もり続けてたからね」
「引き籠もり――ですか?」
「幻滅した?」
と、苦笑いしてくる。
「ええと、私もクソ雑魚ヒロインどうとか言われてますし」
「猛君も言ってたけど優しいんだね銀条院さんは」
「ええと――」
猛の時もそうだがそうやって歳の近い現役ヒーローに褒められるとドキッとしてしまう。
「猛君の世界では現れてないみたいだけど僕の世界ではジェノサイザーなんて言う恐ろしい奴が現れてね――同じゴーサイバーで、クラスメイトの人達が捕まったりして、助け出すのがとても恐かったよ」
「やはり恐かったんですか?」
「そりゃ恐かった。ジェノサイザーはヒーローキラーとして恐れられる存在で、僕が戦ったのはプロトタイプの改良型だったけど、実際その二つ名に似合うぐらいの強さだったよ」
「でも、勝ったんですよね」
「ああ勝った。だけど立ち向かおうと思ったのは――皆がいてくれたから。僕は人生って奴に、人間って奴に絶望していたけど、けどヒーローになって、再び希望が持てるようにしてくれたのも人だった」
「単純ながら深いですね」
「そうかな? 特に嬉しかったのが出動不能の僕を受け入れてくれた時や、学校が襲撃された時に無謀にも一緒に戦ってくれたことかな」
「え? 楠木さんの学校でヒーロー学校なんですか?」
「いや、普通の学校だよ」
驚きの過去だ。
上手く言葉が出ない。
「なんの力も持ってないのに、みんなそれぞれが出来る範囲で勇気を振り絞ってリユニオンに立ち向かってくれた。不謹慎かも知れないけどそれがとても嬉しかった。浩君なんかバイクで怪人に――以前この学園に現れたキラーエッジに突っ込んだりして凄かったんだよ? まああの後色んな人にメチャクチャ怒られたみたいだけど」
と、嬉しそうに語る。
それを見てユカリは微笑を浮かべながら思った。
ああ、勝てないなと。
実力的な部分じゃない。
根っこの何かの――根本的な部分で負けてるように思えた。
それを伝えてもたぶん優しく諭されそうになって、その時のことを思うと気が変になりそうなので黙っておいた。
猛もそうだがたぶんこの人は元の世界では女子にもてるんだろうなと思った。
ふと思い出す。
相笠 マリ。
藤堂 アスカ。
佐久間 レイカ。
関係は様々だが大切な人達だ。
=水樹 綾香のばあい=
学園の生徒達から揉みくちゃにされて質問攻めにされていた水樹 綾香がやってきた。
それにしても――中学生とは思えない体のスタイルだ。
これで高校生になったらどうなるのかと戦々恐々してしまう。
「皆さん熱心ですね。ヒーローについてあれこれ聞いてきます」
「い、いえ、普段はあんな感じじゃないんですけど」
普段はヒーローなんて芸能活動の延長線上だった子達だったのだ。
それがこんな危機的状況になって、修羅場を経験して、本物のヒーローに触れてなんか目覚めちゃったのだろうとユカリは思う。
「だけど私はあまりヒーローについて語れるような人じゃありません。私をヒーローにしてくれたのは光志郎さんでした」
「光志郎さん?」
「私の大切な人です」
ヒーローにしてくれた大切な人。
どんな人なんだろうかと思う。
「私はただプラントと差し違えてでも倒すことしか考えていませんでした。だけどそんな生き方を変えてくれたのが光志郎さんでした」
「そうなんですか・・・・・・」
「彼自身もパワードスーツを身に纏って戦う時がありますけども、何というかその、傍にいて、色んな物語のヒーローの話を聞いて、それだけでも十分助けになってます」
顔を真っ赤にして語る綾香を見て思った。
(この子とても良い子ですわ!!)
尊いとかそんな感情が沸き上がる。
それと眩しい。
不謹慎だが中学生で現役ヒーローの甘酸っぱい恋話などレア中のレアだ。
正直妹に欲しい。
もしも元の世界に帰れなかったらメイドとして雇おうなどと考えてしまった。
「どうしたんですか?」
「い、いえ、なにも!! 恋愛成就、心の底より願ってます!!」
「はい。ありがとうございます!!」
照れくさそうな笑みを向けられてユカリは尊死した。
=デューネ・マリセイドのばあい=
「たく――そんなに私達の事が珍しいのか?」
「あ、デューネさん」
綾香と離れたタイミングで都合良く青い髪の少女デューネと二人きりになった。
「それで私になにかようか?」
「いえ、ただ――ヒーローについてあれこれと」
「皆同じ事を聞くな――適当にはぐらかしたが、まあ銀条院さんの場合は構わないか」
「は、はあ」
それよりもデューネの後ろの背後の目線が気になるがあえて指摘しないでおこうなどとユカリは思った。
「まあ今更だが私は宇宙人だ。故郷の星を滅ぼされて、宇宙刑事になって、地球に赴任した時は最初、ハズレを引いたと思った――あの浦方と言う男には話したが、環境汚染が酷いし、宇宙レベルで言えば精神的な面で抱えてるし――気が進まなかった」
「そうなんですか・・・・・・」
耳が痛い話だと思った。
同時に宇宙スケールだとやはり地球はそうなるのかとも納得してしまう。
「だが住めば都と言うのだろうか――悪いことばかりではなかった」
「そうなんですか?」
「最初は復讐のターゲットが地球を狙っていたし、我慢してやるかぐらいの気持ちだったが――確かに地球は沢山の問題を抱えている。だが幾ら地球の悪いところを並べても、お節介な人間がちらついてなぁ・・・・・・」
そう言ってデューネは照れくさそうに言う。
「宇宙刑事になる前は基本一匹狼だったが、何故だか今は人が多くなってな。そう悪い星でもないんじゃないかなと思うようになった」
「人徳と言う奴ですわね」
「人徳か・・・・・・そう言うのとは無縁だと思ってたんだがな――銀条院さんも嬉しそうな顔をするんだな」
「ふふふ、どうしてでしょうね」
本当に嬉しくなってしまう。
デューネはデューネなりに不器用ながら歩み寄ろうと頑張っているのだろう。
それが何故だかとても可愛いと思ってしまった。
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