攻略最前線
このVR空間にフルダイブしてから三ヶ月程の月日が流れた。
既に僕のキャラクターレベルは67となり、このFNO世界を基準にしたら無名ながらもトッププレイヤーに数えられる程の実力になっていた。
なぜ無名なのかといえば、それは僕があまりにもパーティーを組むことがないからだ。
基本的に自力の魔法とゲームコマンドとしての魔法スキル、そして体術と剣術の加護に体が慣れて来た事で適正レベル帯には敵がおらず、ソロで十分な経験値を稼げている。
よって必要性を感じないまま黙々とモンスターを倒していたら、いつのまにかこのレベル帯になっていたという訳だ。
また、戦闘で魔力を酷使し続けた影響か、最近その制御能力が本格的に魔法使いのそれになってきていて、いまなら大魔法使いクロード・ウォン・グリモアの弟子だと胸を張って言える。
それに世界最高の魔法使いの授業を受けていた関係で、魔法の知識や理論だけは馬鹿みたいに詰め込んでいるのだ。
いままではその知識を発揮するだけの制御能力と必要な魔力量が足りなくて断念していたけど、その問題が解決しつつある今ならば、より多くの魔法が使えるだろう。
「それにしても、三ヶ月か……」
この三ヶ月間、色々な動きがあった。
それこそ無法地帯と化したこのVR空間でPK集団のような存在が横行した事もあるし、高レベルプレイヤー同士が強力しあってその撃退をした事もある。
かと思えばとあるプレイヤーが初心者支援ギルドを立ち上げ、自分達がゲーム攻略に失敗した時のために保険をかけていたりする事もあった。
良い人もいれば、悪い人もいるといった具合だ。
人間の僕が言うのもなんだけど、本当に人間というのは奥が深い。
そうして今までの出来事を振り返っていると、最高級の装備品で身を固めた剣士がこちらへ近づいてきた。
あの不敵な感じ、相変わらずだなぁ~。
「よお、久しぶりだなテンイ。そう辛気臭い顔するなよ、せっかくこうしてFNOのトッププレイヤー達が集まっているんだ。もっと楽しもうぜ」
「いやいや、十分楽しんでいるよクドウさん。ちょっと感慨に耽っていただけ」
そう、最高級装備の剣士ことクドウさんは、プレイ初日に知り合い決闘を行ったあの天才さんだ。
彼とはいままでも何回か狩りフィールドでバッティングする事があったため、ソロで活動している僕にしては珍しく、結構仲良くなったプレイヤーの一人である。
お互いに貪欲にモンスターを狩り続けた結果、同じようなレベル帯で戦闘をする事が多かった。
レベルが同じなら狩りに利用する戦闘フィールドも似たり寄ったりになるので、バッティングするのも仕方なしという感じだ。
ただ、クドウさんは僕とは違う点が一つある。
確かに基本的には同じくソロなのだが、その、なんというか、悔しい事に彼はめちゃくちゃモテるのだ。
それこそ女性プレイヤーの窮地に颯爽と現れ、タイミングよく救出するなんてこともしばしば。
そのおかげで知り合った女の子の人数が大変な事になり、巷ではハレームキングなどと噂されている。
現に今も、彼の隣で僕を睨みつけるような目つきでこちらを観察する、女性のトッププレイヤーを引き連れているようだ。
なんとも羨ましい限りである。
「ねえクドウ、本当にこの男があなたに匹敵するほどのプレイヤーなの?テンイなんて聞いたこともないプレイヤー名だし、魔法職なのに剣を装備してるなんて頭がおかしいわよ。戦闘を舐めているとしか思えない」
「そう言うなよユウ。何度も言うが実力は俺が保証する、間違いない。今回のボス攻略にはどうしてもテンイの力が必要だと思っているんだ」
「ふーん……」
僕を訝し気に見るユウさんはまだ納得していない様子だけど、まあ無名なのは仕方ない。
実際プレイヤーと関わる事はあまりなかったし。
ちなみにクドウさんの言うボスについてだけど、今回はそのボスを討伐するためだけにトッププレイヤーが数多く声を掛けられ、集められた。
攻略に繋がる糸口になるかもしれないという事なので、周りのプレイヤーもやる気が目に見えて充実しているようだ。
なんでも一度ボスに挑み失敗し逃げ帰って来たプレイヤー達によると、不自然なほどに受け答えが流暢な巨大な人型モンスターがボスを召喚し、倒せたならゲームクリアのヒントを教えてやると話かけて来たのだという。
確かに怪しい。
一般のプレイヤーからすれば攻略の糸口を発見したと言っても過言ではないだろう。
やる気になるのも分かるというものだ。
しかしそれを聞いた時、僕は別の方向で頭を働かせていた。
なにを隠そう開発者から直々にFNOの説明を受けていた僕は、あの人型モンスターがAI高瀬安奈さん本人だと認識できていたからだ。
故に今回のボス攻略はこのトッププレイヤー達に任せ、僕個人としては高瀬安奈さんの説得に動く事にした。
通常の手段での対話は望めないが、一度でも彼女が現れその魔力を感知する事ができれば、あとは強制的にテレパシーを飛ばすことでなんとでもなるだろう、と思っている。
失敗したらその時はその時だ。
幸いこの世界には魔法が無いので、彼女が魔法に抵抗する事は不可能なはずである。
そう覚悟を決めた僕は立ち上がり、いつでもテレパシーの魔法が使えるように準備を行うのであった。
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