第2話 僕らは仕事にありつきたい。

問題 建物三階部分から、人間が落ちたらどうなるでしょうか。

答え 運が良くて大怪我、下手すれば死亡。


 だけど、世の中には例外ってものがいる。


 地面に難なく着地したルフは何も問題がなかったようで、いまだやかましい公衆電話に走り寄り受話器を取った。


「……マジかよ。ここ3階だぜ?」


 一体どこで身につけてきたのか、彼女の特性はこの身体能力の高さの一言に尽きる。一見ひ弱にすら見える、剛性とは無縁のルックスで、見ている方がハラハラするほどのバランス芸だの落下芸だのを、彼女は時折予測もしないようなタイミングで披露することがある。おかげで周囲の人間も慣れたとはいえまだまだ度肝を抜かれることが多い。

 ああ、だから空気抵抗(胸)が少ない体の構造になっているのか。などと思ったことは一度や二度ではないのだが、おそらく言った瞬間確実に人生の強制エンディングになるのは想像に難くないので、タクヒはまだそれをルフに言ったことはない。まだ死にたくはない。


「ルフは今日も元気だねぇ」


そんなルフの朝飯前の曲芸落下にしばし気を取られていたタクヒの真後ろから突如、ほんわか緊張感のない声が降ってきた。


「うおわっ!」


反射的にタクヒが後ろを振り向くと、すこし色素の薄い髪の羊の様なぽわぽわ頭があった。柔らかな笑顔の少年が立っている。


「うっわビックリした! 嘉一っお前いつからそこに居た!?」

「おはよ~、僕も元気だよ」

「……しかも会話する気、ゼロだろ」


 嘉一と呼ばれたこのぽわぽわした少年は、ふわふわした見た目と同じように性格もふわふわしている。一緒に過ごしていても、若干世間知らずなところがあり、たまに何を言っているのか解らない事があるのが難点だ、とタクヒとルフは思っている。

 タクヒやルフとたまに話が合わない事がある。単純にマイペースと呼ぶべきなのか、それとも実は相当大物な器の持ち主で、多少の話のかみ合わなさくらいならさして問題とは見ていないのか、あるいはそのどちらもなのか。しかし一応共同の生活をするうえでは、せめて会話のキャッチボールくらいはしてほしい、とタクヒはたまに思うのである。そんなわけで会話のゲートボールかゴルフボールの状態は二人とも頭を悩ませている。


「でも、電話が鳴るなんて久しいなぁ」

「あ? お前ら電話って言ってるけど、アレってどう見ても・・・」


 疑問を口にしようとしたその時、階下から二人を呼ぶ声がした。どうやらルフが電話相手との会話を終えたらしい。


「おーい! 二人ともー」


タクヒと嘉一が窓から下へと顔をのぞかせると、コンクリートの舗装道路に立つルフが彼らを見上げ、満面の笑みで手を振っていた。


「急いで、お仕事の依頼だよ!」

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