呪いを解く方法


「話はだいたい分かったよ。さっきはごめんなさい、ルーニアさん」

「そんな、謝るべきなのは私の方です。それに私は、決して赦されるべきではない。テンイ様のした事は当然の事で……」


 ルーニアさんはとても申し訳なさそうに謝罪するけど、それはもう終わった話だ。

過去に起きた事だって不可抗力だった訳だしね。


 なんだ、やっぱりシスターさんは僕の見てきたシスターさんだったじゃないか。

こんな過酷な人生を歩んでいながらそれを受け入れるなんて、普通はとてもできることじゃない。


 徳が高すぎて夜だというのに輝いて見えるよ。

うっ、眩しい。


「はいはいはーい! それではお互い謝罪も終えた所で、今後の議題に移りたいと思いまーす!」

「そうだね、それが重要だ」


 ここで大事なのは第一にリリーちゃんの呪いを解呪すること、もしくは無力化することだ。

他にもこの世界で暗躍する魔族やルーニアさんの立場だとか色々あるけど、まずは呪いの件が最初だろう。


「それについてなのですが、伝承では英霊アンナ様は魔法解析の達人であり、この世のどんな魔法式も解いてしまう超越者だと後の世に伝わっております。どうかリリーの呪いを解いてはいただけないでしょうか?」

「あ、ああ~。あれね~。うんうん、安奈ちゃんもそうしたいところなんだけどぉ~……」


 それは現状、無理な相談だ。

安奈さんが魔法解析の達人であることとかは全て正しい情報なのだけど、その超越的な演算能力を以ってしてもあの呪いは解けない。


 期待に目を輝かせているルーニアさんには悪いけど、正直に言うしかないだろう。


「それは無理な相談ですルーニアさん。あの呪いを受けた直後であれば、いやあと50年早ければすぐにでも解呪できたかもしれませんが、現状では複雑になり過ぎて無理なんです」

「そ、そんな……。それではリリーは!? リリーはどうなってしまうのですか!? 英霊様!!」


 死の宣告ともとれる僕の発言に取り乱してしまうルーニアさんだけど、当然僕もこのまま終わるつもりは到底ない。

僕のパートナーが何日もかけてその解析に取り組んだのだ、例え完全な形で呪いを解く突破口が無かったとしても、代替案くらいは用意できているさ。


「とはいえ、このまま何もできない僕らでもない。この先の説明は安奈さんに任せるけど、恐らく呪いをかけた魔族の逆探知とか、この呪いが解けないまでも無力化するくらいの方法は思いついているはずです。……そうですよね、安奈さん」

「もう、なんで先に喋っちゃうんですかテンイさん。せっかく私がドヤ顔を決められるシーンだったのに」


 やはりそうだ、安奈さんには何か考えがある。


「テンイさんの言った無力化について、私の考えた方法は二通りあります。一つは呪いの所有権を別の誰かに移す方法。しかしこれはリスクが大きいです。呪いそのものを駆逐するのではなく、移し替えるだけですから。当然移された方は死に至ります。それに呪いは魂に癒着してしまっているので、リリーちゃんが相当心を許した人間でないと無理でしょう」

「ならば私を! 私の身をお使い下さいアンナ様! 私ならばその条件に当てはまるはずです!」

「まあまあルーニアさん落ち着いて。安奈さんの話を最後まで聞きましょう」


 安奈さんは方法その1までしか語っていない。

ここで決断するのはまだ早計だ。


「二つ目は呪いを発動させるトリガーとなる魔族を殺すことです。恐らくこの呪いをかけた魔族はかなり慎重な性格だったのでしょう。術式が決して自分に向けられないように、そして他人には真似できないように巧妙に発動のトリガーが隠されています。幸い私の解析で魔族の逆探知は可能なので、その魔族さえ殺せればリリーちゃんの呪いが今後発動される事はないはずです」


 ……なるほど、その手があったか。

だけどこの案にも不安要素は付きまとう。


 トリガーを発動させる魔族を殺すということは、少なくとも一度接触しなくてはいけないという事だ。


 そんな事をすればリリーちゃんという弱点を抱えている僕らはすぐに窮地に陥るだろう。

ここまで臆病な魔族相手に、こちらの狙いが何なのか分からないはずがない。


 そいつにとってはリリーちゃんを盾にすることなど朝飯前だろう。


「どうしますか、ルーニアさん」

「…………」


 彼女はしばらく考え込んだ。

一つ目の選択肢を取るか、二つ目をとるか。


 そのどちらにも多大なリスクがある故に、すぐには決められないだろう。

……そう思ったのだけど、僕の予想は裏切られることとなる。


「であれば、リリーの呪いを私に移植した上で魔族を殺しましょう。その方法が最も確実です」

「なっ!?」


 僕はその選択に驚き、声をあげた。

だってそれリスクが全てルーニアさんに向けられるよね!?


 いや、だからこそなのだろうか。

仮にリリーちゃんのリスクを無くすために1つ目の方法を取った場合、どうせ彼女は放っておいても死んでしまうのだ。


 であるならば、自分にとっても魔族を殺すという希望が残されていた方が意味のある選択ではある。


 まさかこの土壇場で第三の選択肢を取って来るとは思いもよらなかったよ。


「あらあら、ふふふ。テンイ様でも驚く事があのですね。これは珍しいお顔が見られました」

「参ったな、これは一本取られたよ」

「ええ、例え貴方様が相手だとしても、一本でも二本でも取ってみせます。私の願いのためですから」


 懐かしいセリフだ、デジャヴを感じる。

こんな事を戦争に赴く前のグランくんも言ってたっけな。


 覚悟の決まった人間というのは、こうも芯が強いものなのだろうか。


「むふーっ! テンイさんを驚かせるとはやりますねルーニアさん。良いライバルになれそうです。では方向性も決まったということで、私は少々準備に取り掛かります。絶対に成功させてみせますから、期待して待っていてくださいね!」

「はい、宜しくお願いします英霊アンナ様」


 そうして僕たちの話し合いは終わり、リリーちゃんを助けるための作戦を実行に移すこととなった。


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