骨“盗”品屋! 村雨与一

@tetsujikoide0923

第1話 純白の小箱 ~依頼~

「社長、お疲れ様でした。お先に失礼します。」


「ハイ。お疲れ様。気をつけてね。」


麗子は笑顔で従業員を送り出し、ショーウインドウの電気を消した。

ふぅ~っと息を吐きながら、エレベーターに乗り込んだ。

好景気の影響なのか最近はアンティークの売れ行きが好調だ。

最近は休む暇も無く商談が続いている。最上階に進むエレベーターの中で、

ふと、九十九里の長閑な風景が瞼の裏に浮かんでいた。

自分のデスクにゆっくりと座り、ふとPCのモニターに目を向けた。

メールが届いている。

私には仕事しかないからと思いながら受信トレイを開いてみる。

ふと、一件のメールに目が留まった。どうやら、仕事の依頼のようだ。

いつもの仕事じゃない。骨“盗”品屋宛への依頼メール。

麗子は携帯で徹の携帯電話をコールしていた。


「はぁ~、おはよう!ってなんだよ!

 急に仕事だからって呼び出しやがって。で、どんな仕事なんだ?」


徹の腕時計は、午後4時を指していた。九十九里の片田舎から銀座まで。

ちょっとした小旅行だ。徹はボサボサの頭を掻きながら、麗子のオフィスに

入ってきた。応接用のテーブルの上には、純白の小箱が置かれている。


「あら!約束時間ジャストに到着なんて、ビックリ!

 てっきり、午後10時過ぎに来るかと思ってたわ。

 ちょっと、其処に座って待っていて。こっちの仕事を終わらせちゃうから。」


麗子はデスクのPCモニターから顔を覗かせて、軽く返事をした。

徹はいつも通りの対応だと思いながら、オールレザーのソファーに深々と座った。

その視線には純白の小箱が入っている。麗子にしては趣味の合わない箱だなと

思いながら眺めていると、麗子がすっと、メールの内容が印刷されている

A4用紙を目の前に差し出した。


「その小箱に関する依頼よ。

 今回は、骨“盗”品屋への依頼と言うより、“運び屋”の依頼と

 言った所かしら?

 でも、妙な条件が設定されているのが引っかかるのよね~。」


と言いながら、徹の真正面のソファーにゆっくりと座った。

「確かに妙な条件を設定してきているな。」と言いながら、

徹はそのA4用紙をテーブルの上に置いた。その条件とは、


1、五十嵐徹と桜麗子の2人で指定する場所まで搬送する事

2、決して中身を確認しない事

3、搬送は、こちらが指示してから開始する事

4、報酬は手付けで200万円。残りは受け渡しが終了するまで実行しない。


徹は天井を眺めながら、組んでいる足で小刻みにリズムを取りながら

考え込んでいる。麗子はその姿を見ながら、やはり危険な仕事なのではないかと

言う思いが大きくなっていくのを感じていた。

ふと、麗子の方に目線を向けながら、


「で、搬送の指示は何時に来る事になっているんだ?」


「明日の16:00にメールで指示をくれる事になっているの。」


「じゃ、明日まで待つしかないな。とりあえず手付金は振り込まれいるんだから

 仕事を請けない訳にはいかない。やってみますかね!じゃ、俺はこのまま銀座に

 繰り出してくるよ。久しぶりだし。」



そう言うと、徹はスッと立ち上がりスタスタとエレベーターへ向かって歩き出した。


「ちょっと、呑みに行くのは良いけど、指定の時間までには此処へ戻って来てよ!」


分かっているよと言わんばかりに後ろ手で手を振りながらオフィスを出て行った。

麗子は、徹の後姿を見送ってからふと、純白の小箱に目を落とした。


「久しぶりに会ったのに・・・。しょうがないか。」


と彼女らしくない言葉をこぼしながらソファーに座り込んでいた。

徹はエレベーターの中で思い返していた。

麗子のオフィスに貼ってあったカレンダーを。そのカレンダーは

紅葉で真っ赤に染まった山々の姿と共に10月の日程を示していた。

「まさかな・・・。」という独り言を呟きながら、夜のネオンが煌く

銀座の町並みの中に消えていった。


その徹の後姿をビルの隙間からジッと見つめている、

トレンチコートの後姿が波乱の幕開けを物語っていた。

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