時を越えた英雄の章・その2
150年後の未来
「やーいやーい! リリーの泣き虫ー!」
「私は泣いてない!」
「わー!? 嘘つき魔女が怒ったぞー! みんな逃げろー!」
「ちがうもん、全部の本当の事だもん! 私は嘘なんていってない!」
これはどういう事だろうか?
目が覚めたらいつもの天空城ではなく、地球では見た事もないような外国のド田舎だった。
いや天空城のオフィスに戻っていないということは異世界である事には変わりはないと思うのだけど、それにしたって状況が読めない。
ちなみにまだ体は霊体のままで、逃げて行ったいじめっ子にも、目の前でいじめられている女の子にも僕の存在は認知されていないようだ。
……はて?
『はっはーん、そういう事ですか』
『何か分かったの安奈さん』
『これはアレですよ、アレ! この異世界の次の召喚主に呼び寄せられたのですよ!』
『ああー、そういう事かぁ』
なるほど、それならば辻褄が合う。
確かこの仕事を受ける前に神様は、「上手く行けば1回で済むかもしれないし、やっぱり2回も3回もお願いを叶えてあげなきゃいけないかもしれない」といっていた。
それで今回は2回目のケースに当てはまったと、そういう事なのだろう。
『ですがそうなると今回の依頼主はあの少女という事になりますね。まだ5歳くらいの女の子に見えますが、なんだか可哀そう』
確かに可愛そうではある。
彼女が何をしたのか知らないけど、5歳の女の子に寄ってたかって泣き虫だの嘘つきだの、男子の風上にも置けない最低な行為だ。
しかし閉鎖的な田舎村ではよくある話だし、何より彼女の状況がいまいち掴めない。
ここで行動を起こすのは早計だろう。
『ともかく様子を見よう。何かするのはそれからでも遅くはないと思うよ』
『そうですね。ここがどこなのかも分かりませんし、グランくんの例もありますから調査は念入りにしましょう』
そういう事だね。
すると僕たちが話し合っている間に女の子は泣き止み、とぼとぼと家路についた。
しかし予想に反して向かった先は小さな教会のような建物で、とてもじゃないけど自宅には見えない。
もしかしてお祈りかな?
それともまさか、本当にここが彼女の自宅なのだろうか。
「あらあら、リリーちゃんまた泣いてるの?」
「泣いてません」
「こら、めっ、です! 嘘はダメよ、それでは本当に誰もあなたの事を信じなくなってしまうわ。悲しい時は泣いて当たり前なんだから、何も恥じることなんてないの」
「うっ、ごめんなさい……」
「はい。よくできましたね」
教会からめちゃくちゃ徳を積んでそうな美人シスターさんが出て来た。
顔や髪の特徴が違うからお母さんという事はないだろうけど、親しげなところを見るにいつも彼女の面倒をみてくれているのだろうと察せる。
『むぅぅううう! 何を見惚れてるんですか!? この安奈ちゃんという美少女が傍にいながら! くらえお仕置きのノイズパニッシャー!!』
『あっ! ちょ! 誤解だって! 念力でノイズ送りつけないで! なにこれ新手のウイルス!?』
『ふん!』
別に何もしていないのにこの仕打ち!
怖い、安奈ちゃん怖すぎる。
人畜無害なはずのテレパシーで攻撃するとか発想が凶悪すぎるよ。
「でもシスターさま、みんなおかしいんです。私のご先祖さまはすごい英雄なんだって言っても、誰も信じてくれないんです。お父さんとお母さんは本当だって言ってたのに……」
「あらあら、またそれでいじめられてたのね……。でもそれは仕方ないわ」
「そんな、シスターさまも信じてないんですか!?」
……ふむ、先祖が英雄?
うーん、何かが引っかかるような気がする。
もう少しで答えに辿り着けるような、そんな感じだ。
それにこのリリーちゃん、どこかで見た事のある顔なんだよね。
「いいえ。私は信じてるわ。リリーちゃんの事はなんでも信じてます。でもリリーちゃんの事を何も知らない他人を信じさせるには、その人たちが信じるに値すると感じる根拠がなくてはいけないの。それは付き合いの長さだったり、普段の誠実さだったり、すごい特技だったり、色々よ」
「うぅ、むずかしい……」
さすがに5歳には難しい話だったようで、困った顔をしてうむむと唸る。
だけどシスターさんはそれを理解しながらも、尚話を続けた。
「ふふふ。まだこの話は早かったかしら? でも覚えておいて。きっとあなたの誇りであるご先祖様も、最初は誰にも信じてもらえなかったはずよ。それでもめげずに努力して、力と信頼を勝ちとって、成し遂げて。色んな事を乗り越えてきたその最後に、救国の大英雄グランって呼ばれるようになったの」
「む、むずかしいけど、わかりました! 私まだまだ頑張ります!」
「えらいえらい」
その話を聞き終えた時、僕は衝撃を受けていた。
『救国の大英雄、グラン……』
『あわわわわ!? それじゃ何ですか、ここはグランくんと別れてからずっと先の未来っていう事ですか!?』
『たぶん、いやそうとしか考えられないね』
そうか、そういう事か。
だからリリーちゃんから彼の面影を感じたんだ。
よくよく見れば物凄く似ている。
そう思うと不思議な事に、そのままミニチュア女の子版グランくんにしか見えなくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます