プレイヤーキラー


 その日、レベル上げを終えた僕は町フィールドに戻り自分のステータスを確認していた。


 現在のレベルは7、目に見えるだけの初期モンスターを狩り続けた成果がこれだ。

まだサービス開始間もない次期でこのレベルなら、おおよそ中堅といっても差し支えないレベルだろう。


 デスゲームだからこそ皆慎重に行動し、最初のうちはレベル上げや狩りにおいて効率的には動けないのだけど、僕の場合はスキルの加護と本物の魔法というアドバンテージがあるため、その枠組みに当てはまらなかったのだ。


 この二つのアドバンテージがある事で、適正レベル帯のモンスターは相手にならないし、しかもソロでの活動。

パーティーでの経験値分配もなく独り占めできるため、もの凄い速度で成長した。


「覚えた魔法は、初期魔法のファイアと、レベル5で習得できたクロップアップⅠか……」


 ファイアは相手に小さな火をぶつける魔法で、クロックアップは自分の素早さを若干上昇させる魔法だ。

クロックアップにⅠがついているという事は、そのうちⅡとかⅢとかになって効果が強力なものに変わっていくのだろう。


 実際に使ってみた感じ、どちらも僕自身の内包魔力を消費したという感じは受けなかったので、あくまでもキャラクターのMPを代償に発動する攻撃スキルと捉えた方が良さそうだ。


 ちなみにクロードさんから一番最初に教わった魔法である火魔法だが、実際にモンスターにぶつけてみた所、ちゃんと体力ゲージを減らせる事が確認できた。


 ただゲージ減少率は魔力を込めた量に依存するようで、火魔法だとか風魔法だとか、そういった属性や特性によるダメージ変化は見られない。

おそらく、この魔力の宿ったVR空間のシステムに対し、力の塊をぶつける事でデータに負荷がかかり、それをダメージと誤認したシステムが体力を減少させているのだろうと推測する。


 これなら態々魔法として発動させなくとも、攻撃だけなら魔力を放出するだけで体力ゲージを減らせそうだ。

魔法の勉強にはならないけど、属性を選ばずダメージ量を調整できる魔力攻撃は力の制御の訓練にもなるので、積極的に使って行こうと思う。


 他人に使っている所がバレたら、いつの間にか条件を満たし習得できた隠しスキルだと偽るつもりだ。


 そして考察を終え納得した僕は体力ゲージの回復のため、NPCが運営するポーション売り場へと足を運んだ。


 宿に一定の時間滞在する事でも体力の回復は出来るのだが、その方法では時間のロスが激しい。

幸いモンスターを殲滅し続けた事でゴールドの方には余裕があるために、即効性のあるポーションの方を選択する事にしたのだ。


「うへえ、このポーション一本で今日の稼ぎの2割が消し飛ぶよ」


 寝る間も惜しんで夜にもレベル上げを行う予定ではあるけど、それにしても高い。

念のためもう一本予備を用意しておくが、少し落ち着いたらちゃんと宿で休もうと決意する。


「まいどあり~」

「はぁ……、とんだボッタクリだ」


 そして悪意のある値段設定に対して疲弊し、見事な営業スマイルを見せているNPCに呆れていると、チラりと視界の端に人影が映った。


 あ、この人は朝の……。


「……あ」

「……あ」


 向こうも気づいたらしい。

まあ数時間前に会ったばかりだし、明らかに不審な態度だった僕を覚えていても不思議じゃない。


 そう、現れたのはさきほどまでレベル10だった、全身が最新備の剣士さんだ。

既にレベル13まで上がっているらしい。


 というかもう、3レベルも上昇させたんだね。

僕と違ってチートが使える訳でもないだろうに、とんでもないプレイヤーだな。


 あまりのレベル上げ速度に理解が追い付かず、しばらく思考が止まってしまうくらいだ。


「……え~っと、ポーションを買いたいから、どいて欲しいんだけど」

「あ、すみません。今どきます」


 そうだった、ここに来るって言う事は彼も狩り効率を求めてポーションを買いに来たに違いない。

少しでも時間が惜しいだろうに、これは悪い事をしたな。


 それから素早く場所を空けた僕はまた戦闘フィールドに向かおうとするが、退散しようとしたところで後ろから声が掛った。


「あ、ちょっと待ってくれ。君、朝ここらへんで会った人だろ」

「え?ああ、はい。あの時は失礼しました」

「いやいや、それは気にしないで良い。あの後俺もまじまじと見返しちゃったし」


 やはり覚えていたようだ。

しかし僕のマナー違反の事を気にしていた訳じゃないらしいので、少しだけ安心する。


 そして彼はポーションを購入し終えると、こちらを振り返った。


「いや、でも驚いた。最初は見間違えかと思ったけど、やっぱりずいぶんとレベルが上がっている。相当無茶したみたいだ」

「アハハハ……、そ、そうですね」


 まじまじとこちらを観察する彼の目は鋭く、まるで些細な事でも見逃さないと言わんばかりの眼力だった。


 アレ?

なんか僕疑われてる?


「そうですね、……か。いやぁ、やっぱりおかしい。どうしても疑問が残る」

「疑問ですか?」

「そう、疑問だ。寝る間も惜しんでポーションを買い、一日でそこまでレベルを上げるような戦闘狂の君が、なぜ今の今までレベル1だったのかっていう所が。それにこの短時間でここまでの経験値を稼ぐなんていうのは、どう考えても不可能だ。ほら、どう考えてもおかしいだろ?」

「……ッ!!」


 あ、この人めちゃくちゃ頭いいぞ。

ただ別に魔法の事がバレても僕の仕事に影響がある訳じゃないし、仮に魔法では無くシステム的なチートを使っていると思われていても、同じゲームクリアを目指す仲間である事は変わらないんだから良いけども。


 ただ単純に、鋭いなというだけで。


 まあ、とりあえずすっとぼけておこう。


「……どうやら、当たりのようだ」

「さて、何のことやら?」

「まあ、そう来るよな。だが先ほどの疑問に対し、その矛盾を解決する方法は確かにあるんだよ。例えばほら、高レベルプレイヤーとパーティーを組んで、高い経験値を分けてもらうとか、そういうやつ」


 なるほど、確かにそうだ。

疑問点を一瞬で見抜いたばかりか、その解決方法まで一瞬で見出すとは凄いなこの人。


 天才なんじゃないだろうか。


「なるほど」

「そうそう、そういう事。だが残念な事に、現時点では俺よりレベルの高いプレイヤーはまだ居ないし、その俺が今まで倒したモンスターの中に、半日でそこまでの経験値を稼げるような相手はいなかった。ある存在を除いては」

「と、いうと?」


 あれ、なんか空気が怪しくなってきてませんか?

どうしよう、だんだん走って逃げたくなってきた。


 いや、でもそうすると確実に大変な事になる気がする。


「気づいているんだろ、言わせるなよ。一番経験値が高いのは人間だよ、なあ、PKプレイヤーキラー?」

「…………え?」


 瞬間、彼から鋭い殺気のこもった視線が飛んできた。

すごい、VR空間でも殺気って飛ばせるんだね。


 いや、いまはそんな悠長な事を考えてる場合じゃなかった。


 なぜか僕がPK、つまりは他者を故意に攻撃し強制的なゲームオーバーに追い込む人間、人殺しに加担している事になってしまった。


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