朝宵の鳥
夏野レイジ
朝宵の鳥
午前四時の町に、鳥が鳴いていた。
くぇー、くぇー。
間抜けな声だな、と僕は散歩しながら思った。
ちょっと前まで雨が降っていたのか、空気はしっとりと肌に貼りつくように湿り、冷たい。
くぇー、くぇー。
また聞こえた。
でも、田舎町の点々とした街灯ではその姿を見つけ出すこともできない。
鳥は何を想って鳴いているのだろうか。
雲の向こうにあるはずの空か、この町に黒羽色の空気か、寝静まっている同族か。
わからない。
ただ、何度も、何度も声を出しつづける。
それ以外の音はない。
寝る前にはうるさかった虫やカエルも、雫を落としていたはずの空も、一羽が奏でる不思議な旋律に耳を澄ましていた。
やがて、音が止まる。
どこから羽ばたきが聞こえる。
音を頼りに周囲を見回すと、一羽の大きな影が見えた。
くぇー、くぇー。
ばさり、ばさりと力強い羽ばたきとともに西の空に飛んでいく。
僕はその姿をただ呆然と見ていた。
いったいあれは何だったんだろうか。
朝、宵に鳴いた鳥の記憶。
ただ、それだけなのに僕の頭には妙に間抜けな声が残る。
……気にしても仕方ないか。
早朝の町はいつのまにか、どこに隠れていたのかもわからない虫と虫の鳴き声にあふれ出す。
朝はもう、すぐそこまで迫っていた。
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