6:高校一年<17歳> リレー
期末テストの結果は上々だった。
私は初日の動揺があったものの点数をそれほど落とすことなく、四位と掲示されていた。そしてナナはなんと二十八位だった。持ち物検査のおかげで不正をすることなく二十八位になれたことが証明されたのだ。
疑う人がいなくなったわけではないだろうが、それでも面と向かって疑念を掛けることはできなくなるだろう。
満足のいく結果が出たがテストはこれで終わりではない。だからナナとの勉強会はそれ以降も続いた。夏休み中も、週一回程度、宿題をこなしがてらの勉強会を開催した。
夏休みが明けたある日の放課後の勉強会。私は新たに勃発した問題についてナナに尋ねていた。
「で、ナナは去年どうしてたの?」
「あー、病欠? 最初から病欠の予定だったし」
「ナナは予定を立てて病気になるの?」
大方の予想はついていたがやはり欠席していたようだ。
その日のHRで体育大会の出場種目が決められた。特別な事情のない限りは、ひとり一種目以上出場することが決められている。
出場したい種目の希望を募り、人数が多い場合はじゃんけんで決めていく。みんな苦手な種目には出たくないため、積極的にHRに参加して順調に出場種目が決まっていった。
ナナはこともあろうにクラス委員の私が司会進行を務めるHRで爆睡していたた。そのため不人気上位に挙げられる女子リレーの選手に選ばれてしまったのだ。しかもアンカーを押し付けられていた。
「ナナは足速いの?」
「んー、まあまあかな。アタシ、喧嘩は強くないからいざとなったら逃げなきゃいけないだろ?」
ナナはどこか自慢気に言う。
「リレーの選手なんだから、当日病欠なんてしないでよ」
「いや、病気はいつなるかわからないからな」
そっぽを向いて言うナナに私は笑顔を浮かべて言う。
「知ってると思うけど、私、クラス委員なの。ナナがずる休みしたら、その分私の仕事が増えるのね。まさか私に迷惑を掛けるって分かってて、休んだりしないよね?」
ナナが少し顔を引きつらせて私を見た。
「体育祭、ちゃんと出てきて、リレーを走ってくれるよね?」
「あ、うん」
「約束ね」
「……わかった」
そんなやり取りを経た体育祭の当日。約束通りナナはちゃんと登校してきた。少し遅刻したがリレーは終盤なので問題ない。
「時間まで昼寝してるから……」
ナナは私の横を通り過ぎながら小さな声で言った。どうもナナは学校では私と話をしたがらない。
「ちゃんと時間までに戻ってきてよ」
私が言うとナナは小さく右手を挙げた。
だがリレーの時間が迫ってもナナはなかなか姿を現さない。ヤキモキしていると、間もなく集合がかかるという時間になってナナがのっそりと現れた。クラスメートの目にも落胆の色が浮かんでいる。みんなナナには期待していないのだろう。
だから私はナナに言う。
「ナナ、絶対勝ってね」
「お、おう」
リレーは五人でバトンをつなぐ。一人百メートルだがアンカーだけは二百メートル走る。自称俊足のナナが本当にどれくらいの足の速さなのか私は知らない。けれど私はなぜかナナに期待していた。
いや私だけはナナに期待したかった。
スタートが切られ各組の第一走者が走り出す。私たちのクラスは七チーム中四位だ。第二走者が一人抜き三位になった。第三走者は三位のままバトンをつなぎ第四走者で二位に追いついたが、一位から四位まではほとんど差のない団子状態だった。
ナナが最後のバトンを受け取る。最初の五十メートルで四位になってしまう。一位は少しリードをしていたが二位から四位のナナまでは差などない。百メートルに達するときには二人を抜きナナは二位に上がった。
まったく期待を寄せていなかったはずのクラスメートたちから声援の声が飛ぶ。その声が届いているのか分からないがナナはグングンとスピードを上げていく。
私は息をのみ、手を組んで祈るような気持ちでナナの走りを見つめた。
ジワリジワリと一位との差を詰め、一位との距離と反比例するようにクラスメートたちの声が大きくなっていった。
そしてゴール直前で一位に躍り出て、そのままゴールテープを切った。
その瞬間、ナナはクラスの厄介者からヒーローに変わった。
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