星と風と翼と愛と、秋と真
猫柳蝉丸
第1話「IN MY DREAM」
親父が再婚した。
母さんと離婚して約二年、親父は何時の間にか新しい母さんを見つけていた。
それは問題じゃない。
問題なのは、新しい母さんに三人の連れ子がいたという事だ。
連れ子が三人いて、その三人が三人とも……。
だから、どうしてこんな事になってしまったのだろうと、俺は頭を抱える。
嘆息し、震える身体を押し留める。
俺が悪いわけではない。誰が悪いわけでもない。
それでも俺は非常に面倒な状況に陥ってしまっているのだ。
神がこの世界に存在するとして、その神はどうも俺に試練ばかり与えてくれるらしい。
朝に目覚めて、パジャマのままで悩む事ではないと分かってはいるが、俺にとって悩める時間が朝にしかないというのも確かではある。どうするべきなのか……、どのように行動するべきなのか……、結局答えは出ないまま、時間切れとなってしまったようだった。
唐突に煩い足音が俺の自室に近付いて来ていた。
朝から騒々しいのでやめて欲しいが、彼女らは俺のその言葉を意に介しもしなかった。
勘弁してくれ……。
「てっちゃん、おはよう」
「兄さん、おはようございます」
「お兄ちゃん、おはよー!」
ノックもなしに俺の部屋の扉を開いて、三姉妹が楽しそうに入ってきた。
何故か三人とも下着姿だが、それは気にしてはならない。
女兄弟というものは、意外と男兄弟の前では羞恥という言葉を知らない。下着だろうとお構いなしだし、酷い時など全裸で家の中を走り回る。女だけの家族だったから、皆恥じらいってものがなくて……、と彼女らの母親、つまり俺の新しい母さんに聞いた。かく言う新しい母さんも、娘たちと同じ様に朝は下着姿でドタバタしていたりするのだが。つまり、結局は親子なのだという事らしい。
しかし、毎朝毎朝下着姿で騒々しいな、君らは。
それを俺が指摘してやると、三姉妹は晴れやかに笑った。
「別にいいじゃないのよ。あ、それとも照れてるのかい? このスケベ義弟」
まず言ったのは、長女の秋子さん。
俺の義理の姉にあたる人である。
一応、姉貴と俺は呼んでいる。
この人はかなり危ない人なのだろうと俺は睨んでいる。
義理の姉弟になってそう時間は経っていないのだが、姉貴は本当に恐ろしい人だ。
外見は一見普通ではある。髪型は今時少し古臭い茶髪のストレート。背は俺より少し低いくらいで、スタイルも恐らくは標準だろう。ただ化粧が少し濃いようで、香水の匂いが俺の鼻腔をよく擽る。そして、残念ながらその香水の香りは俺の趣味からは程遠い。これだけであればまだ普通の女子高生と言えるだろうが、勿論姉貴はそんな普通の女子高生という言葉で納まる様な人ではないのだった。
まあ、それはそのうち、語る時もあるだろう
「あはっ、大丈夫だって。真美たち兄妹なんだからこれくらい普通だって」
次に無邪気に笑ったのが、三女の真美。俺の妹二号。力の二号だ。
この子は何故かとても幼い。
中学生でありながらツインテールの髪型をしており、身長も女子小学生の平均身長を下りかねないほどなのだ。勿論、一人称が自分の名前というところもかなり幼いと思うが、それ以上に幼いのはこの子の兄、つまり俺への密着度だ。義理の家族になって以来、この子は何故か毎晩俺に添い寝を欲求してくる。断れば泣かれてしまう事も多々あった。
そう。まるで十歳前後の子供を相手にしている気がするほどに、この子はひどく幼い。
断り切れなくて結局添い寝をしてしまう俺も俺で情けなくはあるが……。
「兄さんになら、何をされても構いませんけど?」
最後に真顔でそんな言葉を言ったのが、次女のさとみである。妹一号。技の一号だ。
いや、妹一号とは述べたが、実はさとみの年齢は俺と同じだ。ただ一日遅れでさとみの方が俺より下であるために、彼女は俺の妹として振舞う事を選択した。同い年なのだから兄妹も何もないと俺は言ったのだが、何故か彼女は兄妹と言う関係にこだわった。
外見的には眼鏡を掛けていて、髪型が三つ編みと地味な女の子なので一番普通に見えるが、実はさとみが一番危ない、と姉貴に忠告された。姉貴自身が危ない人なので信憑性はないが、とにかくさとみはかなり危ない子らしい。俺としては彼女に対してまだそんな自覚はないのだが、いつかさとみの危なさを知る事もあるかもしれない。
まあ、ともかく、かくも恐ろしい子達が、俺の新しい家族だというわけだ。
しかも、それだけではない。それだけで俺の悩みは絶えることがない。
俺にはまだまだ敵がいる。俺の周囲は敵だらけ。四面楚歌、孤立無援だ。
「さ、すぐにてっちゃんも着替えて。何なら姉貴様が着替えさせてあげようか?」
「断るよ」
「そうよね。真美に着替えさせて欲しいんだよね、お兄ちゃん?」
「否」
「二人とも何を言っているんです。兄さんの面倒は私が見るんですから」
親父が再婚して三ヶ月、最近の俺の朝はこうして始まる。
……勘弁してくれよ、と俺は小さく苦笑した。
俺はもっと普通に過ごしたかったし、義理の姉妹との恋愛とかいう昔懐かしい展開は望んでいないのだ。大体にしてそんな展開を望んでいる奴は女の事を知らない奴か、妄想の中だけで生きている様な奴らだろう。現実を知らないだけだ、過去の俺みたいに。
更に言わせて貰えば、この義理の姉妹にしたって俺との恋愛を望んでいるわけではないはずだ。望んでいるのは俺との恋愛などではなく、俺を遊び道具にした生活なのだ。せっかく出来た義理の兄、または義理の弟を面白おかしく扱う事なのだと思う。それがきっと彼女らの望んでいる事だろう。
……そうだ。俺は異性からは好かれない。好かれてはならないし好かれる事もない。そんな行為を俺は過去にしてしまったから……、俺は彼女らの遊び道具でしかなくていいのだと思う。義理の姉妹とは言え、恋愛に陥る事もない。からかわれはするが、基本的には普通の家族として俺達は在る。それに別に俺は義理の姉妹達の事が嫌いなわけじゃない。無闇にくっ付いてくるところや、妙に俺に親しいところは確かに困るけれど、それを除けば彼女らと俺はいい家族になれるはずだと俺は思う。あの春の日から、俺はそう思っている。そう……、思いたい。
だから、俺は彼女らの家族だ。家族であって、異性として好かれる事などは無い。
……その思う方が俺も幾分かは気が楽だから。
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