あの頃の君と、今日の私と―。

第1話『7時の記憶喪失』


2019年、5月20日、新しい自分が生まれた。目を開けると、それは透き通るほど綺麗に、真っ直ぐな道が広がっている。


明るい未来への、希望の道が、開かれた。


実際には1997年、この世界に生まれたんだ。

お母さんがいて、お父さんがいて、妹がいて、友だちがいて、明るい生活を送っていた。


…はずだった。なのに、思い出せないんだ。僕は誰なんだ?名前は?お母さんは?お父さんはどこ?友だちって誰?兄弟がいるの?

「みんな、僕のこと、知っていますか?」


ザワザワ…。『駅前で何?あの人…』『変なやつだなぁ…』

「きみきみ!何やってんの!」「え?ぼ、僕のこと知ってるんですか!?」


「私は警官だよ。ちょっとこっちに来なさい!」「え、警官…?」


交番にて―。



警官「…きみ、名前は?」

「名前?名前…。」警官「…?じゃあ歳は幾つだ?」「んー…。」警官「自分の生年月日、言える?」「1997年、5月20日…」警官「……。このボールペンの芯、出せる?」「………。」


カチッ、


警官「こりゃあ記憶喪失だな…。」警官「駅前にいたけど…、家はどこ?」「わからない…。」警官「じゃあ、駅からどこに行こうとしたんだい?」「…わからない。」警官「何か物、持ってない?何でも良いから、持ってたら見せてくれる?」「ん…と…。あ…!」


カラン!


警官「これは…?鍵だな…。ちょっと借りるね、すぐ返すから。」「はい…。」


警官「はい、ありがとう。じゃあちょっとしばらくそこで休んでていいよ。」


数時間後…。


警官「きみきみ!お母さんが来てくれたよ!」「え?あ、はい!」

お母さん「何してんの光!大丈夫?」「光?これが僕の名前ですか?」


「そうよ!守野 光!私はあんたの母さん、守野 光子!もう~!超心配したのよ!?交番から電話が来たから何だと思って…!」光「光…。守野 光か…。」警官「お母さん、一応、光くんのことを病院で診てもらった方が良いです。どんな記憶喪失かわかるかも知れません。」光子「そうですね…。それでは失礼します、本当にありがとうございました!」警官「はい、お気をつけてー…!」


光子「あー…、日が暮れちゃうわね…」光「…うん…。え?…俺…何してんだ…?」

光子「え?」光「あれ?かーさん?何でここに?俺、友だちと遊ぼうと思って…待ち合わせで駅前にいて…」光子「はぁ?…何?あんた記憶戻ったの!?」光「記憶?何のこと…」光子「なんだー!じゃー大丈夫ね!とりあえず家に帰るわよ!まぁとーさんは黙ってないだろうけど?」


光「ただいま…」妹「兄ちゃん!何してたんだよ!」光「な、なんだ、和泉じゃねーか。お前、早いな。部活上がるの…」

和泉「何いってんの!?もう~!あたし、兄ちゃんが大変だって言うから早く帰ってきて夕飯作ってんのよ!?とりあえず、上がって!お父さん、カンカンだから。覚悟してよね!」光「えぇえー…。俺、なんかしたかな…。」


光「失礼しま~す…。」

父「体調は良さそうだな…。まぁ、座れ。」



父「…俺が誰だか…わかるか…?」光「…え?」父「…いいから、俺の名前を言ってみろ。」光「守野 和広…。え…?な、なんスか?」和広「光、お前、記憶戻ったのか?」光「記憶?…んー…でも、駅前に着いてからは覚えがないなぁ…。」和広「…そうか…。」光「…?え…?何で?」和広「光、病院に行くぞ。頭診てもらいに。」光「え?あ…はい…。」


病院にて―。


医師「ふーん…。」医師「記憶喪失ですね…。かなり珍しいタイプの」光「え?」和広「どういうことですか?」医師「朝、7時から夕方7時までの記憶が亡くなる…。7時記憶喪失というものでしょうかね」光「な…!?」和広「7時記憶喪失?!」

医師「この記憶喪失は、特種で、記憶を失う時間が長くなるかも知れないという病気です。このままでは、過去の記憶も今の記憶も、忘れてしまう事態になりかねません。一刻も早く、治療すべきです。」和広「認知症とは違うのですか!?」医師「………。治る可能性は、薄いでしょう…。」光「そんな…。」

和広「…どんな治療法があるのですか?」医師「一日に7回、新しいことにチャレンジするんです。何でも良いので、やったことがないことをやるんです。」光「…は?」和広「治るんですか?それで…」医師「…わかりません…。…何しろ、古い治療法しか記録されていないので…。」

和広「………どうする。光…。」光「やるよ。俺、治したいし!治したいって思える内に、やった方が良いだろしね!」

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