勇者とおっぱい。
高月麻澄
おっぱいに詰め込まれるは魔力
「グハハハハ! 勇者よ! 防戦一方だなぁ!? 魔王軍四天王の中でも最強と謳われた我にはやはり及ばぬか!」
四ノ国の王城内でのことです。
玉座の間にて、魔王軍四天王の一人、ヨイバヤと世界を救う勇者パーティとの戦いが繰り広げられていました。
牛頭で巨躯のヨイバヤは、その両手に持った大斧を縦横無尽に走らせ、勇者を攻撃していきます。
聖剣の担い手の若き勇者、ルークはその攻撃を聖剣で受け止めたり、受け流したりしかできず、全くヨイバヤに攻撃ができていませんでした。ヨイバヤの攻撃を引き受けつつ、身を守ることに専念しています。
そんな勇者を見て、ヨイバヤは余裕からか笑い声をあげます。
しかし。
「――踊れ! ファイア・エクスプロージョン!!」
「――刻め! エターナル・ウインドブレード!!」
「――貫け! セイントドラゴニック・ランス!!」
勇者の遥か後方、そこに三人の女の子がいました。
三者三様、長い長い詠唱を終え、魔法を発動させた声が同時に響くと、炎が弾け、風が舞い、光迸る槍がヨイバヤを襲いました。
圧倒的な威力のその魔法に、ヨイバヤの身体が崩れ落ち、決定的なその隙に、
「ば、ばかなああぁぁ!! 勇者ではなく、小娘共の魔法如きでええぇぇぇ――」
「――トドメだッ! 喰らえッ!! アルテマ・ホーリーブレード!」
最上段から聖剣を一閃。
凄まじい威力を誇る勇者の一撃により、ヨイバヤは倒されたのでした。
――――――――――――
ヨイバヤに支配されていた四ノ国は、解放されたことに感謝し、ささやかですが祝勝会を開いてくれました。
その宴の席でのことです。
会も終わり際、会場に人の姿はまばらになっていました。
この後の情事に誘うには今がチャンス――そう考え、女の子たちは夜のバルコニーで一人黄昏れていた勇者へと近寄りました。
「やっぱりルークはすごいね!」
そう言って、勇者の右腕に抱き着いたのは、赤髪ポニーテールの女の子、一ノ国の王女、ポイン。そのこぼれんばかりの豊満な胸が勇者の右腕に押し付けられます。もちろんわざとです。当ててます。
「勇者様ー♡ 今日もお疲れ様でしたぁ♡」
そう言って、勇者の左腕に抱き着いたのは、青髪ミディアムボブの女の子、二ノ国の宮廷魔術師、フワワ。その絹のように滑らかな胸が勇者の左腕に押し付けられます。やっぱりわざとです。服越しに腕を谷間に挟み込んでます。
「ルーク様、お怪我はしておりませんか? わたくし、心配で……」
そう言って、勇者の背後から腕を回してそっと抱き着いたのは、金髪ストレートロングの女の子、三ノ国の聖女、プルル。その極上の柔らかさを持つ胸が勇者の背中に押し付けられます。だからわざとですって。勇者の背中でおっぱい圧し潰してます。
揃いも揃って美少女ばかり。
勇者に想いを寄せる顔をしています。
みんな、胸元を開け、谷間を強調する服を着ています。おっぱい、見せてます。
女の子たちはそれぞれの国から、勇者パーティに参加するよう命令されている、言わばその国の代表でした。
みんな、その国一番の実力者です。
だから、みんなおっぱいが大きいのです。
この大陸では、おっぱいに詰め込まれているのは魔力だと信じられています。
だから、おっぱいが大きければ大きいほど、強力な魔法使いという証なのです。
つまり、女の子たちはみんな、それぞれの国一番のおっぱいの持ち主なのです!
「いや、今日も勝てたのはみんなのおかげだよ。ありがとう」
右からおっぱい。左からおっぱい。後ろからおっぱい。
そんな状態だというのに、勇者ルークは爽やかな笑顔を浮かべ、それぞれの目を見て、それぞれからそっ……と距離を取ります。なんて嫌味のない行動なのでしょう。そんなことをされてはそれ以上(おっぱいで)押すことができなくなってしまいます。
「みんなの魔法があるから、僕はああやって防御に専念することができるんだ」
勇者以外、全員魔法使い。前衛一人に後衛三人という、バランスに問題がありすぎるパーティでここまでやってこれたのは、ひとえに勇者がひたすら防御に専念して敵を引きつけ、魔法の詠唱時間を稼いでいるおかげなのです。
もちろん、女の子たちみんな、パーティのバランスがおかしいことには気が付いています。
しかしそれを言い出して、自分がパーティを抜ける羽目になったら……? と、考えると怖くて言い出せないのです。
「さて、明日も早いしそろそろ僕は寝るよ。みんな、おやすみ」
「あ、うん……おやすみ、ルーク」
「はぁい♡ おやすみなさぁい♡」
「おやすみなさいませ、ルーク様」
ルークは女の子たちのおっぱいには目もくれず、一人、あてがわれた寝室へ帰っていきました。
勇者を見送り、その姿が完全に見えなくなると、それまで笑顔だった女の子たちは疲れたような顔をしました。
バルコニーに設置してあるテーブルセットにだらしなく腰掛けると、
「はぁ……ほんと、あの勇者どうなってんの……」とポイン。
「マジわけわかんねぇ……童貞のくせに……」とフワワ。
「まぁまぁお二人とも、お茶をどうぞ……」とプルル。
みんなで仲良く、一斉に深い深いため息を吐きました。
そこにはもはや、勇者に媚を売っていた姿はありません。
勇者を篭絡し、己の国の陣営へと引き入れること。
それが、彼女たちに各国上層部から下されていた、密命です。
ですが、いつまで経っても自身の目的が果たせず、女の子たちは焦っていました。
元々、一ノ国、二ノ国、三ノ国は、この大陸の覇権を争う、敵国同士でした。
しかし、北の大陸から攻めてきた魔王軍により四ノ国が支配されたことを受け、一時休戦。時を同じくして現れた、聖剣を引き抜いた勇者に、各国一番の実力者で協力すること、もちろん魔王を倒すまで、という条件で同盟を結びました。
もっとも、そんなのは仮初の同盟です。
各国上層部は篭絡した勇者を用いて、魔王打倒後の世界で覇権を得ようと企んだのです。
だから、パーティの構成など全く考えず、美少女で巨乳の彼女たちを選びました。
勇者といえど若い男性。若くてかわいい女の子、しかもおっきいおっぱいの前には無力だろう、という考えです。
しかし、これまで彼女たちがあの手この手を用いても、勇者の股の間の聖剣はピクリとも反応しませんでした。
――浴場で偶然を装い、裸で遭遇してみたり。
――酔ったふりをして、全力で誘ってみたり。
――最終手段、夜這いをかけて握ってみたり。
けれど、そこまでしても、勇者はいつも爽やかでした。
「やっぱりさぁ……勇者ってそっちの人なんじゃない?」
「あー、男の方が好き? みたいな?」
「確かに、そう考えれば合点がいきますわ……」
最初は他の国の女の子を出し抜いて、自分こそが勇者を篭絡するんだ! という気概を見せていた彼女たちも、今ではすっかり意気消沈してしまいました。
それどころか、誰が何をどうしても反応しない勇者に同じく色仕掛けをする仲間として、妙な絆が芽生えていました。
他国を出し抜くためには一人で誘った方が良いところを、今夜、三人で一斉に勇者へと飛びついたのもそのためです。三人同時ならさすがの勇者も――そんな思いが三人にはありました。
しかし、残念ながら、その目論見は外れてしまいました。
「なんか、自信なくしちゃうなぁ……」
「だよねー……」
「わたくし、自惚れていましたわ……」
国に帰れば、その美貌とおっぱいで民衆を虜にする彼女たちが落とせない勇者。
その、ある意味魔王より手強い相手の顔を思い浮かべて、彼女たちはまた、一斉にため息を吐くのでした。
――――――――――――
寝室に戻った勇者は、ベッドにごろんと寝転がると、ため息を吐きました。
その原因は、パーティメンバーの女の子たちのことです。
勇者は武力はもちろんのこと、知力においても優れていました。
各国上層部の企みなど、お見通しだったのです。
それ故、特定の女の子と必要以上に仲良くならないよう、注意を払っていました。
自分が特定の国に引き入れられることがあれば、残りの国の女の子が国に帰った後どんな目に遭うかわからない。
それが心配でした。
それに、国からの命とはいえ、好きでもない男に抱かれようとする彼女たち自身が不憫でなりません。
勇者は女の子たちの身を気に掛ける、心優しい青年だったのです。
もちろん、勇者とて男の子。誘いをかけられて嬉しくないわけがありません。
ですが、彼がいつも涼しい顔をしていられるのは――
「はぁ……」
ごろん、と寝返りを打って、もう一度、勇者はため息を吐きました。
女の子たちのこともそうですが、もう一つ勇者には悩みの種がありました。
パーティ構成です。
各国、構成など二の次、色仕掛けのために巨乳を選んだせいで、自分以外は魔法使いという歪なパーティになってしまいました。もちろん、今の女の子たちに不満はありません。彼女たちが素晴らしい魔力を誇る魔法使いであることは、勇者自身わかっています。その魔法に助けられたことは一度や二度ではありませんでした。
それでも、勇者は常々思っていました。
魔力が少なくても、素早い身のこなしの武道家とか。
魔力が少なくても、百発百中、鷹の目の弓使いとか。
魔力が少なくても、華麗な剣技で敵を斬る剣士とか。
「そういう子が欲しかったなぁ……」
パーティ構成を考えれば、その方がずっと良いのです。
今よりずっと戦いが楽になることでしょう。
それに、一人くらい魔力が少ない女の子がいてもいいと思うのです。
もちろん、もしそんな女の子がパーティにいたとしても、他の女の子たちと同様に、仲を深めるわけにはいかないのですが。
でも、妄想するだけなら。
勇者は、そんな女の子と共に旅することを妄想して、目を閉じました。
また寝返りを打って仰向けになった勇者の、その逞しい聖剣は天を突いていました。
――そう、勇者は貧乳が好きだったのです……!
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