うたかたの歌

川澄華人

第1話 キャット・イン・ザ・ブルー

サッカーチームのユニフォームのような鮮やかな青。その青さを妨げる色はなく、空はにこやかだった。柔らかで優しい風が頰を撫でた。


いつも通る駅までの道。趣のある老舗の和菓子屋があるぐらいで、面白味のない道を僕はダラダラと歩いていた。早足のサラリーマンに追い抜かれた。女子大生にも追い抜かれた、ショートブーツがコツコツと小気味よい音を立てていた。平日の朝。


引き返そうか。今までずっと真面目にやってきたし、今日ぐらい休んでもいいのでは。でも、僕が休めばその負担は誰かに掛かる。そもそも休む理由は?今日は天気が良いし、趣味の神社巡り日和だから。そんな風に言ってみたらどうなるかな。結果は見えてる。


俯きながら歩いていると、小さな鳴き声が耳についた。右手にいけ好かない車ばかり止まっている駐車場があり、鳴き声はそちらから聞こえた。鳴き声は連続したかと思えば止まったり、間が空いたと思えばひときわ大きくなったりした。少しためらったが、声の方に足が向いた。


車の下を覗くと、もう一台奥の車のタイヤの影に、なにか小刻みに震えているものが見えた。奥の車に近づき、腰を屈めた。子猫がいた。柄は茶白で、こちらの方は全く見ずに何かを求めるように鳴き続けていた。


子猫を抱き上げ目を見つめると、子猫もこちらを見て小さく鳴いた。性別を見極めようと空に掲げた。子猫は手足をバタつかせ空を泳いでいるようだった。鮮やかな青色を背景に子猫は柔らかな日差しを受けた。キャット・イン・ザ・ブルー。僕はなんとなくそう呟いた。


キャット・イン・ザ・ブルー










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