閑話の章
閑話 新しい仲間
少しだけ進んだ科学力を持つ日本、そんな異世界で2回目の仕事を終えた僕は、天空城のオフィスに戻って来た。
僕の予想が正しければ、仕事の報酬として受け取った高瀬さんがオフィスのどこかにいるはずだ。
……しかし、周りを見渡しても特にいつもと変わった点は見受けられない。
社長椅子にぽつんと、神様が座っているだけだ。
「も、もしかして失敗した……?」
嫌な汗が流れる。
「何がだい、武藤天伊くん?」
「か、神様!彼女は、高瀬さんはいったい!?確か報酬として受け取ったはずじゃあっ!」
大変無礼だとは思いながらも、焦りとショックによって頭が真っ白に染まってしまった僕は、神様に掴みかかる。
だが当の神様は平然とした顔で受け流し、まるで動じていない様子だ。
おかしい、僕があの世界で何をやっていたか、この人が知らないはずないのに……!!
そして相も変わらず平然としていた神様は、スッと指をお願いタブレットの方へ向け、僕にその起動を促した。
……どういう意味だろうか。
取り乱した僕はなんとか震える手を神様から離し、とりあえず言われた通りにしてみる。
「……ぷふっ」
「……?」
タブレットを起動すると、何やら女性の吹き出す声が聞こえて来た。
この声、どこかで聞いたことあるような。
すると、突然お願いタブレットに大画面でお腹を抱えて笑い転げている女性が表示され、悶絶している様子が映し出された。
こ、この見覚えのある女神のようなアバターは、……まさか!!
「ぷふふふぅっ!!……あっははははははっ!あ、焦り過ぎですよテンイさん、ふひっ!そんなに私の事が心配でしたか?あ、ありがとうございます、ぶふぅ!!」
「だ、騙された!?」
「あははははははっ!!」
よく見ると、神様の口元もヒクついており、笑いを堪えているのが丸わかりである。
なんて人達だ、僕が本気で心配していたっていうのに!!
性質が悪すぎる!
「ぷっ。い、いやぁ、ごめんごめん!許してくれよ天伊くん、僕と君の仲じゃないか。ちょっとした神様のお茶目って奴だよ、そんなに睨まないで」
「お茶目にしては悪質すぎますよ!」
「分かった、分かった!お詫びに今回の報酬にも色を付けておくからさ?それで勘弁してくれ」
そういって神様はニヤリと笑い、僕を説得する。
まったく、報酬で人を釣るなんてとんだ神様だ。
だけどその報酬は今後の仕事でも必ず必要となって来るであろう物なので、有難く頂戴する。
「はぁぁぁ……、仕方ないですね」
「やぁさすが天伊くん、心が広い」
「よっ、さすが私の救世主さま!」
神様と同じ感じで高瀬さんが囃し立てて来るが、まあなにはともあれ成功したみたいなので良かった。
「とにかく、これで一件落着かな」
「そうだね、確かに一件落着といった所だ。君のおかげで彼女に囚われていたゲームの被害者も復活したし、結果的には死人が一人も出なかったみたいだしね」
「そうなんですか?」
「まあ、そうなるね」
その後神様から聞いた話によると、あのゲームでの死亡者、ようするにゲームオーバーになった人たちは一時的に脳信号を高瀬さんにブロックされ、傍から見ると脳死状態のようになっていたそうだ。
しかしそれは見た目だけの話であり、彼女がゲームを終わらせると同時に信号のブロックも解除され、いままで眠っていた被害者たちはそのまま目を覚ます事に成功したらしい。
「とんでもない技術力ですね、あの日本は……」
「ふっふっふ、それほどでもないですよ」
「ちなみに、彼女の父である高瀬亮さんなんだけどね、あの後はAIを暴走させてしまった罪に問われて裁判沙汰になったんだ。しかしまあ、あくまでも予測不能な事故である上に死亡者も出なかったという事で、軽い罪で済んだみたいだよ」
神様はウインクし、僕に笑顔を見せる。
……ああ、そうか。
おそらくだけど、神様が何かしらの細工をしてくれたのだろう。
さすがと言うべきか、本当に恐れ入るよ。
「ありがとうございます、神様」
「いやいや、とんでもない。社員の心をケアするのも、社長の務めだからね。なにせ彼女はこれから天伊くんの部下となり、君の手足となって働いてもらう予定なんだから」
「はーい!まっかせて下さい!じゃんじゃんサポートしますよー、高瀬安奈ちゃんの力をご覧あれ!」
そういって高瀬さんはタブレットの中で握り拳をつくり、僕にアピールする。
なるほど、これからは彼女と一緒に依頼を受けるようになると言う訳だ。
確かにこれ以上ない助っ人だろう。
もしかしたらと思って、僕も同じ提案を考えていたんだけど、それも神様には見透かされていたらしい。
「まあ、とにかくお疲れ様。明日は休日だから今日のところは一旦帰宅するといいよ。我が天空城は週休二日制だからね、ゆっくり休むと良い」
「はい」
確かに土日に出勤してたら妹に怪しまれるしね。
「あ、新人の安奈さんには稼働テストを兼ねて、色々とやってもらう事があるから覚悟しておいてね」
「ええーっ!?」
「当然さ、働かざる者食うべからずってね!」
そんな二人の賑やかな声を背景に、僕は初出勤を終えて家族の待つ家へと帰宅するのであった。
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