【MrRオールスター作品】変身ヒロインだらけ世界の来訪者
MrR
プロローグ
銀条院家のご令嬢、銀条院 ユカリ。
フワフワした長い紫の髪の毛。
女子高生にも関わらず歳不相応に大人びた顔立ちに態度。
体もグラマラスで十代半ば特有の細さを残している美少女。
成績もスポーツも出来る。
そして家の財力もある。
相手を選ぶ殿方もセレブから選ばれる。
まさに人生勝ち組のお嬢様。
そんな完璧とも思われる彼女にはある欠点と呼べる要素があった。
「ふふふ、今日も現れましたわね。怪人さん」
今の彼女の衣装は青いバイザーにアンテナが付いた白いヘッドセット。
銀色の豊満な乳房の下半級を覆い隠すような胸当て。
その下には短い袖でハイネックの白いレオタード型スーツを身に纏い、腰から下は紫のスカートで覆われている。
肩には銀のショルダーアーマー、腕はガントレット(手甲)。
ややボリュームがある足は白のニーハイブーツで覆われていた。
手にはファンタジーRPGに出て来そうな強そうな剣を持っている。
ヒーローネーム「シルヴァーセイザ―」。
銀条院 ユカリのもう一つの姿だ。
眼前には逃げ惑う人々。
そして車を投げ飛ばし、見付けた物は手当たり次第に破壊する異形の生命体、通称「怪人」がいる。
今回は身の桁3mの漆黒の牛の怪人らしい。
彼女は――普段の人々を見下したような態度から想像も付かないような人命救助活動に従事していた。
時には怪人が投げ飛ばした車から一般人を守るため受け止めたり。
時には殴られそうになった一般市民を突き飛ばして変わりに殴り飛ばされて適当なビルの窓を突き破って部屋で痛い体を引き起こして救助活動に復帰したり。
時には危ない目に遭っている警察官の身代わりとなって掴まれて、何度も何度もアスファルトの地面に叩き付けられてまた放り投げられたり。
そうこうしているウチにヒロイン達が現れる。
様々な格好をしていた。
露出度高めのヒラヒラした肉弾戦系マジカル戦士的な格好。
戦隊系スーツ。
メタルヒーロー系達だ。
全員格好良く立ち回り、必殺技を披露して戦っていた。
シルヴァーセイザーはボロボロになった体を引き摺りながらどうにか怪人が人間に戻る現象、「浄化」を見届ける。
変身ヒロイン化現象も怪人化現象も謎が多いが、怪人は一定のダメージを与えると意識を失って人間に戻るらしい。
つまり通常兵器でも元に戻す事は可能なのだが変身ヒロイン抜きでやるには戦車や戦闘ヘリを持ち出しても難しいのだ。
日本の場合は法律の関係で不可能である。
なので変身ヒロイン達の出番と言うワケだ。
ちなみに男のヒーローはいない。
何故か女性がヒーローしか・・・・・・つまり変身ヒロインしかいない。
頭の悪いラノベみたいな話だがこれがこの世界の常識なのだ。
銀条院 ユカリはその変身ヒロインの一人だった。
☆
家に戻り、痛む体を引き摺りながら――普通の人間ならミンチコース確定のダメージを負い、バスローブ姿で綺麗な肢体を披露しつつベッドに寝転がる。手にはタブレットPCを持っていた。
傍には黒髪ボブカットの少女メイド「相笠 マリ」が「お疲れ様です、お嬢様」とニコッと笑みを浮かべて出迎えてくれた。
「何を観ているんですかお嬢様?」
「私の評判」
「あまり見ない方がいいんじゃないですか?」
「でも気になるんですもの」
と、言葉のやり取りをしつつ大きなソファーに座りながらテレビをつけた。
この時間帯で見る番組は何時も決まっている。
『さて今週も様々な変身ヒロインの活躍がありました!! 何と言ってもシャイニーフェザーがトップですね!!』
と、女性ニュースキャスターが元気よく変身ヒロイン達の活躍を伝える。
(まるで戦いがショーの様に扱われてますわね)
自分達は命を賭けた戦いをしていると言うのにまるでショーの様に扱われていた。
テレビでは今日の変身ヒロイン達の活躍が報告されている。
また新たにデビューした変身ヒロインなどだ。
そして戦う変身ヒロイン達もまるでゲームかスポーツ感覚、芸能活動の一環レベルで戦っている。
本気で世のため、市民のため、人のために戦っている変身ヒロインはどれぐらいいるのだろうか。
最初の頃はそう言う気持ちで励むヒロインは多いが、やがて変身ヒロインの世界に馴れ始めてくるとそう言う気持ちで振る舞うヒロインが殆どだ。
地域によってはクラスカーストみたいな制度もある。
女性のカーストは同性のユカリから見ても陰湿な物であり、身を持って体験した事があり、今も続いている。
ユカリの場合はネットは戦闘中の写真付きでクソ雑魚ヒロインと言う肩書きを付けられてSNSにUPされた。
擁護する声も多かったが何度も何度もしつこいぐらいにヤラレシーンのみばかりをUPしてそう印象づけようとする。
嘘を何度も付けば真実となる。何処ぞの独裁国家の手口だ。
やがて段々とシルヴァー・セイザ―は人助けでしか役に立てないヒロインと言う世間的に有名なヒロインになった。
これをどう解釈するかは人によってそれぞれだろうが「変身ヒロインの意味がない。力があるだけのコスプレ女」みたいに言われる事も大くなってきていた。
『最近シルヴァーセイザ―も話題になってますね』
ふとテレビのニュースキャスターはユカリの事の話題になる。
ユカリはピクッとなった。
『世間では戦闘に役に立たないから人助けしかしないと風当たりが強いようですね』
ユカリは頭の血管が切れる音とともにテレビのチャンネルを消してベッドにダイブし、枕で顔面を覆いシクシクと泣き始めた。
「お、お嬢様?」
毎度の事だが慣れないメイドのマリはユカリにおそるおそる声を掛ける。
「そりゃ私だって本当は華々しく強くて格好いい、世間的にも認められたヒロインになりたいわよ! でも私には私の理想の変身ヒロイン像って奴があるのよ!」
そんな時にコールサインが響き渡る。
政府関係機関からのヒーローコールだ。
今は夜中で良い子はそろそろ寝る時間。
出動する変身ヒロインのの数は少ない。
だって変身ヒロインだって人間である。しんどい時は休みたいのだ。
連日連夜真面目に出動する生真面目なヒロインなど極少数。
それこそどっかの企業とかと契約を交わしているプロのヒロインか、公務員としての役職を兼任しているヒロインぐらいだ。
銀条院 ユカリは公務員と契約を交わして活動しているヒロインであり、こうして夜中にコールサインが入るのである。
銀条院 ユカリは特にそれを苦も無く「最近多いですわね」とぼやいてからメイドに見送られて出動した。
(どうしてお嬢様みたいな人が報われないんでしょうか・・・・・・)
メイドのマリは思う。
どうして彼女のような、真摯にヒーローとして活動している人が報われないのかと。
そりゃ努力すれば報われるとは限らない。
どんな分野だってそうだ。
だが流石に今の変身ヒロイン社会には思う所が多かった。
それ程までに歪んでいた。
しかし自分はメイド。
出来る事は仕えるお嬢様の無事を祈るだけだった。
☆
(何ですかこれは――)
銀条院 ユカリことシルヴァー・セイザ―が現地に辿り着くとそこは地獄だった。
ビル群が建ち並ぶ夜の交差点。
自分よりも実力が上であろう変身ヒロイン達が地に倒れ伏している。
敵は怪人。
それも複数。
怪人が複数隊出現する報告は聞いた事はあるが十体以上は聞いた事がない。
しかも漆黒のシルエットではない。
大体怪人は漆黒のシルエットを纏っているのだ。
『凄いなこいつの力は!!』
『この力さえあれば女どもなんか楽勝だぜ!!』
などと口々に言いながら暴れ放題だ。
男であるらしいがユカリが衝撃を受けたのは言葉を喋ると言う事だ。
怪人は言葉を喋らない。
精々、野獣のような雄叫びをあげるぐらいだ。
(とにかく助けないと――)
そう言ってシルヴァーセイザ―怪人にボコボコにされているヒロインの一人を助けるべく、蹴り飛ばす。
確かに手応えはあったが、相手は道路を滑るだけで「いてぇーじゃねーか」と返すだけだった。
変身ヒロインによって能力差はあるが――ある程度加減した蹴りとは言え、大男程度なら一撃でKO出来るぐらいの威力だ。
にも関わらず効いている様子は無い。
「大丈夫ですか!?」
「シルヴァーセイザ―か・・・・・・逃げろ・・・・・・君じゃ勝てない」
「ですが――」
「アレは普通の怪人じゃ無い・・・・・・この事を伝えるんだ・・・・・・」
「いやです!!」
アレが今迄の怪人とは違うのはユカリも分かる。
だがこの場に駆け付けた人間を見捨てて逃げると言うのはイヤだった。
「どうしてだ――君は――ずっと世間から――私達からも――」
「馬鹿にされてるのは知ってます!!」
変身ヒロインの疑問に答えた上で尚手に持った刃を向ける。
「だけどここで見捨てたら――私はもう変身ヒロインを名乗る事が出来なくなる!! 例え同じ変身ヒロインだとしても!!」
「何故そこまで――」
大見得切ったがそれでも恐くて体の震えが止まらない。
何しろ戦いの現場に駆け付けても人助けしてばっかで何時の間にか戦いが終わってたから帰る――と言う風に敵と戦った事が無いからだ。
一応戦闘訓練は積んでるが何処まで言っても訓練は訓練。
それに誰かを守りながらこうして一対多数の敵と戦う訓練なんて積んでいない。
(だけどそれがどうしたと言うの!!)
相手は「泣かせるねぇ」とゲラゲラ笑っている。
敵のデザインも想像だがカメ、象、牛、サボテン、カマキリ、イカ、装甲車、戦車、戦闘ヘリ、機関車とバリエーションに富んでいた。
『噂のクソ雑魚ヒロインとちぃーと遊んでやろうか』
そしてカマキリの怪人がやって来た。
背中を羽ばたかせ、両腕から伸び出るカマで切り裂こうと迫り来る。
(思った以上に敵の速度が速い!! それに一撃一撃が想像以上に重い!)
「どうしたどうした!?」
まるでいたぶるようなラッシュ。
コスチュームにドンドン切れ目が――彼方此方に切り傷が出来始める。
防戦一方だった。
『これでしまいだ!』
(いま!!)
相手の大振りの一撃を見計らったようにシルヴァーセイザ―は手に持った剣で胴体を一閃する。
カマキリの怪人は火花を散らして吹き飛んだ。
怪人の仲間達は笑って『ダサイな』とか『クソ雑魚ヒロイン相手に何やってんだ』と笑われていた。
カマキリ怪人は「ちょっと油断しただけだ!!」と返していた。
『あんまり遊んでいると怒られるから手早くいこう。コイツをこれ以上酷い目に晒されたくなかったら大人しく言う事を聞け』
「ッ!?」
装甲車の怪人が倒れていた変身ヒロインの頭部を鷲掴みにして持ち上げる。
そして他の怪人がサンドバッグのようにゲラゲラと笑いながら変身ヒロイン達は叩き始めた。
変身ヒロインが苦悶の声を挙げる。
体のくの字に曲がり、口から唾液交じりに血反吐が飛び散る。
『ほらほらどうした!? 俺達に頭を下げろ!? 何でも言う事を聞きますって!!』
「それは」
『見捨てるのか!? 正義のヒロインなんだろ!?』
「ッ――」
それを聞いて選択は一つしか無い事を悟った。
『何でも――何でも言う事を聞きます!! だからこれ以上は酷い事をしないでください!!』
そう言って悔し涙に溢れさせながら剣を降ろして頭を下げた。
それを見て怪人達は歓喜の声を挙げ、切り傷だらけのユカリの体へ殴る蹴るの暴行を始めた。
痛くて苦しい。
そして悔しかった。
何も出来ない自分が。
力のない自分が。
こんな不条理を覆るヒロインになりたかった。
だけど自分ではどうする事も出来ない。
誰か。
誰か。
――その声は届けられました。
☆
様々な世界。
求めの声。
救いを求める声に応じたヒーロー、変身ヒロイン達がいた。
その助けの声を聞いて――ヒーロー達は決断した。
「ここはいったい?」
青い大きなスクーターらしき乗り物と一緒にその少年は現れた。
青い学生服。
華奢な体付き。
まだ中学生ぐらいの金髪の可愛らしい小動物系の少年は当たりを見回し――何となく事態を把握したらしく、大分昔に流行った特撮ヒーローのように変身ベルトを巻き付けた。
『な、何が起きたかと思えば子供じゃねえか? それに今時変身ベルトとかダサイ――』
「変身」
金髪の少年は姿を変えた。
全身青一色。
緑のバイザー。
胸の黄色い球体。
腹部の変身ベルト。
シンプルな造形の、黒いアンダースーツの上から装甲を取り付けた様なメタルヒーロー。
少年――天野 猛が元居た世界でレヴァイザーと呼ばれる青き戦士に。
それがユカリと他の世界のヒーローとの出会いであった。
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